第48話:異常な愛情(Lieve Etrange)(2)
声は、どこから響いてきたか? オリヴィエはもう一度、“笑い声”にふり向く。地面にはシーラが倒れており、パプリオスの肢もまた、幾本かが飛び散っている。
「人間!」
オリヴィエが状況を察知するよりも前に、地面に落とされたシーラが、“笑い声”に向かって叫んでいる。怒りとも、恐怖ともつかないような響きに、シーラの声は震えていた。
“笑い声”の上に留まっていたパプリオスが、全身を震わせながら、搭乗席によじ登ろうとしているひとりの人物を、残る肢ではねのけようとしている。その人物は、宮城へと向かう道すがらでオリヴィエたちが邂逅した、白銀の兜の傭兵だろう。今は裸に剥かれているが、色素の薄い金髪から、彼女の正体が分かる――。
その娘と、オリヴィエのまなざしが交錯する。
「オリヴィエ様!」
娘が叫ぶ。強い興奮が全身を駆けめぐるのを、オリヴィエは感じ取る。オリヴィエはその娘を知らない。娘もまたオリヴィエを知らないだろう。
ただ、この娘はオリヴィエの身体ではなく、精神を見抜いた。記憶を喪った自分の精神が、彼女の直感に共鳴している。
腹をうねらせると、尾の先端で、パプリオスは娘の身体を突く。尖端にあった針が、娘の身体を真ん中から貫いた。娘はそのまま、勢いに圧されて、搭乗席に磔になる。
「覚悟を……お願い……!」
自分の血で染まった手を振り上げると、娘は搭乗席のパネルに触れる。
「やめて!」
“笑い声”を追われたシーラが、娘に向かって手を伸ばす。
〈搭乗者情報の更新が完了しました〉
“笑い声”から、機械音声が響く。シーラは、パプリオスはもはや、“笑い声”の持ち主ではない。
シーラに照準を合わせると、オリヴィエは撃鉄を起こす。覚悟は決まっていた。




