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 起こされるとすっかり明るくなっていた。

 まだ暗いうちに一度目を覚ましたのだが、まだ早いなと寝直したらこの体たらくである。


 水袋の水を入れ替え、朝食を摂る。


 そういえば、基地の近くで買った野営食の説明をしよう。


 堅パンは全粒粉で作った茶色いパンを薄く切って干して更に焼いて水分を抜いたもの。

 砂糖とバターのないラスクを想像して欲しい。

 そのまんまだ。


 ドライフルーツは数種類。ひとつは干しブドウ。甘くない。酸っぱくて少し渋い。スライスした柑橘系の何か。これは酸っぱくて苦い。ナツメは甘くて酸味が少ない。苦くない。しかし種が大きく可食部が少ない。


 ナッツはクルミ、ピーナッツ、炒り豆の3種。塩はかかってないので味気ない。


 干し肉はビーフジャーキーなんかと比べるとめっちゃ太い。肉を薄くスライスする技術がないのだろう。成人男性の小指くらいの太さの棒状。硬い。筋が多い。しょっぱ過ぎる。獣臭い。多分羊肉。


 お茶。何故か酸味が強い。香りがない。旨みはあるが砂糖は入れないので微妙。


 ようするに全て美味しくない。


 しかし空腹を満たすためにボリボリ、コリコリ、ガシガシと食べる。

 噛むのが大変なので会話は弾まない。

 黙って食う。


 朝は時間を掛けられないのでお茶はなし。

 水で流し込む。


 食事の間、毛布は広げて干しておいて地面から吸い上げた湿気を抜く。

 毛布をリュックに仕舞い、出発だ。

 ちなみに毛布はリュックの一番下に入れる。

 一旦荷物を全部出さなきゃいけないので面倒臭いが、リュックは上部に重いものを入れた方が身体が楽なのだそうだ。

 上下に分かれてたりサイドにジッパーがあったりする便利なリュックが欲しい。


 リュックを背負う前に水袋を担ぐ。

 水袋は何かの動物の内臓らしく平たいナスビ型。飲み口は木製の筒が取り付けられ、コルクのキャップで栓をする。

 これを襷掛けで担ぎ、上からリュックを背負う。

 歩きながら足を止めず水分補給をするための工夫だ。

 リュックが上なのは本当にヤバい時に捨てて身を軽くできるようにだ。


 野営地を見渡して忘れ物がないか確認したら今度こそ出発だ。


 振り返ると遠くに少しだけ見える水平線から太陽が顔を出した。

 気づかなかったが山に向かって少しずつ登って来ていたらしい。

 目をやるとジロの町や河が霞んで見えた。


 ちなみに脚の疲れは取れていない。

 足裏はまだ痛く、膝はギクシャクする。

 俺は視界を塞いでそそり立つ斜面を見てため息を吐いた。



 道は山中へと真っ直ぐ伸びている。

 所どころ細い丸太を埋めたような階段がある。

 馬車は無理。

 長官たちは馬でカイエンまで行き帰りしたようだけど馬って階段大丈夫なの?


 地面は踏み固められた土だが、木の根が這いまわり、小石が転がっていてとても歩きやすいとは言えない。

 根を跨ぎ、あるいは踏み越え、石に足を取られながら黙々と歩く。

 リロ氏の歩みは俺を気遣ってかゆっくりだ。


 顔に当たるような横から伸びる枝を屈んで避けるのが微妙に辛い。腰にくる。

 そうした邪魔な枝を折れないかやってみたが思いの外、しなやかで折れやしない。


 気づくと道は山に対して斜めに走っているようだ。

 斜めに歩くのがこれまた辛い。

 足首への負担がエゲツない。

 誰か平らにしてくれ。


 急な坂があって道が折り返す。

 今度はさっきと逆斜め。

 足裏と靴がずれる感じが不愉快だ。

 靴を脱ぎたい衝動に駆られる。

 しかしこの辺の石はジロ河の土手にあった滑らかな石と違ってゴツゴツと尖っている。

 これを踏んで歩く自信はない。

 我慢だ。


 歩き続けていると腰というか尻の付け根の筋肉が痛くなってきた。

 筋トレをしたときのように筋肉が熱く燃えるように痛む。

 坂を登るのってこんなに尻を使うのか。

 俺は立ち止まって腰を捩る。

 リロ氏は平気そうだ。

 慌てて付いていく。


 下り坂に差し掛かった時、ああ、これで少しは楽できるとそう思った。

 しかしそうではなかった。

 下り坂めっちゃ疲れる。

 膝が痛い。

 太腿が辛い。

 リュックが重く、バランスを崩しそうになる。

 俺は改めて立ち止まった。


「どうした、辛いか?」

「ちょっとヤバいですね」

「よし、あそこまで行ったら休もう」


 リロ氏は下り坂の終わりを指差してそう言った。

 もうひと頑張りだ。


 下り坂の終わりまで来ると、地面が湿っていたのでもう少しだけ歩いて坂を登る。

 ちょうど良い倒木があったので腰を下ろす。

 周りは未だ深い森の中である。

 見晴らしは良くない。


「夏ならもっと楽な道があるんだがな」

「え、そうなんですか?」

「ああ、そのルートは秋になると落ち葉で埋もれて見えなくなるんだ」


 見渡すと青々と葉の茂る木もあれば、葉を落として寒々と枝だけを広げる木もある。

 なるほど。

 麓の辺りは青々としていたが植生が違うのか。


「この道は稜線を進む早くて短いルート。夏ルートは遠回りだが山間を縫って進む馬車道だ。そっちは箇所箇所に休憩所があって水場もある」

「そっちが良かったです」

「とはいえ春までは待てないだろ。このルートは水魔法が使える奴がパーティに居ないと踏破できない難関ルートだが、そういう道を知ってた方が良いだろう?」

「ですかね」

「ああ。少人数なら断然こっちだ」


 あれか。誰でも知ってる大通りだと追い剥ぎの確率も高いのか。


 本当に物騒な世界だな。

 魔術や剣術が使えないと生きていける気がしない。


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