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僕の日常、非日常

 黒の短髪をかっちりと整えて、黒いワイシャツに、白のチノパン姿で新島夕貴にいじまゆうきは伊達メガネを押し上げて、一つ小さくため息をついた。

「まあ、そういうわけでして」

 ――モン・ステア学園第三女子寮。

 新島はそこの食堂で、その住人全員に囲まれていた。

 ケンタウロスのユリ・フォウリナー、蛸女のカナ、蜘蛛女アラクネのアーニェ・アレイ・ハイム、そして新米寮長である人間の桜田琴乃。

 訳を知っているエルクは席を外しているのが、心底残念で仕方がない。

「どういう訳?」

 ユリは腕を組み、隠しきれていない微笑みを無理やり眉間にシワを寄せて押し殺している。夕貴は腕の上に乗ったたわわに実った柔らかなそれに視線を引き込まれてないように、目線を外す。

 アーニェに関しては隣で新島の顔を覗き込むほどの距離で、ふふふ、と素直に嬉しそうに笑っていた。

「理由も過程も何も聞いていないのに、そういうわけもこういうわけもないんじゃないですの?」

「そーだよ! そーだよ!」

 ほとんど賑やかしのように触腕を振り上げて野次を飛ばすカナ。良い終わったらいい仕事をした、と言わんばかりに満足げな顔で食卓に並ぶ朝食を食べ始めている。

 琴乃は正面に座るユリの隣で、どこか心配そうな、不安げな顔で新島を見ていた。

「ま、まさか、まだ何かに追われていて逃げてきたというわけではないですよね……?」

「ああ、そんなんじゃないよ。僕はもう正式に管理局の人間じゃなくなったんだ。それで……残念な報告もある」

「な、なんですかっ!?」

「君は寮長見習いに戻り、僕が改めてここの寮長になったというわけだよ」

「……それは本当なの?」

 ユリが腕組みを解き、テーブルに手をついて立ち上がる。顔を近づけ、半信半疑だというように夕貴を睨んだ。

 信用できない。言葉にせずともそう言っているようなものだ。

 確かに新島には前科がいくつもある。彼女らに黙って姿を消したこともあるし、危険な仕事も何も告げずに遂行する事もあった。

 だが、

「ええ、これに関しては夕べ伝えたはずですが」

 これからはそんなことは決して無い。

 なぜならば、己はもう管理局に所属していないからだ。

「僕はジャスティン・バトラーの命に従い、この第三女子寮の寮長として務めさせて頂きます」

「そういうことなら、このお助け屋アーニェがあなたの身の回りの護衛をするしかないですわね。ガッコなんて行っている暇がありませんわっ!」

「僕は逃走中の重犯罪者かなんかですか。僕はともかく、アーニェさんは学校に行ってください」

「わっ」

 琴乃が不意に声を上げる。思わずビクッ! と身体を弾ませて驚くと、続けて彼女は言った。

「私は、どうすればいいですか? あとあと、理事長の命によりって、どういう事なんですか?」

「ああ……とりあえず、みんなご飯食べようよ。時間が早いから、そのまま聞いてください」

 手を叩いて、改めて場の主導権を無理やり引き戻す。

 辺りを見て、各々が箸なりフォークなりを手にした所で、新島は話し始めた。

「それは昨日の出来事でした」

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