第三十八話 鎮魂
足利義昭を廃することのメリットその一。
後方から足を引っ張られない。
メリットその二。
信長の精神が昂らない。
メリットその三。
周囲への喧伝効果。
足利将軍の挿げ替えは容易。
* * *
ところで、足利義助は阿波に居た。
足利義助は足利義昭の政敵、十四代将軍・足利義栄の弟なんだが。
既に自力で上洛する力なんてない。
だから、わざわざ迎えに行ったんだけどね。
阿波に行くには海を越えねばならない。
必要になるのは水軍。
淡路や讃岐も味方でない。
強力な水軍が必要だった。
そこで!
紆余曲折を経て完成してた、鉄甲船と、ついでに鉄砲船を投入っ
佐治水軍と九鬼水軍で運用する、現状多分戦国最強船団だ。
コイツで制海権を握り、ついでに淡路を制圧し阿波国に上陸。
抵抗勢力を蹴散らして、足利義助を確保したらすぐ帰還。
淡路国には佐治信方を入れ、四国への橋頭保とした。
摂津と共に、瀬戸内水路の関所の役割も担わせる。
四国征討はまだ先だ。
言っちゃ悪いが、格下だから後回しにしてるとも言える。
山陽道の進捗次第だねー。
* * *
そんな訳で足利義助は将軍に就任。
一応、事前にちゃんとオハナシはした。
それでも、権威は人をダメにする。
色んな誘惑があるだろうしね。
時と場合によっちゃ、先代殿の二の舞になる可能性も……。
話は変わるが、吉良義昭には嫡男が居ない。
最初は水を養女として俺に嫁がせ、出来た子を養嗣子にする予定だったようだが。
一族の謀反とか、色々あって保留となってる。
だから、そこに付け込むよ!
具体的には?
斯波義銀と於市ちゃんの間に出来た男子を、吉良義昭の養子とする。
吉良家を継いだ養子を、足利義助の養子とする。
次代の将軍となった暁には、平和裏に将軍位を返上させる。
まあ実際には、吉良家を完全に取り込むだけで終わると思う。
実現可否はともかく、長大な計画を持ってるって言っとけば大丈夫。
全部やると、色々面倒だしね!
* * *
そんな頃、斎藤道三が死去。
美濃のマムシと恐れられ、嫡子に殺されそうになった梟雄の最後は?
息子、娘、婿、孫らに囲まれ、穏やかなものだった。
一つの時代が終わった。
そんな感慨を抱く。
一族一門を大切に。
これが俺の道標。
道三殿の死は、その一つの完成形かも、とか、そんなことを思った。
* * *
足利義助は大人しいものだ。
こちらの思惑は、ある程度察してると思うのだが。
その上で大人しいなら、斯波義銀の様に対応することも吝かじゃない。
上手く動けば、足利宗家の座は安泰だ。
状況をちゃんと把握してるなら、軽挙妄動は慎むよ、な?
どうやら近畿周辺は落ち着いてきた。
ふむ、ならば。
俺は信長に一つの作戦を提言し、許可を得た。
それは、甲信地方への侵攻。
そろそろ武田家の息の根を、止めてやろう。
斎藤道三が少し長生きしました。
もう少し、派手な活躍をさせても良かったかも知れません。
2016/9/29 誤字修正




