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季節ハズレの新生活〜9〜

「え、えーと……ちょっと、情報整理しても良いですか?」


真面目くさったアンナの顔に嘘は感じられないものの、完全にキャパオーバーとなった鶫は米噛みを軽く抑えて唸る。そんな鶫の様子に、アンナはどうぞ、と苦笑した。


「んーと……半魔っていうのは、人間としての記憶も、悪魔としての記憶もあるんですよね?」

「ええ、そうですよ」

「でも……人間だった時の本人でも、悪魔だった時の本人でもない……。」

「はい。半魔は人間だった頃とも、悪魔だった頃とも違う……全くの別個体です。」


軽い頭痛を覚えながらも、鶫は教えられた情報を反芻してアンナに確認を取る。理解し難いものが数カ所あったものの、頭の中に何となく図を浮かべて見れば、それらの情報は整理し易かった。

と、粗方情報を整理し終えた鶫はとある疑問を浮かべて首を傾げる。


「…僕、悪魔だった時の記憶……この場合だとラバちゃんの記憶?…が全く無いんですけど……。」

「……私も、鶫の記憶は無い。」


アンナの説明とは異なる、己の状況。それに気付いて疑問を口に出せば、イララバが同意を示すように首を縦に振る。


「ええ。失礼ながら、()()()()()()()ので知っていますよ。」

「……おかしくないですか?」

「おかしいですねぇ。」


何となく、聞き捨てならないニュアンスを含んだ言葉がアンナの口から飛び出したが、鶫はスルーして首を眉を寄せる。怪訝な鶫に、アンナは何処かまったりとした口調で返事をする。


「でも、僕らは半魔…なんですよね?」

「そうですよ。前代未聞、二人で一つの存在。上に知られたら確実に研究対象に認定されますね。」

「け、けんきゅう……」


不穏極まりない単語をさらりと…―――それこそ、明日の天気を確認するくらいの気軽さで放つアンナに鶫は慄く。己の身に降りかかるかもしれない状況に体を固くさせる彼を見て、アンナはクスクスと笑い声を上げた。


「……大丈夫。そうならない為の『雇用』だから…ツグに、手は出させない……」


クスクス、クスクスと愉快そうなアンナの笑い声が鶫の不安を煽る。説明も途切れ、不安と恐怖を煽られるだけの現状から逃れるように、鶫は忙しなく視線を動かす。そんな鶫を見兼ねたように、レアフがアンナの説明を引き継ぐ。すっかり眠ってしまっていると思っていた人物が口を開いたことに鶫は勿論、ヴォルカやリオン、涼風までもが驚きに目を見開いた。


「えっと……さっき、アンナも言ってたけど…『悪魔屋(ココ)』は、地界の公的機関で、独立した組織……。ムズカシーことは…良く、分かんないけど…『Devil ‘s nest 』を創った時に…お父さんが、なんか……色々やったんだって。」

「へ?」

「それで……なんか、人界で警察みたいな仕事する代わりに、悪魔屋(ココ)のことは詮索しないって、貴族であっても手は出さないって契約、したんだって…ふぁ……」


オロオロとしていた鶫に、寝ぼけ眼を擦りながらも説明をしていたレアフは耐えきれずに大きな欠伸を漏らした。ざっくりとではあるが、なんとなく理解した鶫が、より深く理解しようと頭を働かせる一方で、ヴォルカを始めとして、リオン、涼風の三人はわなわなと震えていた。

肩を震わせる三人の様子に訝しげに片眉を上げたイララバ。そんな彼のことなど目に入っていないのだろう、三人はぱくぱくと口を数度動かした後、一度深呼吸をして至極真面目な顔でじっとレアフの顔を見た。


「……視線、じゃま……」

「レアフ」


気の知れた仲とは言え、己に向けられる不躾な視線にレアフは眉を寄せた。時折、欠伸を零しながらも不貞腐れたようなむすっとした表情は、言外に迷惑だと訴えている。だが、そんな彼の表情を無視してヴォルカはレアフに声をかける。


「今の話、誰に聞いたんだ?」

「……アンナと、お父さん」

「今の話の要約はできるか?」

「…………なんか良く分かんないけど、昔、お父さんが頑張ったからある程度、好き勝手できる。あと、安全。」


ピシャァァン!!

レアフのヴォルカへの返答を聞き、ヴォルカら三人は体に雷が落ちたような感覚に陥る。衝撃的だった。その一言に尽きるのだろう。信じられないものを見てしまったかのように固まってしまう。

そんな彼らの様子に、堪らずといったようにアンナが吹き出した。


「あっははは!!酷いねぇ、みんな。ちょっとレアフのことバカにしすぎじゃない?」

「だって……レアフだよ?()()レアフだよ?!おかしいよ、どう考えても!!」

「うん、おかしい。アンナはともかく、()()()1()5()()()レアフの知能がここまで高い訳ないよ。」


涙を流してまで笑い転げるアンナに、噛み付くように涼風が反論し、リオンが静かに同調する。その傍らでは首が取れるんじゃないだろうか、と見ている側が心配になるほどヴォルカが首を縦に振っていた。すると今度は笑いを治めたアンナが不機嫌そうに口を尖らせてむくれた顔をし、心外だ、と言わんばかりのため息を吐く。


「レアフだって私と一緒に高校生やってるんだよ?15年も人間の中で生きてればそれなりに成長するって。」

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