第51話:融合(Creuzet)
永遠の眠りについたシーラを、そっと地面に横たえながら、オリヴィエはその面差しを、まるで時が止まったかのようにじっと見つめていた。シーラの安らかな表情とは裏腹に、オリヴィエの表情は険しいままだった。
シーラは喪われてしまった。シーラが喪われてしまったことによって、自分の中の名もなき何かが同時に喪われつつあることを、オリヴィエは理解しているようだった。
「生きている間に、人は何度でも生まれ変わることができる」
金色の髪の少女が、シーラの顔を覗き込みながら、静かに言葉を紡いだ。
「生まれ変わって、もう一度生きることができる。――私が分かりますか?」
問いかけに対して、オリヴィエは答えない。金色の髪の少女は、寂しげにほほ笑んでみせる。
「初めは、私もオリヴィエ様が分かりませんでした。攻撃をしてごめんなさい。でも、今なら分かります。あなたはオリヴィエ様。仕草がそっくりですもの」
「水を差して悪いけど――」
濁った水たまりを踏みしめながら、シロットは二人に近づく。泥が沓にかき回され、再び水面が濁る。
「私はシロット。一応、このバイクオタのツレをやってんだけど……あなたは?」
「ジェゼカと申します。リュ・ジェアナタイヴ・ジェゼカ・トレ=イクライム」
イクライム――その家名を耳にした瞬間、シロットはジェゼカの顔を凝視した。
「ジルファネラスの皇族?」
「はい。ですが、それも今日まで」
「どういう意味?」
「シーラ様は……もはや生きられますまい。ただ、心は消え去ろうとも、身体にはまだ熱が通っている。反対に私は……私の身体は、もうこれ以上は保たない」
ジェゼカは左手を掲げた。指先が灰のように崩れかけている。シロットは息を呑んだ。
エーテルの塵。オリヴィエの話を、シロットは思い出す。
「私を、シーラ様に融合させてください」
ジェゼカが言った。
「シーラ様を生かす唯一の途です。あなた様なら、それがおできになる」
「それをすれば――」
オリヴィエが口を開く。ただ、実際に口を開くまでには、相当の間が空いた。
「それをすれば、あなたは死んでしまう」
「シーラ様は命の恩人です。死も本望です」
「あなたを愛している人が、この世界はいないの?」
オリヴィエの言葉を聞きながら、地面に横たわるシーラの顔に、シロットは目を移す。シーラの表情は眠るように穏やかだったが、唇は黒ずみつつあった。
「ちょうど私が……シーラを愛していたように」
「私を愛してくれた人など、この世にはおりません」
ジェゼカは肩をすくめるが、その言葉には、かすかなため息が孕まれていた。
「ただ、愛していた人ならいます」
「誰?」
「あなた様です」
シロットはオリヴィエを見た。予期したとおり、オリヴィエは青ざめていた。
「そんな顔をなさらないでください!」
泣き笑いのような表情を浮かべると、ジェゼカはオリヴィエの手を叩く。
「私はあなた様を愛している。シーラ様もそうです。私がシーラ様と融合することで、シーラ様も、私も、あなた様を愛し続けることができる。だからお願いします」
唇を固く引き結ぶと、オリヴィエは帯から銃を取り出し、ジェゼカの眉間に照準を合わせた。
「手を添えて」
誘われるまま、銃把を握るオリヴィエの手に、ジェゼカはみずからの手を重ねる。
手が触れあうのを認めると、オリヴィエは撃鉄を起こし、ジェゼカに向かって引き金を引いた――。




