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仕組まれた失望

レナと別れたセラ視点のお話です。

 私達はレナを見送った後、宿までの道をゆっくりと辿っていた。


 周りではいろんな店が呼び込みをしたり、冒険者達が飲み屋で会話していたりして、騒々しくて眩しいのだが、私の心は対照的であった。


 明日からレナのいない生活か……。


 まだ三日ぐらいしか一緒に居ないのに、もう彼女がいない日常が酷くつまらないように感じてしまう。


 レナには本当に感謝している。


 仲間がいなくてクエストが受けられなかった私達の前に現れた、凛々しい救世主。

 最初の方こそ利用する為に近付いたようなものだが、彼女の真摯な態度と行動にほだされ、私達の中でなくてはならないような存在になっていた。


「……セラ、寂しい……?」

「そんな訳ないでしょ! 別に、レナがいなくたって……」


 そこまでで、私の言葉は止まる。思ってもないことは言いたくなかった。


「……私は、寂しい……」


 少しうなだれるカータに気付き、私が支えてあげなければと襟を正す。


 それにしても、彼女もレナに随分懐いたものだ。


 レナのことをお姉ちゃんと呼び、最近では、気付くと彼女の腕に抱きついている。


 昨日から一緒の布団で眠っているし、カータの方こそ、レナがいなくなってしまったらどうにかなってしまうのではないだろうか?


 そして、正直に自分の気持ちを吐き出せるカータの純粋さが、私にはとても眩しくて羨ましかった。


「……セラさん」


 不意に呼びとめられ、振り向くと、今朝見たばかりの人物がそこにいた。


「……ああ、受付の……」


 名前が出てこない。もしかしたら、付いてないのかもしれない。


「お時間よろしいですか? できれば、二人きりで……」


 カータのことを気にしているようだ。


「カータ、一人で帰れる?」

「……バカに、しないで……!」


 拗ねたようにして去る妹分を、微笑ましい気持ちで見送る。


「……で? 何の用なの?」

「……実は、見てしまったんです」

「何をよ?」


 受付嬢は逡巡しながらも、一呼吸おいてはっきりと言ってのけた。


「ゴーラとレナさんの密会現場です」


 目の前の女が何を言っているのか理解できない。


「あんた、喧嘩売ってるの……!?」


 少しずつ浸透していく彼女の言葉に、頭へと血が上っていく。


 よりにもよって、レナへの侮辱……!


 私は怒りに身を任せ、彼女を刺し貫かんばかりに睨みつけた。

 彼女は少し口角を上げ、私のことを嘲笑うような目を向けていた。


「……見れば分かりますよ。ついて来て下さい」


 普通なら絶対に着いて行かない。


 レナがそんなことをしないのは考えなくても分かる。

 しかし、私の体は何故か彼女の後を追いかけていた。


 多分、相当怒っていたのだと思う。


 街門の手前、少し薄暗い路地へと入る。


「居ましたよ」


 彼女が路地の影を指差す。


 その指先を辿って行くと――私は自身の目を疑った。

 しかし、何度目を擦っても、何度目を凝らしても……確かにいる。


 ゴーラと……レナだ……。


 レナがゴーラから何か紙のようなモノを受け取っている。


 レナ、それは何なの……?

 何でそんな奴から、何かを受け取る必要があるの……?


「何を受け取っているんでしょうね? 指令書ですかね? 小切手ですかね? お二人はお金で売られたのでしょうか?」


 横で喋る女の声が頭の中で反響する。

 弾むような声が妙に耳障りだ。


 この女は、何を言っているの……!? そんな訳ないわ!

 レナが私達を売るなんて、そんなこと、あるはず、ないのに……!


「これをカータさんが知ったらどうなるでしょう?」


 うるさい……! ち、違う、そんな、はずない!

 こんなの、駄目……! カータに、知られては、いけない……。

 いや、知る必要がないのよ……! こんなのは、何かの間違い……そう、間違いなのだから……!

 わざわざ、心配させる、必要がない、だけよ……!


 何を話しているかは聞こえないが、ゴーラは笑っているように見える。


 レナの顔は――見えない。


「楽しそうですね、貴女達と居るときよりも……。陰では、ああして貴女達の悪口でも言っていたんすかね?」


 悪口? レナは、そんなこと、言わない……! レナは、そんな人間じゃ、ない……!


〈私の知ってるレナ〉は、そんなことしない!


〈私の知っているレナ〉


 自身の発したその言葉に私は言葉を失った。


 彼女と出会って三日……。

〈私の知らないレナ〉は、どうなのだろう?

 私が、レナだと思っていたモノが本当は偽りであったら……。


 そんな考えが、私の心を波紋のようにじわじわと浸食して行く。


 三日という期間は、その人の全てを理解するには到底時間が足りない。

 それゆえに、目の前で起こった虚実の影響で、私は彼女のことを信じ切れなくなっていく。


 終始笑みを絶やさないゴーラは、上機嫌でどこかへ去って行った。


 やはり、レナの顔は――見えない。


 嘘だ。そんなはずない。ありえない。違う。間違いよ……。


 私は導かれるように彼女の元へと足を向けた。


 レナから話を聞きたい……。


 しかし、直接的な質問をする勇気は私にはなかった。

 もし、彼女から直接拒絶の言葉をもたらされたら、私の心はガラスのように容易く壊れてしまうだろうから。


「レナ……どうしたの、こんな所で……?」


 私が声をかけると、彼女は驚いた顔を私に向けてくる。


 私の心に芽生えた疑惑の心が、その仕草を敏感に感じ取り、心のどこかにヒビが入る音を私は聞いた気がした。


 それでも、私は心に言い聞かせる。


 そんなはずない。言ってくれるはず、本当のことを……! 私は信じているから……!


「……いや、変な奴に絡まれてさ」


 レナの返答は私の心に再び大きなヒビを刻む……。


 な……なんで隠すの……? 真実を言ってくれないの……!?


 レナのいつもの優しい笑顔が、仮面を付けた悪魔の笑みに見えた。


「そう……急がないと、門が閉まっちゃうわよ……?」


 何で……何で、何で。何で? 何で! 何で!?


 ヒビを修復しようと、幾つもの思考が飛び交うが、それはヒビをいたずらに悪化させていくだけであった。


「そうだね、今度こそ行ってくるよ」


 そう言って去って行く彼女が、私から逃げて行くような錯覚をもたらす。


 レナの全身黒づくめの服装が闇へと溶けていく。


 そして、それと同じように、心のヒビから少しずつ染み込んでいく黒い感情が、内側の脆い所から私自信を黒く塗りつぶしていった。


「言ったでしょう……?」


 違う、勘違いよ。

 だって、あんなに私達の為に、頑張ってくれたじゃない。


「全て演技だとしたら?」


 食堂でだって、あんなに怒っていたし……。


「彼ではなく、貴女にではないのですか?」


 私達の為に、あんなに泣いて……。


「涙は、女の武器ともいいますよ?」


 裸で倒れていたのを偶然……。


「仕組まれていたとしたら、どうしますか?」


 カータの姉に……。


「嘘も方便と言う事では?」


 私の……。


「現状、守られていませんよね?」


 でも……。


「本当ですか?」


 彼女は一切、私の望む答えをくれない。


 否定ばかり……疑問ばかり……!


 私は彼女の勧めるまま、酒場のような場所に連れて行かれた。


「これは奢りですよ。食べて下さい」


 運ばれてくる料理に手をつける。


 不味い、変な味がする。


「特性ドリンクですよ」


 薬の様な苦味と、変な甘みが、口の中に広がって行く。


 不味い、吐き気がしそう。


「もう、要らないわ……」

「そうですか」


 店主が皿を下げる。


 まだたくさん残っているから、食べれば良いのに……。


「まだ、信じているんですか?」


 彼女の言葉に、私の体はピクリと反応する。


「私は信じていたいの……」


 彼女の笑みが深くなる。


「そうですか。そして、裏切られるわけですね……」

「そんなわけない、と思うわ……! だって、私達は仲間、のはずなんだから……!」

「私も経験があります……。信じて、信じたくて、裏切られるんです……」


「一緒にしないで……!」

「一緒ですよ」

「違う……!」


 頭を抱えてかぶりを振る私の耳元で彼女は囁く。


「分かります、貴女の気持ちが……。辛いですよね……悲しいですよね……!」


 私とあなたは、違うはずなの! 私はそう信じたいの!


 不安定な所でユラユラと私の理性が揺れている。

 少しでもバランスを崩したら、奈落の底まで落ちてしまうだろう。






 その店にどれくらい、いただろうか?


「そろそろ、ですかね……」


 彼女はおもむろに立ちあがった。


「貴女に真実を見せてあげましょう。それで判断すればいいでしょう」


 店の外に出る。

 夜も更けているというのに、外にはまだ人がたくさんいた。


「見て下さい、あの馬車を……」


 ゆっくりとおぼろげな意識の中、彼女の指が示す方向へと目を向ける。


 馬車からは男女が二人ずつ出てきた。

 女の方は知らないが、男はゴーラのグループに属した奴らだ。以前見たことがある。


 そしてもう一人。


 その馬車の影から飛び出た人影は……私がこの三日で、興味を持ち、恥を見せ、感謝し、嫉妬し、好きになり、大好きになり、愛し、怪しみ、困惑し、困窮し、恨み、嫌いになり、それでもやっぱり大好きな……レナだった。


 そんな彼女が、目の前の宿屋へ入って行く。


 ゴーラが根城にしている宿屋……。


「どうですか?」


 かのじょが、なにかをいったけど、わたしは、もう、なにも、ききたくないの……。

 かえろう……やどやへ……。


「…………」


 スルリと目から零れた雫が、私の心の崩壊を告げる合図だった。




「あーあ、壊れちゃいました……。でも、これで終わりですね。そもそも、ギルドの中で予定なんて話すからこうなるんですよ?」


 彼女は嗤う、まるで歌でも歌うかのように……。


「あなた達のパーティ名〈BLACK LILIES〉……黒百合、ですか……。花言葉は恋と呪い。まあ、情が深ければ深い程、疑惑という呪いには効果的ということで、今のあなた達には、ぴったりなのかも知れませんね。まあ、薬漬けにして今日にでも、っていうのは無理でしたけど。まあ期日まで従順な玩具ができたってことで。あとは、精々頑張ってくださいね」

 非常に後味の悪い終わりになりました……。


 このあとレナはどうなるのか……?


 少しでも面白いと感じた方は、ご意見ご感想、ご評価とごブックマークなどをお願いします!


 他にも短編をいくつか投稿しております。

 興味がある方は是非ともご覧下さい。(テーマはかなりバラバラです)

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