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デウス・エクス・マギカ  作者: 囘囘靑
第3章:猫と毒薬(Las Chats e La Toxica)
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第51話:融合(Creuzet)

 永遠の眠りについたシーラを、そっと地面に横たえながら、オリヴィエはその面差しを、まるで時が止まったかのようにじっと見つめていた。シーラの安らかな表情とは裏腹に、オリヴィエの表情は険しいままだった。


 シーラは喪われてしまった。シーラが喪われてしまったことによって、自分の中の名もなき何かが同時に喪われつつあることを、オリヴィエは理解しているようだった。


「生きている間に、人は何度でも生まれ変わることができる」


 金色の髪の少女が、シーラの顔を覗き込みながら、静かに言葉を(つむ)いだ。


「生まれ変わって、もう一度生きることができる。――私が分かりますか?」


 問いかけに対して、オリヴィエは答えない。金色の髪の少女は、寂しげにほほ笑んでみせる。


「初めは、私もオリヴィエ様が分かりませんでした。攻撃をしてごめんなさい。でも、今なら分かります。あなたはオリヴィエ様。仕草がそっくりですもの」

「水を差して悪いけど――」


 濁った水たまりを踏みしめながら、シロットは二人に近づく。泥が(ブーツ)にかき回され、再び水面が濁る。


「私はシロット。一応、このバイクオタのツレをやってんだけど……あなたは?」

「ジェゼカと申します。リュ・ジェアナタイヴ・ジェゼカ・トレ=イクライム」


 イクライム――その家名を耳にした瞬間、シロットはジェゼカの顔を凝視した。


「ジルファネラスの皇族?」

「はい。ですが、それも今日まで」

「どういう意味?」

「シーラ様は……もはや生きられますまい。ただ、心は消え去ろうとも、身体にはまだ熱が(かよ)っている。反対に私は……私の身体は、もうこれ以上は()たない」


 ジェゼカは左手を掲げた。指先が灰のように崩れかけている。シロットは息を呑んだ。


 エーテルの(ちり)。オリヴィエの話を、シロットは思い出す。


「私を、シーラ様に融合させてください」


 ジェゼカが言った。


「シーラ様を生かす唯一の(みち)です。あなた様なら、それがおできになる」

「それをすれば――」


 オリヴィエが口を開く。ただ、実際に口を開くまでには、相当の間が空いた。


「それをすれば、あなたは死んでしまう」

「シーラ様は命の恩人です。死も本望です」

「あなたを愛している人が、この世界はいないの?」


 オリヴィエの言葉を聞きながら、地面に横たわるシーラの顔に、シロットは目を移す。シーラの表情は眠るように穏やかだったが、唇は黒ずみつつあった。


「ちょうど私が……シーラを愛していたように」

「私を愛してくれた人など、この世にはおりません」


 ジェゼカは肩をすくめるが、その言葉には、かすかなため息が(はら)まれていた。


「ただ、愛していた人ならいます」

「誰?」

「あなた様です」


 シロットはオリヴィエを見た。予期したとおり、オリヴィエは青ざめていた。


「そんな顔をなさらないでください!」


 泣き笑いのような表情を浮かべると、ジェゼカはオリヴィエの手を叩く。


「私はあなた様を愛している。シーラ様もそうです。私がシーラ様と融合することで、シーラ様も、私も、あなた様を愛し続けることができる。だからお願いします」


 唇を固く引き結ぶと、オリヴィエは(ベルト)から銃を取り出し、ジェゼカの眉間に照準を合わせた。


「手を添えて」


 (いざな)われるまま、銃把を握るオリヴィエの手に、ジェゼカはみずからの手を重ねる。


 手が触れあうのを認めると、オリヴィエは撃鉄を起こし、ジェゼカに向かって引き金を引いた――。

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