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ポリオリを発見したのは良かったが、そこからの道のりは厳しいものだった。
アップダウンが多い。
道に落ちてる石が大きくて避けるのも踏み越えるのも面倒くさい。
それらはまだいい。
なにしろ風が強いのだ。
砂を巻き上げ目に入る。
寒い。
石がやたら落ちてるのも相まってバランスを崩す。
風を止めてくれるなら銀貨3枚払う。
そんな気持ちにさせられた。
今思えば森の中は風がなくてラクだった。
木は風を弱める作用があるんだろうな。だって防風林なんて言葉があるくらいだもんな。
しかし、森が切れたから風が強いのか、それとも風が強いから森が育たないのか、どちらだろう?
以前、前世のどこかで下手に木を切ると風が通るようになりどんどん木が枯れて倒れていくみたいな話を聞いたか見たかした気がする。
あれは何だったっけ?
木にも風に強いとか弱いとかもあるんだろうな。
防風林といえば松だしな。
あれは海岸線だからかな?
塩に強いのかも。
いや、砂でも育つのかも。
松といえば村には松が生えていたな。
数少ない木のひとつだった。
背が高い木は松とシュロだけだった。
シュロって木でカウントして大丈夫?
あとは椿とかの灌木だけだった。
松の葉は囲炉裏に焚べて煙で蚊遣りに使ったな。
村といえばイータは元気かな。
やっぱ俺がいなくなって怒ってるかな。
帰してもらえるチャンスがあったのに断っちゃったしな。
それともジッタが俺の求婚に焦って奴も求婚したかな。
そもそも最初はそれが狙いのひとつだったもんな。
もしイータが嫌じゃなければジッタと結婚して幸せになってくれるといいな。
村長の息子だし若い世代のリーダーだし。
そう。
そうなのだ。
俺は長官に指導されて使えるようになった魔術や、船で習った剣術、ロッコやリンのおばあちゃんに教わった料理、リンに教わったサナ語なんかが凄く新鮮で楽しくて、もう村で漁だけやって生きていくイメージが湧かないのだ。
プロポーズしといてなんだが、あの村の生活にもう余り魅力は感じない。
いつかイータを迎えに行って村から連れ出したとして、船の旅や街の暮らしをイータは喜ぶだろうか?
いや、そんな疑問は言い訳だ。
そもそも俺はいつかあの村を出ようと思っていたじゃないか。
それなのにイータに恋して浮かれてプロポーズまでして、先のことを考えなかった俺は最悪だ。
俺がアホなせいでイータの未来に傷をつけてしまったかもしれないのだ。
やっぱり俺なんか生まれて来なかったほうが良かったんだ。
俺は自己嫌悪のあまり歩む足を止めた。
瓶底矯正ニキビっ娘だってそうだ。
俺は女が絡むと先のことを考えられなくなって相手の気持ちも自分の気持ちも分からなくなって冷静な判断ができなくなって最悪のチョイスをしてしまうんだ。
リンだってそうだ。
あんなに期待してくれているのに俺には婚約者がいたのだ。
サナ語を習うならルーメイ叔母さんだけで良かったじゃないか。
魔石を売ったお金で雇えば良かったんだ。
なのに家にまで泊まり込んで仲良くなって。
ああ、死にたい。
話す相手が居ないからか取り止めもなく思考の渦に絡め取られていってしまう。
マズい。
考えてもどうにもならない過去について囚われても良いことはないのだ。
「ああ、、、クソ!」
敢えて声を出して俺は歩き出した。
声を出したこと自体が久しぶりだった。
何でも良いから声を出そう。
歌でも唄うか。
歌といって思い出すのはイータとイオタに教わった「海と砂の唄」だが、イータのことを想起した流れでまた自己嫌悪の渦に囚われそうになる。
「クソ!」
俺はそこから「クソ」しか言葉を知らないロボットみたいにクソクソ言いながら歩き続けた。
一人旅なんてするもんじゃないな。




