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「実は掛け算、割り算というのは足し引きよりも簡単なのです」

「そうなのか?」

「はい。例えば僕は1から9までの全ての組み合わせの掛け算の答えを暗記してます」

「何、全て?」

「はい、といっても各段で重複が出ますから答えはたった36通りしかありません」

「7かける8は?」

「56です」

「5かける4は?」

「20です」

「12かける12は?」

「十の位は暗記してませんが144です」

「暗記しているではないか」

「同じ数をかけるパターンの幾つかは覚えてます」

「11かける11は?」

「121です」


 王子はルカ氏に目をやる。

 ルカ氏は首を振った。


 合ってるか知りたかったのかな。


「掛け算を覚えれば自ずと割り算が分かります」

「ほう」

「馬の脚の数で頭数を当てるのが割り算に当たります」

「そうなのか? では脚が50本見えていたら馬は何頭だ?」


 50は4で割り切れないっつの。

 そう突っ込むのは無粋かしら?

 ええと、、、


「発情期の雄馬が10頭ですかね」


 王子とルカ氏の頭の上にハテナマークが浮かぶ。


「ブフォッ!」


 おお、ルカ氏は早かったな。


「おい。なんだ、なんだ?」

「、、、雄馬でございます、、、」

「意味がわかんぞ?」

「オスには脚と別に、5本目の足のようなものがございましょう、、、?」


 暫く静止したのち、王子は爆笑した。

 腹を抱え、身を捩り、机を叩いて笑った。


 この世界の笑いは沸点が低いよな。

 小学生のなぞなぞレベルだぞ、こんなの。


「、、、馬鹿を言うなアレは足ではないぞ!」


 そう突っ込んでなお笑っている。


「4を掛けても50にはならないもので」

「だからといってな、、、」

「はあ、、、苦しい。オミ殿は発言に気をつけていただきたいものですな、、、先日といい、時と場合に寄っては問題になりますぞ、、、」


 王子は大きく息を吐き、腹を押さえながらも姿勢を正した。


「なんだ、前にも変なことを言ったのか?」

「ええ、城に初めてお見えになった時分に一般常識の度合いを知ろうと思いイリスの禁忌を、、、、ブフッ、、、」

「なんだ?」

「、、、禁忌を訊いたところ、オミ殿は真面目な顔をして『イリス湖に小便をすることです』と、、、」

「ブッ!」

「いやあ、カイエンで本当にそう習ったんですよ?」

「アハハハハハハハ!」


 なんだかなあ。

 リンにしろこいつらにしろ下ネタへの耐性が低くすぎんだろ。



 これも後に知ったことだが、クラウディオ王子はあらゆる場で馬の脚のジョークを幾度となく披露したらしいが、相手に掛け算の知識がないと通じないといって嘆いていたそうだ。

 そのせいでポリオリでは掛け算九九の暗記というのが義務化されていくのだが、全く歴史とは面白いものである。


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