ジャスティン・バトラーの面接 佐戸輝彰の場合
エルクに促されて入室した佐戸は、そういえば改めてジャスティンと対峙するのも久しぶりだな、と思い出す。
だからといって、こいつに限ってそういった感情を表出するわけでもないし、さらに言えばそんな感情すら持ち合わせていないのかもしれない。
「このPMCとやらは、お前が作ったのか?」
「ふむ、ご推察の通り」
ジャスティンは腕を組んで言った。
「ただ最近、世の中が平和でね。教導隊を創設しようと思っている」
「なかったのか?」
「無名に近い傭兵組織だ。誰が依頼するというのだね?」
無名に加えて、創設者は管理局員だ。まともな軍隊ならば、胡散臭がって依頼などしない。
「だが実戦で働いていた貴君が教導隊のリーダーとなるならば、話は別だ。あの大戦に参加して、尚未だ前線に立つような人間は少ない。それほどまでに被害は甚大で、根深かったわけだ。そして各国とて、最悪の自体に備えて対異人種の対策は立てておきたいわけだ」
「なるほど、な」
「基本的には現在傭兵として働いている者たちを再訓練させ、また依頼があり次第出向いてもらう形になる。給与に関しては年棒制をとっていて、まずは六○○万からスタートし、依頼があればその都度報酬という形で追加ボーナスを用意する。平時は土日を休みとして、八時間労働。細かい事はこの書類に目を通し給え」
言いながら、ジャスティンは机の引き出しを開けることもなく、ただ指を鳴らす。
すると瞬間的に、佐戸の膝の上に書類の束が落ちてきた。
驚きながらそれを受け取った佐戸は、忌々しげに口を開く。
「お前が戦場に出たらどうなんだ? そんな力があるのなら、死にはしないだろ」
「ふむ、佐戸よ。ならば逆に聞くが、貴君は一日中この部屋で書類を片付ける仕事が出来るのか?」
「はっ、そんな仕事はもう懲り懲りだ。俺は地道にそんな仕事をこなしていた筈なのに、今じゃこの有様だよ」
「そう言うと思っての提案だ」
「新島はこの話を受けたのか?」
「いや、彼には無理だ。精々あの幼い思想を掲げ押し付ける事しか出来ないだろう」
「だろうな。てことは、不採用ってわけか」
「傭兵としては、だが。奴は元の鞘に戻っただけだ」
「なるほど……お前にしちゃ、粋な事をするじゃねえか」
「敢えて彼の言葉を借りるならば、これは私なりの正義だよ。貴君にも色々世話になったものだしな」
「お前も随分と、丸くなったものだ」
「……ふっ、私もらしくないな。慣れぬ事をして、少々疲れたらしい」
目頭を抑えて、やや疲れたように大きく息を吐いた。
「まあ――そういう話だよ。もし未だホテル暮らしを続けるつもりならば、そちらに諸々の書類を送る。判断はそれからでいいし、もし金銭面に不安があるなら都合しても構わない」
「ま、多少の覚えはあるから金に関しては心配しなくていい。ホテルもそのままだから、そうして貰うと助かるよ」
「ああ、じゃあそのようにしよう。もう帰っても構わないよ、私もやや疲れたしな」
「感謝する。仕事っぷりで、この恩を返せりゃいいがな」
「気負わない事だ」
ジャスティンはそれだけ言うと、床を蹴って椅子ごと回転する。背を向け、窓の外を眺め始めた。
それを見て、「じゃあ失礼する」とだけ言い残し、佐戸はその場を辞すことにした。




