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季節ハズレの新生活〜5〜

ヴォルカの悲痛な叫びは絶大な効果をもたらし、鶫を含めた八人は実に自然な流れで食卓に着いた。八人全員がシンクロしたかのように殆ど同時に着席したのは良い。だがしかし、ここで少しばかり…人によっては取るに足らないであろう問題が発生した。人数が多すぎた。

その証拠だ!とでも言うかのように、八人が囲っているかなり大きめのダイニングテーブルはギチギチになった。もう誰一人として受付られません、と言わんばかりの密集度だ。身じろぎひとつで隣のに座る人と接触してしまうのだから。明らかな店員オーバー。

これではおちおち食事も出来やしない。そう呟いたのは誰だったか。

だが、赤髪の少女にとってはそんなことは気にするに値しないらしい。コホン、とわざとらしい咳払いで全員の注目を集めた後に、各自何かコップを持って、と指示を出す。その真意の読めない少女の指示に首を傾げたのは鶫だけではない。…いやむしろ、赤髪の少女以外の全員が首を傾げた。


「――よし、全員カップ持ったね?」


ぐるりと全員を見回す少女。彼女の言う通り、ガラスのコップ、マグカップ、湯呑み…等々、それぞれが近くにあったコップを手に持っていた。椅子の背もたれに体重を預けてこっくりこっくりと舟を漕ぐ赤茶色の髪の少年でさえ、その手にはしっかりとマグカップを握っている。

全員がコップを持っているのを確認したのだろう少女は、一度大きく深呼吸してから己の手にあるグラスを持ち直すと、明るい声で言った。


「それでは、菊地鶫さんとイララバ・ダンドールさん。お二人の入社を祝ってぇ……カンパーイ!!!!」


一人グラスを上に突き上げた少女に、全員が唖然として注目する。少女は少女で、皆んな一緒に乾杯すると思っていたのだろう。「あれ?」と不思議そうに目をぱちくりさせる。

だが、それよりも鶫は自分がいつの間にか何処かに就職していたらしい、と言う方に驚いた。何の仕事するところに就いたんだろう、自分。と、就活なんて一切していないんですけど、と目を丸くしていた。


「ま、待て待て待て待て!!お前は阿呆か!?馬鹿なのか!!??何処の世界に自分の置かれた状況の説明もされないで困ってるヤツの就職祝いする間抜けがいるんだよ!!ゲームじゃねぇんだぞ!?」

「むぅ……間抜け、というのは謹んで否定させて頂きますけど、何処にって言われたら、貴方の真隣だね!」


―――ずどむ。

およそ、人体から出るべきではないだろう鈍い音と赤髪の少女の呻きが重なる。ヴォルカが少女の脇腹にチョップを打ち込んだのだ。

相当痛いらしく、くしゃりと顔を歪めた少女を見て、自分がされた訳ではないのに鶫も顔をしかめて脇腹に手を添えていた。


「……ふざけてないで早くして。店だって開けなきゃいけないんだし、本来なら僕らがここにいなきゃいけない理由もないでしょ?」

「そぉだよー!!私だってヒマじゃないんだよぉ?」


ど突くヴォルカと、それにぷりぷりと憤りを見せる赤髪の少女。そんな二人に若干の苛立ちを孕んだ声が投げ付けられた。緑髪の少年と金髪の女性だ。どうやら二人はやることがあるのに、時間を割いてここにいるようだ。……尤も、それが何故なのかを今の鶫が知る由もない。故に、読んでいた新聞を丁寧に折り畳みながら鶫を睨む緑髪の少年の心情など、鶫に汲み取るとこなどできない。


「えー…コホン。和ませようとしてかなりスベッちゃった……じゃなくて。お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。鶫さん。」

「い、いえ…お気になさらず……?」

「えっと……状況説明ですけれども…まずは私たちの自己紹介と、私たちの仕事についてお教えしましょう。私たちは「Devil ‘s nest 」、通称、「悪魔屋」のメンバーです。」

「アクマヤ?」


少女の説明に出てきた聞き慣れない単語に、鶫は首を傾げる。アクマヤ?ナニソレ美味しいの?と半ば現実逃避気味におうむ返しすれば、少女はニコニコといつもと変わらない笑顔で一つ、頷いた。


「はい。悪魔屋、というのはまぁ…あれです。地界の公的な機関で、主に悪魔関係の時間や揉め事を解決すること、違法な入界、出界がないかのチェックをすることが仕事になっています。そして私がその「悪魔屋」リーダー、泉アンナと申します。……いや、コードネーム『ゴート』の方が伝わりやすいでしょうか。」

「………………ぇ!?」

「「悪魔屋」、副リーダー、の…泉レアフだよ……コードネームは『ククリ』……仲良くしよーねぇ、ツグ……ぐぅ……」

「え…………え!!??」


流れるような少女の自己紹介。そこから飛び出した覚えのある鶫は一瞬にして動きを忘れる。それはもう、瞬きを忘れるくらいには。そして追い討ちをかけるように続け様に赤茶色の髪の少年の自己紹介も入る。…まぁ、本人はまた眠ってしまっていたが。

少年の自己紹介の中にも覚えがある言葉があって、鶫はついに、一瞬だけ息の仕方を忘れた。


「夢じゃ、なかったんだ……」

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