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「新しい数学の教師か。もう我は数学を分かっている。これ以上は必要ない」


 翌日、ルカ氏に王子の部屋に連れて行かれると、クラウディオ王子はまだ着替え中だった。

 上半身裸で汗を拭いている。

 剣術の稽古の後なのかな。


「そもそも、難しい計算は専門の優秀な者に任せておるのだ。我が手を出して良いことではあるまい」


 栗色の癖っ毛が色白の肩にかかり、なんとも美しい。

 それよりも俺が注目したのはしっかりと育った肩の筋肉と背中の筋肉だ。

 剣術を幼い頃からしっかりやっているとこんな身体になるんだな。

 羨ましい。


「我に数学を教える程に優秀なのなら兵の後詰めの下働きでもしてもらった方が有用というものだ。ルカだってそう思うだろう?」

「しかし、坊っちゃま、、、」

「うむ、それが良いだろう。我が領地は無駄な人財を遊ばせておくほど裕福ではないのだ」


 そこまで言い切って、初めて俺に目をやった。

 意外そうに目を見開く。


「子供ではないか。ルカも焼きが回ったな。こんな者から何を学べと?」

「坊っちゃま!」


 城おじのルカ氏も手を焼いているのだな。


「初めましてオミクロンといいます」

「変わった名だな」

「僕の村では生まれた順に数を当てはめて呼ぶのが通例だったようで、こうなりました」

「ふむ、15番目の子か。子が多いのだな」

「幼いまま死ぬ子も多く、実際はもっと少ないです」

「ふむ、貧しい農家か」

「はい、貧しい漁村でございます」


 クラウディオ王子はシャツに腕を通した。

 残念。

 美男子の裸はもっと見ていたい。

 いや、そっちのケはないのだが。でも、美しいものは癖は関係なく美しいのだ。


「その漁村の子供が我に何を教えると?」

「今回、数学の教師としてあてがわれましたが、僕は教師になれるような優秀な人材ではありません」


 王子は訝しげに眉尻を上げた。


「どうぞ僕のことは新しい手下や下僕のようなものだと思ってください。僕は剣術も乗馬も出来ません。そういう訳でこの城の下働きの見習いとしては失格だそうで」

「ならば何故、我に押し付けられたのだ?」

「僕は東方統括部長官であらせられるリサ様に拾われまして、魔術その他の手解きをしていただいてます」

「ほう、姉君の、、、」

「ところが軍からは僕を捨てるように指示されてしまいまして、苦肉の策として僕をポリオリに送られました」

「捨て犬のようだな」

「左様で。今回は一応教師という肩書きをいただきましたので何卒王子に匿っていただきたいのです」

「ははあ、そういう事か」

「はい。むしろ剣術や乗馬など、生き延びる為に必要なことを教えていただきたい程なのです」


 王子は部屋を歩きながら何かを思案していた。


「魔術の手解きと言ったな。お前も魔眼持ちなのか?」

「いえ、僕には魔力は見えません」

「何が魔術を使ってみろ」


 テストか。

 何か派手で珍しいのが良いんだろうが、人に見せれるものは特にないんだよな。


 そう思っていると窓から風が吹き込んできた。

 この世界は窓にガラスなんか入っていない。

 この城の窓は縦長のスリット状の明かり取りだ。


 俺は口の中でゴニョゴニョ言いながら手を窓に向けた。


 幅10センチ、縦に1メートルほどのスリットに氷の膜を張ってみせた。

 ガラス窓のように見えるだろう。


「ほお、見たことがない魔術だな。これは氷か?」

「はい」


 王子は机に置いてあった剣を手に取ると抜かずに鞘で氷をつついた。

 カツンと音がした。

 もう少し強くつつく。

 するとカシャンと割れ、破片は外に落ちていった。


「ほうほう。他には何ができる?」


 俺は今度は氷のグラスキューブを作ってみた。

 中は空っぽである。

 

 空中に浮かぶキューブを手に取ると王子は感嘆の声を上げた。


「軽い! 中は空なのか!」

「はい」


 しけしげとキューブを眺めていると溶けて穴が開いてくる。

 王子はそれをパキリと握りつぶした。


「ふむ、面白い! 全く役に立たぬが面白い!」

「ありがとうございます」

「お主は氷魔法が得意なのだな?」

「そういうわけでもないんですが、危険がなく、部屋を汚さない魔術を考えたら氷になりました」

「では火も土も風も使えるのか?」


 そういえば風魔術って見たことも使ったこともないな。


「火と土は扱えます。風はやったことがないですね」

「ふむ、風は苦手か」

「はい、おそらく」


 ルカ氏はずっと黙ったまま成り行きを見守ってくれている。

 昨日、目の前で色々乾かしたから驚いてはいない。

 変な魔術を使うヤツだという認識はあったのだろう。


「よし、お主は我が匿ってやろう。姉君に貸しを作っておくのも何かの時に役立つかもしれん。オミクロン、貴様は我の教師であるが下僕でもある。良いな?」

「はい、ありがとうございます!」

「しかしオミクロンと呼ぶのは長いな」

「どうぞオミとお呼びください。長官にもそう呼ばれています」


 クラウディオ王子は満足げに頷いた。



 いやあ、なんとかなった、、、

 ここで放り出されたらどうにも困るもんな。


 てか、客人として寛いでいろって話はどこへ行ったんだ?

 バリバリに働かされそうだぞ。


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