第三十五話 処断
俺が武田軍相手に指揮を執ってた頃。
遠江では、信成たちが武田別働隊を相手に死闘を繰り広げたらしい。
現地では寝返りが相次ぎ、織田勢は劣勢に陥った。
それを見た三河衆にも挙兵した阿呆が居たが、ひとまず放置。
寝返り勢を正確に記録し、守勢に徹した信時ら。
駿河から武田本隊が退くと、遠江からもほとんどが撤退。
残ったのは寝返り勢と、一部楔を打ち込む為の城将のみ。
一息つく暇も惜しいと、俄然信成が反撃、猛追。
数多の寝返り勢を討ち取った。
楔用の城将の対応には、宗政に怒られて涙目の俺も参加した。
八つ当たり気味に、ハチの巣にしてやったぜっ
* * *
「信章がね、最後に言ったんだ。僕たちの力で、天下をってさ。」
普段の信成らしからぬ、猛将振りには理由があった。
信成の弟・信章が戦死。
そうか、信章がな。
すまない。
「はは。君が謝る必要なんかないさ。」
こちら側の主管は俺。
全てに責任を負うのは、当然のことだろ。
「うん。そういえば、そうだったね。判った、謝罪を受けるよ。」
ああ。
まだ若い命を、散らせてしまった。
信章、お前の命は無駄にしない。
そして、その願いも必ず叶えて見せよう。
「ねえ、お願いがあるんだ。」
何だ?
「僕を、遠江担当にして欲しい。」
……、対武田の先陣と言うことか?
だが信成、お前は三河の
「頼むよ。」
……判った。
信長には俺から伝えとく。
「ありがとう。」
去り際にチラリと見えた、信成の目には決意が宿っていた。
* * *
桶狭間から、長らく続く戦情勢。
織田一族の生存を願って暗躍しても、不慮の戦死は免れない。
それでも、今回ほど近しい一族の戦死は初めてだった。
自分が考えていた以上に、ショックを受けてることに気付く。
あー、あかんなぁ。
活を入れよう。
天下統一を目指すという目標は、
織田家の皆で全力で、駆け抜け迎える天下統一
具体性を持った決意に挿げ替えた。
* * *
決意も新たにしたところで、お仕事お仕事。
武田に寝返った諸将の処置。
まあ、基本処刑だよね。
遠江で裏切った輩は、信成がほとんど討ち取っちゃったけどさ。
当人は処刑、御家は取り潰し。
但し、連座はなしで。
多分に協力的な、分家や一族があれば斟酌する。
あと信成は希望通り、遠江の空き地に加増転封。
跡地は家次さんたちに加増、と。
いやあ、スッキリしたねー。
さーて、と。
敢えて後回しにしてたけど、ひとつ難題がある。
それは、俺の側室・水の実家も裏切り勢だったってことだ。
全く、どうしようねー。
* * *
俺の目の前で、吉良義昭が平伏してる。
水の実家は、吉良義昭の一族。
しかも割と上位の。
武田と言うより、将軍の口車に乗ったんだろうけど。
まあ、理由はどうでもいい。
ただ事実、俺を、織田家を裏切った。
そして吉良義昭としても、一族から裏切り者を出してしまった。
失態だね。
よって平伏し、許しを請うて居るんだけど。
いや、許せないよね。
公平性を保たないと。
裏切りの当人は切腹。
御家は取り潰し。
連座はないから、水を離縁はしない。
だって、吉良義昭は俺を裏切ってないから。
そして、水は吉良義昭の娘だから。
そうだよな?
吉良義昭は、更に深く平伏した。
水の実家は断絶、その所領は吉良義昭に与えられた。
* * *
何とも複雑だが、全ては元凶にぶつけよう。
主人公に燃料投下。ここから更に、勢い駆って行くことでしょう。
信成の弟・信章は、織田信光の三男で幼名は仙千代。史実では元服前に戦死。




