第二十六話 刺客
三河国は静謐を取り戻した。
今川家との和睦の成果は中々のもの。
三河在住の今川方は、遠江や駿河に移ったり臣従した。
そして今川から離反し、織田とも敵対していた奴らは大体潰された。
中には縁故を頼り、駿河に逃亡した奴もいたみたい。
誰とは言わんが。
* * *
さて。
朝倉には何度も上洛を促しているが、梨の礫。
んでも追討しちゃうと、恩知らずって責められ兼ねない。
足利義昭を匿ったのは朝倉だぞーってね。
だから信長の胃がマッハに成る前に、どうにかしよう。
斯波義銀を召喚し、足利義昭の名代とするよう申請。
俺と信家を補佐に従え、越前国へ向かうのだった。
* * *
「公方様は、朝倉殿を決して疎かにしないと仰られています。」
斯波義銀が朝倉義景と会談を行う。
朝倉義景は、信長が元は守護代の奉行に過ぎないと格下に見てる。
そんなのが将軍を推戴し、上洛しちまったのが気に入らない。
だから協力しない。
ってのが良く言われていたこと。
でも実際は、加賀の国が気になって動くに動けないと言う事情もあるらしい。
なんちゃって御所を抱えて、色々複雑なのも事実みたいだけど。
まあ、細部は打っ棄って構うまい。
で。
信長の使者であれば、体よく追い払うとか、適当にあしらえるけども。
仮にも現・征夷大将軍の名代を追っ払うとかは、流石にね。
過去に斯波氏から越前守護職を奪い取った名家としては、阿呆とは言え現役の将軍様に真っ向から逆らうのはちょっと、ねえ?
「当家としましても、公方様への他意は御座らん。加賀の一揆衆が気になって…」
云々と苦しい言い訳をしつつも、御茶を濁すには至らない。
已む無く一族の朝倉景綱を出仕させることで、妥結を見た。
会談の最中、朝倉一族の大部分が苦々しい顔をしてたのが実に面白かった。
やっぱ、斯波義銀を前面に出して正解だったね。
越前国守護職である云々と、事前の打ち合わせ通り強調してみたのが良かったな!
クックック。
信長に、良い土産話ができたわい。
* * *
そんな感じで帰って来た。
義銀も信家も、御苦労さん。
朝倉景綱は、越前向けの係りとして頼んだぜー。
「戻ったか。成果はどうだった?」
お、信長。
聞いて驚け見て喚け。
取り合えず一族から出仕させることは出来たぞ。
「違う。そんなことはどうでもいい。」
えっ?
「斯波義銀を見て、朝倉はどうだったのかを聞いておる!」
そっちかよ!
どんだけ楽しみにしてたんだか。
いや、いいんだけど。
ククッ
おっといけない、思い出し笑いが。
ああ、分かったから落ち着けっ
すぐ話してやっから。
ちゃんと我慢して、大人しく仕事をしてた信長君へのご褒美だ。
存分に受け取るがいい!
とりあえず脇差は横に置け。な?
* * *
と、言う訳だったのさ。
「ふっ。奴らの苦い顔が浮かぶようだな。」
応、中々のもんだったぜ。
どうだ、少しは溜飲が下りたか?
「まあな。とりあえず、朝倉はもういいだろう。」
ある程度の意思は確認出来た、と。
若狭国の件とか他にも幾つかあるけど、後回しで良いかね。
「うむ。それより、松永だ。」
将軍は相変わらずか。
ま、しゃーないね。
とりあえず、道三殿に聞いてみれば?
「ふむ?義父殿か、成程確かに。」
あの二人ってさ、何か通じる物がある気がするんだ。
そこから妙案が出ないとも限らない。
「そうだな。判った、手配するからお前も来い。」
え?
いや。
俺は、これから伊勢と三河の情勢確認とかの仕事が。
「後で大丈夫だ。ほら、行くぞっ」
ちょっ
朝倉一族に対する、精神的な刺客。
本文では省きましたが、信家の血統が朝倉と元は同等(斯波氏の守護代と言う意味で)ですので、余計に斯波義銀の同道が活きると言う事情があったり。




