杜撰な婚約破棄など全く効きません。倍返しさせていただきます。
「僕は真実の愛を見つけたんだ! 君には愛想が尽きたと言っているんだ!」
宮廷主催の多くの人が集まったパーティーにて。
私、ライラは婚約破棄を突きつけてくる王太子を冷静に見据えていた。
周囲にいる多くの人間がレアン王太子の言葉を聞いて、盛大な拍手を送っている。
私は知り得なかったが、恐らくはもともと婚約破棄を告げると広めていたといったところだろう。こんなテンプレ的な婚約破棄なんて、仕込んでいないとそうそうできない。
私はレアン王太子の背後をちらりと見る。そろそろ、真実の愛を誓った新しい女の子が出てくると思ったからだ。
「ごめんなさい、ライラ様。わたしもレアン王太子を好きになってしまったのです」
案の定、可愛らしい女の子が出てきた。綺麗な金髪に、翡翠色の瞳。だけれど、意地汚いところが表情からも滲み出ている。
きっと、うっかりなレアン王太子がこの女とベッドインしてしまって逃げられなくなったからこのような場を設けたのだろう。
私はレアン王太子の性格を知っているからよく分かっている。
ああ〜……けれど。
なんだか残念だな。
典型的な婚約破棄に、周囲の反応。真実の愛とやらを説いて、新しい女が出てくる。
なんて杜撰なんだ。なんて凡庸なんだ。
私はこういう『杜撰』な物事の進め方や計画が大嫌いなんだ。
前世の話になってしまうが、私は昔から完璧主義者だった。仕事だって計画的に行い、なおかつ目新しさを取り入れ、時代に合わせた求められる企画を出していた。
企画の採用率も高く、社内でも大きく評価されていた。
まあ……一つダメだったところは、無理をしすぎて死んでしまったことくらいだ。
そんな経験があったから、異世界に転生してもベストな学習を行い、効率の良い運動もし、完璧なご令嬢として王太子と婚約を結んだ。
レアン王太子は感情的な面もあり、頭も良いわけではない。けれど、私のキャリアとしては上等だと思っていたのだけれど……。
残念だ。本当に残念だ。
周囲の反応にも苛立ちを覚える。王家からの評価目当ての貴族どもめ。
「分かりました。その婚約破棄、受け入れましょう」
私は華麗に、優雅に頭を下げる。
悲劇のヒロインぶるようなことは、するつもりなんてない。
その婚約破棄は受け入れるが、しかしレアン王太子が望むハッピーエンドには向かわせない。
そんな杜撰な婚約破棄には、しっかりと倍返ししないといけないからだ。
◆
外に出ると、夜の月が綺麗な庭を照らしていた。私はすたすたと歩きながら、小さな池がある場所に向かう。
宮廷内の小池だから、外装も整えられていて、可愛らしい魚が泳いでいる。
「ライラ。大変だったな、外から多少は聞いていた」
狼のような獣の耳を頭に持つ、美しい青年が私の隣に立つ。まあいわばケモ耳のようなもので、少しばかりは可愛らしいと思う。
リズ、それがこのケモ耳青年の名前だ。
「なんてことないわ。婚約破棄も、私の想定の内だから。もちろんいつかはこうなることは分かっていたし、そのためのプランも考えてある」
「承知している。だから俺も、集めておいた」
そう、私はレアン王太子と違って、杜撰ではない。全てのルートを考えて行動していた。私の従僕である、リズとともに。
リズは人間ではない。獣人であり、どちらかと言えば魔族寄りだ。そのため、私は自分の持つ魔法を使って『契約』を行って僕にしているのだ。
彼は諜報活動が得意で、事前にレアン王太子の不祥事を調べ上げて貰っていたのだ。
リズから貰った、写真やメモなどの重大な証拠の数々を眺める。
「違法賭博に、売国行為、果てには数十人にも及ぶ愛人の数々。真実の愛とやらはどこにいってしまったんでしょうね」
私は一息吐いたあと、ちらりとリズを見る。
「よくやったわ。褒めてあげる」
私が手を差し出すと、リズが膝を付く。
リズの頭を撫でてやると、嬉しそうに鼻を鳴らした。やはり狼の獣人ということだけあって、彼は犬に近いな。
犬は飼い主に堅く忠誠を誓う。私にとっては、可愛くて仕方のない。
「新聞社に情報を売るわよ。こういうゴシップは、マスコミに売った方が被害が大きくなる。あとは勝手に民衆が叩いて滅んでいくだけ」
リズは耳を動かしながら、上目遣いで見てくる。
「宮廷の信用は地に落ちるな。さすがはライラだ」
「褒めはいいのよ。さあ、行きましょう」
◆
新聞社に情報を売り、幾数日が経った。私は大勢の民衆に紛れながら、断頭台の上をリズと眺める。
「なんで!! なんで僕が!! どうしてこんなことに!!」
レアン王太子が、涙を滲ませながら叫んでいる。今にもギロチンが落ちてきそうな雰囲気があるのに、よくこんなに叫ぶことができるわね。
ちらりと周囲を見ると、民衆がレアン王太子に罵詈雑言を浴びせている。あれほど楽しそうにしていたのに、随分な失墜だこと。
はあ〜……本当に杜撰だった。
完璧主義な私を納得させるほどの婚約破棄をできなかったからこうなったんだ。
リズがレアン王太子を見ながら呟く。
「喧嘩を売る相手を間違ったな」
「ええ、そうね。リズ。ここから先は見苦しいから、もう行くわよ」
「分かった」
私たちはくるりと踵を返し、歩き始める。
背後からは金属音が鳴り響き、歓声が湧いた。
「あぁ、ほんと杜撰だったわね」
私たちはその一言だけ残して、その場から去った。
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