季節ハズレの新生活〜6〜
―――むい〜、みょ〜ん
―――――むいむい。みょ〜ん。
「…楽しいですか?それ?」
自分の頬…ではなく、腕を抓っては引っ張り、引っ張っては抓り、という動作を無言で続ける鶫。そんな鶫の腕、抓り続けた箇所が熱を帯び、じんわりとした痛みが手を離しても続くようになった頃。
赤髪の少女―『ゴート』ことアンナが呆れたような、驚いたような、そんな微妙な顔で鶫に尋ねた。アンナの声にハッと我に返った鶫は、少し困り顔で恥ずかしそうに頬を掻く。
「あ、えっと…ごめんなさい。ちょっと信じられなくて…。やっぱり、夢なんじゃないかなぁって……その、皆さんのこと、疑ってるとかじゃないんですけど…。」
「そーゆーのって、普通はほっぺを抓るのが定番なんじゃないですか?…まぁ、いいですけど。鶫さんが困惑するのも分かりますし。…あっ。ちなみにコレは現実ですのでご安心ください。」
えへへ…と誤魔化すかのように笑みを浮かべて言う鶫。対するアンナは短く溜息を吐き出すと、瞬く間ににっこりと笑みを浮かべる。道行く人も振り返るであろう、朗らかな微笑みだ。
「ヴォルカ…はもう良いかな。もう自己紹介は済んでるみたいだし。じゃあ、リオンから順番に自己紹介ね!さん、はい!!」
元気よく両手を叩いて緑髪の少年を見ながらアンナは言う。すると、緑髪の少年は手の中で弄んでいるものを握りしめて面倒そうな顔でアンナを見る。ちなみに、手の中のもの、とは先程まで読んでいた新聞紙である。手の平の半分くらいのサイズまで折り畳まれたそれは、アイロンがけしたシャツのようにシワ一つなく、どんな圧力のかけ方をしたのか、と疑いたくなる程に薄くなっていた。
「ねぇ。振り方、雑すぎない?…新入りが人間っていうのもありえないし。」
「だから、鶫さんは人間じゃなくて半魔!初対面の人に素っ気なくする癖、どうにかしなよ。」
「……何をどうするかは僕の問題でしょ。」
つーん。
機嫌の悪い猫のようにそっぽを向いてしまった緑髪の少年に、ヴォルカが溜息を吐く。またか、と呟いている辺り、アンナの言うように「初対面の人に素っ気なくする」というのは割としょっちゅうあることなのだろう。
「リオン。リオンが自己紹介しないならお姉ちゃんが言お…」
「リオン・ホーエンコー。コードネームは『ラウ』。“属性”は火と地。」
緑髪の少年…もとい、リオンが自己紹介をしないのを見兼ねたらしい。彼の隣に座っていた金髪の女性が横から口を出す。するとリオンは勘弁してくれ、とでも言うかのように彼女の言葉を遮って早口で自己紹介した。素っ気なく、渋々と言った感じだが自己紹介をしたリオンに金髪の女性はニコニコと笑う。
「もうちょっと仲良くしようよ、リオン。お姉ちゃん、そんな子に育てた覚えないんだけどな〜。あ。マリーン・ホーエンコーだよ。コードネームは『エル』。ヨロシクネ、えーと…?」
「ツグミクン」
「そーだ、そーだ!ツグミくん!!リオンは偉いね、人の名前覚えれて。」
ぶっきらぼうなリオンの助けも受けながら、マリーンと名乗った金髪の女性は愛想よく自己紹介をする。つっけんどんなリオンとは対照的に、おっとりとした喋り方で幾分か取っつきやすい。姉弟でいるとバランスが取れているようにも見えるなぁ、と鶫はぼんやりと感じた。
「最後は私だね。水瀬涼風。コードネームは『レイヴィア』。元人間だから、きっと力になれると思う。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
にこり、と銀髪の少女、涼風が笑う。手を差し出して握手を求めてきた涼風の手を慌てて握り返して鶫ははて、と首を傾げた。
「あれ……?元人間ってことは、水瀬さんも半魔ってことですか?」
「涼風で良いよ。敬語も外してくれると嬉しい。年も同じくらいだしね。…で、えっと……私は『元人間の悪魔』ではあるけど『半魔』ではないんだ。」
「何か違うんで…違うの?」
「うん、結構違う…けど、私、こういう説明とか得意じゃなくて…。悪いんだけど、後でアンナたちから属性の事とか諸々含めて説明してもらうって形で良いかな?」
「分かった。」
鶫の質問に、申し訳なさそうに眉を下げて言う涼風。そんな涼風に鶫は、失礼だとは知りながらも、すごく真面な感じの人だ…!と安心感を覚えて笑みを浮かべる。鶫がそんなことを考えているとはつゆ知らず。涼風はもう一度ごめん、と謝った。
「ええっと…お話続けても?」
「あ、はい。お願いします。」
鶫がホッと一息吐いたのを見て、アンナが真っ直ぐに鶫を見つめて尋ねる。そのことに背筋をピンと伸ばした鶫は頷きを返すと、アンナもまた、頷きを返して話を続ける。
「あとは、お父さん―――『ヘル』もいるんですけど、朝に弱くて…。また後でご紹介します。あとは…貴方の隣にいるお方についてですが…。彼はイララバ・ダンドール。貴方と同じく、『Devil's nest』の新入りさんで、貴方の半身である悪魔です。」




