好きな子の部屋で、2人きり。
「…お見苦しいものを見せてしまい、すみませんでした」
「…いや、見苦しくないよ」
寧ろ、ありがとうございますって感じだけど。まあ…今に限っては、目の毒っていうか。と、俺は内心でひとり思う。
「…さて、勉強始めますか」
「そうだね」
「それではよろしくお願いします、前川先生っ!」
「だから何?その『前川先生』って」
「いや、私に勉強教えてくださるのですから。先生と呼ばせてください」
「…ま、いいけど。で、どこがわからないの?」
「ええっとですね、ここの解き方が─」
俺と春風は、ちいさいテーブルを間に向かい合わせに座り、春風は集中して勉強する。俺はと言うと、図書室から借りてきた本をスクールバッグから取り出して読んでいた。すると。
「あの~…教えていただけるのはありがたいのですが、前川先生は勉強しないんですか?」
「ん?ああ、俺は普段から予習復習してるから。寝る前にちょっと見直すくらいで十分っていうか…」
「う”ぐっ!…普段、予習復習せず、すみません…」
「あ、いや、俺は勉強が好きだから普段からやってるってだけだから。それに今は、春風に勉強を教えることに集中したいなって」
「そうなんですか。ありがとうございます、前川先生。優しいですね♡」
そう言って、春風はにっこりと微笑んだ。先生って…その敬語、いつまで続けるつもりなんだろう。そんなことを思っていると。
「それじゃあ、隣に来ていいですか?先生。教えてもらう時、向い合わせだとやりづらいので」
「え?隣?うん、まあ別にいいけど…」
そう言って春風は立ち上がると、俺の隣に座った。
「先生、もう少し横に寄って下さるとありがたいです」
「え?あ、うん…」
春風に言われ、俺は座ったままずりずりと横にずれる。すると春風は、俺の腕に肩が触れるくらい近くに寄ってきた。
「な、なんか、春風近くない?」
「そう?いや、そうですか?」
きょとんとした顔でそう言う春風。いやいや、どう考えても近いよ!普段並んで座る時、こんなにくっついてこないのに。なんで、こんな時に限ってこんなにくっついてくるんだよ!
体の右側で、春風の体温を感じながらドキドキしていると─…
『えーーーー!?付き合って半年になるのに、エッチどころかキスすらしてないの??』
『…彼女ちゃんとキスできたみたいだし、次の段階に行かなきゃ…だよね?』
ふいに、お姉さんの言葉と下着姿のお姉さんの映像が思い起こされ、顔が熱くなった。胸のドキドキがさらに加速する。
「深月君?顔赤いよ?」
「へぁ!?い、いや、何でもないよ」
「そう?」
「う、うん…」
…もしかして春風、テスト勉強を口実に、わざと家に連れてきた?本当は今日、お母さんが出掛けてるのも最初から知った上で、家でふたりきりになりたくて…とか?
いや、春風に限ってそんな…でも、何で家なんだ?勉強するなら、学校の図書室とか教室でもよかったんじゃないか?
…彼氏と密室同然の部屋で。普段、こんなにくっつかないのに、体を寄せてきて。
最近とはいえ、キスもするようになってるし…春風は『次の段階』に行きたがってるのかな?キスの次ってやっぱ─……エッ……だよな?
家に連れてきたのも、スカートが捲れてパンツが見えていたのも、こうして、体をくっつけてきてるのも…俺を誘って─…キス以上のことがしたいから…なのか?
「─いや、違うっ!たぶん違うっ!!」
ひとり悶々と考えていると、気づいたら大声を出してそんなことを言っていた。ふいに、俺が大声を出すと「え!?急にどうしたの!?」と、春風は驚いたように、俺の隣で小さく体を跳ねさせた。
「ごっ、ごめん…」
「ねえ、ほんとに今日の深月君どうしたの?」
「どうっ、て…─」
覗き込むようにして、俺の顔を見つめる春風。その春風の綺麗な瞳から…艶やかな唇に視線が移り。セーラーの首もと。二つの膨らみ。スカートから覗く太もも…
上から下まで、春風のことを舐めるように見てしまい─…俺の半身がまた、熱を帯びようとしていた。
─…だめだ、変なことしか考えられない。一旦、春風から離れよう。
そう思った俺は。
「あ…ちょっと、トイレ借りるね─…わっ!」
そう言いながら立ち上がろうとした、時。正座していたせいで足が痺れてしまったようで、ぐらっと、春風の方にバランスを崩しそして─…
「きゃっ!!」
ドサッ。
「…っ、あっ!ごめっ、はる………か……」
瞼を開いた先には、仰向けに倒れる春風がいて。俺は春風の身体に覆い被さるように、四つん這いになっていた。
倒れた拍子にそうなったのか、春風のセーラー服の裾部分が捲れ、春風の白い腹部がちらりと見えていた。
「深月…君…」
ほんのり頬を赤く染めながら、春風は俺を見つめる。
おれ……は、もう………
「─んぅっ…」
カランっと、氷がコップの中で音をたてた。
気づいたら、俺は春風の唇にキス…していた。
いつもの春風としている優しいキス…とは違う、吸い付くようなキス。まだ、春風としたことない…舌を絡めたキス。
「っ…はるか…」
「ん…ふぅ…」
ちゅくちゅくと音をたてながら貪るように、春風の唇にキスする。
俺は春風の唇に吸い付きながら─…
スルッ…
「─んっ!」
俺は裾が捲れてちらりと覗く、春風の白い腹部に手を宛てがうと、ツツっ…と手をセーラー服内に入れ、その手を上に滑らせると──
「ぃ、やぁっ!!」
突然。
春風のそんな声がした後、どんっ!と、前から弾き飛ばされたような感覚がして、気づいたら俺は後ろに尻餅をついていた。
どうやら俺は、春風に押し飛ばされたようだ。
「はる……か?」
はっと、我に返った時には…遅かった。目尻に涙を浮かばせる春風が、目の前にいた。
「…ごめん、私が連れてきたけど…今日は、帰って」
「あ………はる…」
春風の肩に触れようと手を伸ばした時、春風はびくんっと体を小さく跳ねさせ、怯えたような眼で、俺のことを見た。
「─っ─…」
唇を噛み、伸ばした手を引っ込めると。
「…わかった。ごめんな、春風」
俺は立ち上がると、自分のスクールバッグを肩に掛けた。
じゃあ、また明日─
そう、言おうとしたけど、やめた。
俯く春風を横目に見ながら、俺は静かに春風の部屋を出た。
◇
「…やって、しまった。春風を傷つけた…」
フラフラしながら、ひとり、帰路を歩く。
すると、先ほどまで晴れ渡っていたはずの空が薄暗くなっているなと思ったら…
─────パラッ、パラパラパラパラ…ザアアアア!
突然、大雨が俺に降り注いだ。
けど、俺は構わず帰路をとぼとぼと歩く。濡れようがどうなろうが、今はもう、どうでもいい。
「─ごめん、春風」
空を見上げる。鈍色の雲から、激しく雨が降り注ぐ。俺は足を止め、降り注ぐ雨にしばらく打たれていた。
すると─…ふいに、視界が薄暗くなり、今さっきまで降り注いでいた雨が止まった。傘だ。誰かが、俺に傘を差している。
「深月…君?」
声のする方に視線を向けた。
そこには、あのお姉さんがいた。




