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さて、今日は昨日と同じ轍を踏みたくない。
しかし距離は稼ぎたい。
俺は昼食も歩きながら摂り、太陽の高さと地面の平らさに神経を注ぎながら足を運んだ。
平らな場所は見つからない。
そもそも、道すら斜めなのだ。
工事が入って削られ慣らされた道ではないのだ。
平らな場所を探すのは諦めて別の手も考えねば。
毛布をハンモックのように吊ればいいのでは?
そんなナイスアイデアが浮かんだがロープがない。
そして見渡してもロープに使えそうな丈夫な蔓などは見つからない。
巾着の紐を全て抜けば充分な長さの紐になるのでは? いや強度が足らない。
昨日は土を掘ったからアレなのであって、むしろ土を盛って平らにすれば良いのでは?
道の脇の下生えを抜きまくって柔らかい土を集めれば、、、いや、スコップが有ればまだしも素手では時間がかかるだろう。
そもそも寝転がった瞬間に崩れてしまいそうだ。
水魔術か火魔術で、、、何も思いつかない。
昨日はどうやった?
精霊に頼んだらパキッと土が削り取られた。
、、、、あの削られたぶんの土は何処へ行ったのだろう?
火は消える。水は蒸発する。
では土は?
もしかして魔術で蒸発させたのか?
それなら膨大な魔力が必要そうだ。
土はただ移動させればそんなに魔力を必要としないのではないか。
実験だ。
俺はしゃがみ込んで地面を見つめ、茶碗の窪みくらいの穴をイメージする。穴の横には取り除いた部分の土の山をイメージする。
「土の精霊よ、今のイメージ分かったか? 分かったならよろしく頼む!」
サクッ
穴が開いて山ができた。
成功である。
魔力は?
ほとんど使ってない。
「そういうことだったか」
俺は声に出して言った。
以前、長官と魔石の魔力を抜き出す方法について聞いたとき、得意な魔術によって効率的なイメージが違うという話をしていた。
俺のこの世界での人生は半分くらい水に浸かって生きてきた。
水に関しての前世の記憶もあり知識もある。
沸き、凍り、蒸発するのだ。
全て体験がある。
土はどうか。
土は蒸発したり溶けたりしない。
掘れば掘ったぶんの山ができる。
何か作るならそのぶんの材料が要る。
火だってそうだ。
光はどうか。
光を作るには何が要るか、熱だ。
キコの使った光の魔術は過激な火魔術だったんだ。
それであんなに魔力を消費するのか。
いや待て、そういえば土は溶けるな。
砂鉄なら鉄になり、石英ならガラスになる。
土や砂を扱うなら素材の見極めが大事だな。
無詠唱や精霊にお任せするのはなるべくやめよう。
やるとしてもちゃんと手順や方法をしっかり考えてから行おう。
さもないととんでもないしっぺ返しを喰らいそうだ。
俺は半分は斜面を削り、その削ったぶんで下半分を作るベッドを思いついた。
即試す。
あっけなく出来た。
おそらくこれが最も魔力消費が少ない寝床だ。
毛布を敷いて試しに寝てみる。
下半分が崩れた。
ちょっと前に想像した通りだった。
土を押し固める魔術の使い方を研究する必要があるな。
まだ日は高い。
俺は崩れたベッドは放置して先へと足を向けた。




