第三十七話 醜聞
室町幕府の第十五代将軍、足利義昭が死去。
この驚きの知らせは、忽ち全国に拡散。
各地に激震を持って受け止められた。
一体何故?
何が起きたのか?
その後、すぐに追報が為される。
果たしてその死因とは?
* * *
足利義昭は、とある眉目秀麗な小姓Aと衆道の契りを結んでいた。
しかし、その寵愛は別の小姓Bへと移ってしまう。
そうなると当然、契りを交わしていた小姓Aは嫉妬する。
小姓Aは寵愛を失うも信用はあったようで、寝所の番を任されていた。
その日、寝所では主君と小姓Bが同衾していた。
やがて嫉妬は憎悪に変わり、小姓Bと共に主を惨殺するに至る。
主従を殺害した小姓Aは、事成れり、と縁で自害。
全ては城内の、限られた空間で起こった出来事だった。
* * *
洛中は大騒ぎになった。
現役の将軍が、痴情の縺れから殺害されたのだから。
とは言え、騒ぎの大半は呆れや嘲笑の類だ。
阿呆が阿呆な最後を迎えたってだけだし。
ん、ソレが本当に正しいのかって?
さあ……、どうだろうね。
ただ事実として、足利義昭は寝所で小姓と共に殺されており、
縁では、別の小姓が自害して果てていた。
そこにある結果が全てだよ。
* * *
「……で?」
おおう。
珍しく怖い顔だな、信長。
あーっと、脇差は、そうそう。
横に置いてから、なっ
んで、どした?
「しらばっくれるな!義昭公のことだ。」
あー、うん。
前言ったでしょ、迂遠なことしないで排除するって。
「確かに言った。しかし、この混乱をどうする。」
いやー。
正しく傀儡の将軍を立てるか、いっそ廃するか。
どっちでもいいと思うよ。
信広殿はどう思います?
「ふむ。洛中の様相は、余りにアレな将軍の姿だったでな、何とも。」
擁護の声はないでしょう?
「ないな。」
つまりだ。
足利義昭は、勝手に増長し、勝手に自滅した、ただの阿呆将軍なんだよ!
「仕向けてないと、言いたいのか?」
表向きにはね。
俺の動きは、ちゃんと報告したから知ってるっしょ?
「やはりか。いや、それはまあ良い。問題は今後のことだ。」
大丈夫、傀儡の当てはあるよ。
「何?」
足利義助さ。
「……ああ、阿波公方の。」
そう。
あとは、吉良義昭の名を使って押し込むのも有りかな。
「吉良は名門だが、系統は遠いぞ?」
一般に流布してる、足利が途絶えたら吉良、今川って言うアレ。
実際には足利消えてないけど、俺たちが抑えてたら一緒じゃん?
だったら、どうとでもなると思うがね。
「むう。信広兄者、どうだ?」
「まあ、不可能と断じることは出来んな。」
ほら信長、決めちゃえよ!
決めたうえで任せてくれたら、俺また頑張っちゃうよ?
「まだ暗躍するつもりか……。」
せっかく立場と手駒があるんだ。
使わない手はないだろ?
あ、ちゃんと宗政と信照に輔弼させてるから。
「ほう、信照とな。」
いつまでも穀潰しじゃダメだろ。
嫌がったけど、物はやりよう。
もし、それでもダメだったら康清に継がせるよ。
「判った。足利義助と吉良の線で行く。しかと、手配せよ。」
応よ。
新世界の、幕開けだぜぇっ
* * *
室町幕府、第十六代将軍に足利義助が就任。
足利将軍は使い捨てる物。阿波公方は、平島公方とも。
ここの所、主人公は常から新時代を開き続けているような気もします。




