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 翌朝、起きると寝床の上で入念にストレッチを行った。

 特に太腿を伸ばす。

 立ち上がってアキレス腱を伸ばす。

 ついでにラジオ体操のような動きもしておく。

 足裏はまだ痛む。

 靴を脱いで足を休めたいが、まだ地面が湿っていて裸足で歩きたい感じではない。


「そういえはリロさん、よく地面が湿ってるってあの時点で分かりましたね」

「ああ、雲を通ったから」


 なるほど。

 雨は降らなくてもあれだけ雲だか霧だかが立ち込めれば地面は湿るのか。


 毛布を干そうと触ってみると一番下になっていた所は湿っていない訳ではなかった。

 手頃な木の枝に掛けて風を当てる。


 さあ、食事を摂ったらまた出発だ。



 それから毎日、食う寝る歩くの繰り返し。

 リロ氏に森や木のことをポツポツと教わりながら歩く、歩く、歩く。


 食事中は靴を脱ぎ、魔術で靴を乾かし靴下も洗って乾かした。

 少しだけ歩くのが楽になった。

 またひたすら歩く。


 疲れは抜けない。

 抜けるどころかどんどん蓄積していく。

 靴を脱ぐと足の指が攣り、薬指だけ反り返ったりした。


 

 ある日、切り立った崖の上に出た。

 眼下には待望のカイエンの街が見えた。


 城塞都市カイエン。

 そんな風に呼ばれることもあったそうだ

 広大な盆地、というか多分カルデラかクレーターだろう四方を丸く山で囲われた土地。

 中央には湖。

 湖のほとりに背の高い城が建っており、城下町が広がる。

 そして畑、畑、畑、畑。

 

 確かに山々を城壁に見立てれば、超巨大な城壁に守られた都市と言えるだろう。

 無限に供給される水と食料を有し、どこから攻め込んでも城からよく見える。


 難攻不落。

 エルフですら近寄らなかったこの都市が諸国にそう伝わるのも無理はない。


「これは攻めにくい立地ですね」

「そうなんだ。しかしそのせいで交易には向かない。他所から人や物が入って来ないんだ」

「ここで足らないものはなんですか?」

「そうだな、鉄だな。鉄鉱石や石炭はカイエンでは取れないね」

「トンネルを掘るしかないですね」

「俺らが歩ってきた距離、掘れると思うか?」

「無理ですね」



 しかしカイエンには強力な輸出品があった。

 イリス教である。


 カルデラの中央に鎮座する湖。

 これこそがイリス湖であり信仰の対象である。


 エルフの圧政が敷かれた時代、突如として湧き出しこの地に逃れた人族を救った神の水。

 この水を飲んだものは来世にて救われるようになる。


 山に閉ざされたこの土地。

 夏暑く冬寒い過酷な環境。

 自分たちだけは救われるのだ。

 神は水を与えてくださった。

 神は我々を見捨てない。


 そんな思いが言い伝えられ、書き記され、儀式化され、外にも伝わり宗教となった。


 そして80年前、エルフの大移動が始まり人々は混乱に陥った。

 エルフの指導なしには人間は治水も農業も上手くやれなかった。


 そんなおり、イリスの神官がこんな事を言い出した。

 神はエルフでなく我々を選んだのだ、と。

 この困難を乗り越え天に召されれば、神の国に招かれる、と。


 イリスの教えは爆発的に広がった。


 カイエンの唯一といって良い輸出品。

 それはイリス湖の水だ。

 神官によって汲み上げられ火の祝福を与えられた水を封じた小さなガラス瓶。

 これ1本の王都での取引金額が金貨1枚である。


 ガラス瓶以外、元手が掛からないただの水が100万円。

 もちろん商人などに任せず神官たちがキャラバンを組んで各地の教会へ届ける。

 儲かる。

 教会を増やす。

 信者が増える。

 みんながイリス水を欲しがる。


「もうウハウハさ」

「ウハウハですね。てか、、、リロさんはイリス教徒ではないんですか?」

「俺は無宗教。だってカイエンではその水を畑に撒いて、毎日飲み、その水に生きてる魚やエビを食ってんだぜ? 信じてなくても死んだら天国とやらに招いてもらえるさ」

「地元民はそんなもんですか」

「ま、俺は外の世界を見てきたしな。もちろんカイエンは敬虔な信者のほうが多いぜ。俺だって流石にイリス湖に向かってションベンはしねえよ?」

「なるほど、気をつけます」


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