世界が書き変わった~悪役令嬢の改変能力でシナリオが変わってしまいました~
この世界は何度も同じ出来事を繰り返している。
私は前の周回と同じように、王子様ー、リアムに跪かれていた。
「ルーシー、君を、愛して…」
そこで、ジジ、と画面が歪む。
気付くと、私はベッドの上にいた。
「またこれか…」
どうやら、また時間が巻き戻ってしまったらしい。私は息を吐くと、そのまま身支度を始める。
今日は、何回めの今日だろうか。今日は学園の入学式だ。
いつも通りの。
学園の寮で私は鏡に映る自分の姿を見つめる。そこには、桜色の髪と、空色の瞳の少女がいる。いつも通り。すべていつも通り。
だけど、学園に向かったら、いつも通りじゃなかった。
いつも通り、校庭の中庭の、マグノリアの木の前で物憂げな瞳のリアムがいた。だけど、そこには既に先客がいた。リアムの他に。
「この木、1本だけぽつんと立っているのがまるであなたみたいだったから」
金髪の綺麗な女の子だった。手入れされた髪や綺麗な仕草から貴族だとわかる。その子はー、私が言うはずの言葉を言っていた。
「…なんでそう思ったの?」
リアムの言葉も同じだ。ああ。駄目だ。見たくない。私は思わず駆け出した。その様子を金髪の彼女が見て微笑んでいるとは知らずに。
学園で仲良くなった人達から聞いたが、彼女はエリザベスといって、リアムの婚約者らしい。
…これまではそんな人いなかったのに。
私は、婚約者のいる人にあまり近づいてはいけないよな、とリアムに近づかないようにしていた。彼女が私と同じ言葉を言って、同じように答えるリアムを見て、とてもつらかったから。なんでつらいのかも分からないけど。
だけど、私の行く先々で彼女とリアムは現れ、目の前で私が言うはずだった言葉を言って、リアムは同じように返すのだった。
同じことを言えば、私でなくてもよかったのだろうか。そんな気持ちにさえなった。だけど、しょうがない、と諦めようともした。だけど、惹かれ合っていく二人を見せられるのは辛くて、そのたびに心が張り裂けそうだった。だけど、婚約者もいる人に、平民の私が近づくのはよくないことになる事も分かっていた。
そうこうしているうちに季節はめぐり、学園祭の季節が来た。リアムは実行委員として忙しくしている。ただ、頑張りすぎているようで、顔色が少しずつ悪くなっていっているのが心配だった。
そんなある日。私はマグノリアの木の前に立っていた。あの日、すべてが変わってしまったのだ。あの時、何か動いたら状況は変わったんだろうか。そんな風に見つめていた時だった。
「君、大丈夫かい?」
聞きなれた声。そこには
「つらそうだけど…」
リアムが、いた。
「あ…」
だけど、その瞳を見た瞬間、耐えられなくなって、涙が出てしまった。前と変わらない、優しい瞳。だけどおかしい。リアムとこんな会話、前はしなかった。
「だいじょうぶ、です。」
「本当に大丈夫?」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫なので」
「…そうか」
リアムはそれ以上深入りしなかった。
だけど、なんだか寂しそうだった。
でもそう思ったのは、私の気のせいなのかもしれない。
学園祭がやってきた。私はクラスの出し物を手伝っていて、自分の順番が終わったので友達と学園祭を回っていた。だけど、途中で友達が好きな人と回ることになって、私は別れる事にした。
その時、マグノリアの木の前で、リアムと、エリザベスさんが並んでいた。
二人が手を繋いだ瞬間を見て、本当に耐えられなくて、私は自分を抱き締めようとした。その時、手が体をすり抜けた。
「…えっ?」
体が消えかけている。どうして。私は怖くて駆け出した。こわい。こわい。
私は、人のいない所を探した。この姿を見られたくなかった。
その頃、とんでもない事が起こっているとは知らずに。
「おらおら、道を開けろ!」
「貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんがいっぱいだなーおい」
刃物を持った集団が、学園を襲っていた。それは敵国の軍隊だった。彼らは生徒達を次々と捕縛して、講堂に集めた。そして、集団のトップと思しき人物が舞台の上に立つ。
「我々はキーゼル国の軍隊だ。君たちは人質だ。君たちと引き換えに、アルレズ鉱山を我が国に譲渡してもらう。二十時間後にそれが果たされなかった場合、一人ずつ殺していく」
「まず、リアム王子に出てきてもらう。彼は最も大事な人質だからな。出てこない場合、まず一人殺す」
王子の護衛達は既に捕縛され、無力化されていた。
リアムは出ようとした。だが、それをエリザベスが止める。
「あなたが出なくていいわ、あなたは尊い身なのよ、国民は代わりがきくけど、あなたは…」
「…君は昔からそうだったね」
リアムは微笑んだ。
「でも私は行かないといけないんだ」
リアムはエリザベスの手を振り払う。
「私はここだ!生徒達を解放しろ!」
「おっ出てきたねえ」
「馬鹿な王子様だ」
「なぜこの学園に入れた、キーゼル国との国境は防衛していたはずだ」
「それはだね、君の婚約者が情報を流してくれたからさ」
「…は?」
「どういうことですの!」
それを聞いて顔色を変えたのがエリザベスだ。
「あなたがエリザベスか。あなたがうちの王太子と文通してくれてるだろう。そこに廃鉱山の情報を書いてくれたから、そこから侵入したのさ」
「エリザベス…!?」
「ちが、私はそんなつもりじゃ、だって、そんな…」
エリザベスは才気溢れる女性で、事業に手を出したり、ほうぼうの有力者とやりとりしたりしていた。だが、こんなことを引き起こすとは。
「信じて、リアム!私はそんなつもりじゃなくて…」
「おっと、今はその話は後だぜ。」
キーゼル国の男が椅子を持ってきて、そこにリアムが座るよう促す。
「じゃあ、王子様、人質よろしく…な!?」
その時、ボスっぽい男を一人の女生徒が殴り、ナイフを奪って男に突きつけた。
「…えっ!?」
リアムは目を見開いた。
「リアム、大丈夫!?」
そこにいたのはルーシーだった。
私はその様子を講堂の端から見ていた。
「リアム…」
体がほぼ消えかけの私は、キーゼル国の男たちには気付かれなかった。どんどん体が消えていって、自分が誰かも分からなくなってきた。
「消えたくない」
そう思いながら、講堂の中を観察する。主犯ぽい男は、なんとなくこの中では一番いい家に生まれた感じがする。高位貴族たちと同じ雰囲気があるのだ。ということは、彼を抑えれば集団を無力化できるかもしれない。などと考えたが、果たしてこの消えかけの自分に何ができるというのだろう。
だが、どうせ消えかけなら、いいことをしてもいいかもしれない、と思い直した。
ルーシーはまず、王子の護衛達のロープをこっそり緩めた。ほぼ消えていたので、気付かれなかった。護衛達がひとりひとり、自分の拘束が解ける事に気づいたのを確認すると、そのままリアムを脅す軍人たちに忍びよる。だけど、このまま護衛達が動いてもリアムからは離れているため間に合わないだろう。自分には何ができるか、とふと怖くなってしまった。
そう思っていたのに、リアムが脅されているのを見て、体が勝手に動いた。
舞台の上の演台をつかんで、思い切り振り回して、主犯の男を思い切り殴った。
「生徒を解放しないとこの人を殺しますよ!」
それを見て、リアムと護衛達が動き出した。
リアムの周りにいた軍人たちに殴りかかり、無力化した。主犯の男が無力化されると、軍人たちは抵抗をやめた。
その後どうなったかというと。色々と忙しかった。まず、キーゼル国との国境の防衛の見直しとか、エリザベスの家への処罰とか、色々あったらしい。そして、ルーシーは。
「ルーシー・ブロッサム。貴殿にこれを表する。…息子を助けてくれてありがとう!」
「いえ、謹んでお受けしまひゅ…。」
「ありがとうルーシー。君のおかげでみんな救われたんだ」
王城で表彰されていた。
「でもどうしてあんなことできたんだい?」
「なんででしょうかね、ははは…」
まさか消えかけていたとは話せなかった。
城の牢に、一人の貴人が収容されていた。エリザベスだ。
「エリザベス」
「…リアム」
「私は処刑されるの?」
「させないよ、私が嘆願したから」
「でも家は取り潰しでしょう?」
「そうなるね」
「…やっぱりストーリーの強制力なのかしら」
「どういうことだい?」
「だって、あなた私を愛してないじゃない」
「…気付かれてたんだね」
リアムは困ったように笑った。
「君がどんな人間か、子供の頃から知ってる。だから、学園に入学してから様子が変わって変だなと思った。それに逆らえない自分もね」
「…あなたは誰が好きだったの?」
「…分からない、多分、君が真似している誰かに恋してたんじゃないかな。君ごしに」
それを聞いて、エリザベスは泣きそうな顔をした。
エリザベスは転生者だった。それも、強力な力を持った。彼女は現実を書き換える能力を持っていた。子供の頃から、自分の今いる世界と別の世界を書き換えていた。気付かなかったのは、生きている世界の現実は書き換えれなくて、認識できない世界を書き換えていたから。
そのことに気づいたのは、死んでから。世界の外側に行って認識したのだ。そこで、彼女はある世界を選び、自分の思い通りに書き換え、その世界で生きる事にした。誤算だったのは、その世界に生まれ変わったことにより世界を書き換える能力を失った事だが、それでもよかった。彼女はルーシーの事が一目で嫌いになって、彼女を苦しめる事ができるならなんでもよかったのだ。好きだった悪役令嬢ジャンルの悪役令嬢みたいに、正当な立場で彼女とリアムの仲を邪魔したかった。
そのためにリアムの婚約者になって引き裂こうとしたのに。結局、色々な事に手を出したことにより、管理が杜撰になってこうなってしまった。だけど、現実を書き換える力はもうなく、彼女はこの現実を生きるしかない。
マグノリアの木の葉が揺れている。
「リアム殿下」
ルーシーの呼ぶ声。
「またここにいたんですね」
「ルーシー」
「あまり一人になると護衛の人達が心配しますよ」
「そうかな」
「…それに、あなたはいつも誰かといても一人に見えて、心配になります」
「このマグノリアの木みたいに?」
「そうです…あっ!」
しまった、とルーシーは思った。エリザベスと同じ事を言ってしまった。
「でももう、このマグノリアの木はひとりじゃないんだ。もうすぐ隣に同じ木を植えるらしいから」
「あ、そうなんですね…。」
事件から結構経って、ルーシーはよくリアムと過ごすようになった。こうして優しく話してもくれる。
「ねえルーシー。君は僕の事どう思ってる?」
「えっなんですかいきなり。」
「知りたいんだ」
「ええ…。」
「言ったら首切ったりしませんか?」
「しないよ」
「わたし、わたしは…」
マグノリアの木が揺れる。
「私はあなたを愛しています、リアム」
その途端、世界が一瞬で書き換わった。学園の庭は王城の花園に。そして、目の前のリアムは少し成長して、制服じゃなく貴族服を着ている。
「これは…」
「世界が戻ったね」
「ああ、そういうこと…」
そして、ルーシーは全てを理解した。
…ここは乙女ゲームの世界で、ルーシーはそのヒロイン。リアムは攻略対象だ。
「僕は君を自分のルートに閉じ込めたんだ」
「そうですね、それで私は、そこから抜け出せなくなった。」
「だけど、いつも僕が告白するシーンで世界は戻ってしまう。それで、不安になったんだ。君から告白してほしいって思った。そうしたら、あんなことになった。僕も君も記憶を失って、世界が変わってしまった。」
「リアム、あなたは」
「僕が彼女を呼び寄せたんだね。君に告白してほしくて」
「…ひどい」
「ひどいよね、ごめんね。君が僕意外のルートに入るのがどうしても許せなかった」
リアムはヤンデレだ。そういう風に作られた。
「そんな風に作られた事に、創造主を憎んだ事もあったよ、だけど、もういいんだ」
リアムにルーシーは抱き締められた。その腕は優しいけど強くて、振りほどけなかった。
「君の気持ちが僕の物になったから。これから先何度周回しても、他の男とエンディングを迎えても、君は僕の事を忘れられない」
「…それでいいの?」
「この世界が消えたら、君も消えてしまう。それは嫌だからね」
「私は、それでもよかった」
「え?」
「あなたと私が結ばれない世界なんて滅んでしまえばいいと思ってた」
「ルーシー…」
「ごめんね、リアム。私は何もしなかった。でも、もうリアムを離せないの。私と一緒に生きてくれない?」
「…いいの?こんな僕で」
「いいよ、でもまた周回が始まるのかな」
「あー、そのことだけど」
「もうこの世界、壊れちゃってると思う、僕らのエンディング条件は心を通わす事だけど、それを果たしてるのに、全然切り替わる様子がないから」
「…つまり?」
「つまり、誰かがこの世界を書き換えた時点で、この世界はループできなくなったんじゃないかな。だから君は…」
リアムがにこっと笑った。
「これから老いて死ぬまで、ずっと僕の傍にいるってこと」
そう言って、リアムはルーシーの唇に自分のそれを重ねた。




