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 翌朝、長官を起こさず部屋を出るとリュックを担いで船を降りた。


 廊下や甲板ですれ違った何人かには簡単に別れの挨拶をする。

 俺が降りるというのは既に噂が回っているようで特に驚かれもしなかった。


「そのうちまた戻ってくるんだろ?」

「道中気をつけろよ」


 そんな言葉で送り出された。


 基地の前まで行くと既にリロ氏が待っていた。

 今日の服装は昨日と打って変わってヨレヨレのシャツとくたびれたパンツ。靴だけは昨日と同じ編み上げのブーツだ。


「リロさんまた服装が戻りましたね」

「ああ、あの服で野営はないからな。さ、行こう」


 受付を通り衛兵に見送られ、向かったのは軍の中古の放出品を扱う雑貨屋。

 この世界では夜明けと共に全ての人が目を覚まし行動開始するのでこうした店の開店も早い。便利だ。


 分厚くてデカいフェルトの毛布、水袋、金属製のマグカップと木の皿。木製のスプーンとフォーク。

 靴下と靴も買うことができた。女性兵用のローカットの革靴と伸縮性が皆無の紐で縛るタイプの靴下だ。最後にふくらはぎに巻くゲートル。


 それらを身につけ、リュックに詰めると隣の食料品店へ。

 ここで野営7日間セットというのを4セット購入。

 中身は堅焼きパン、ナッツ、ドライフルーツと干し肉、茶葉というセットとのこと。

 精米された生米も少し買う。


 川沿いに出て、空いてる桟橋から基地の方を見るとセイレーン号がちょうど出航するところだった。

 桟橋から何本もの長い棒で押してもらって離岸すると櫂で漕ぎ出し、河の中腹まで来ると船首を真っ直ぐに下流に向けた。


「よし俺らも行こう」

「はい」


 町を抜け、畑の間を歩く。

 今の時期は畑には何も植っていない。落穂があるのか虫でもいるのか沢山の鳥が畑を啄んでいる。ヒヨドリやムクドリのような小さめ中型の鳥が多い。

 一斉に飛び立つと1匹の巨大な生き物のように空をうねり壮観だ。


 そのまま昼まで歩き続けると畑より牧場と民家が多くなった。

 豚が多い、次いで牛。少し馬。

 もの珍しく眺める俺にリロ氏が教えてくれる。


「家畜は匂うからこうして畑を挟んで町から遠くに飼うことが多い。農家の家は家畜小屋の隣だ」

「え、それじゃ農家さん臭いじゃないですか」

「餌やりや出産の世話があるから離れられないんだよ。水やりを考えると河の近くが楽なんだが、この辺は川沿いは製粉小屋優先だからそうもいかないんだろう」

「なるほど」


 リロ氏は今度は牧場の奥というか農家の庭を指差した。


「あの小山、何か分かるか?」

「え、何でしょう? 分からないです」

「堆肥だよ。家畜の糞と麦わらを混ぜて積み上げたものだ。あれは農家にとって宝の山だ。畑にすき込むと収量が多くなる」

「ははあ、では畑と牧場はセットなんですね?」

「そう。アホな領主は税収を上げたくて全ての土地を麦畑にしたがるがまともな領主は家畜を飼わせる。畑の面積に対しての収量が上がり、肉も食えて一石二鳥だ」

「生活の知恵ですね」

「いや、転生者が授けた知恵だ。それまでは焼き畑が中心で3期ほどで収量が減り、その都度、畑を放棄してた」

「へー。ところで人糞は堆肥に使わないのですか?」


 リロ氏は嫌な顔をした。


「ひとのうんこで育った麦なんて誰が食うんだよ」

「そうですよね」


 江戸の街は人糞を堆肥に使うことで清潔さを保っていたとか聞いたことがあるが、その辺が西洋と日本の違いかな。


「このくらいの規模の町だとトイレ事情ってどうなってるんですか?」

「基地でもそうだったろうが各家に陶器のトイレがあって、ある程度溜まると集積所に捨てに行く」

「そこで焼くので?」

「いや、ゴングと呼ばれる業者が引き取りに来る。ゴングの連中は決められた場所に捨てる決まりらしい。森の奥とか崖の下とか」


 その言葉はギルドのマニュアルにはなかったな。

 開拓地と街ではマニュアルが違うのかもな。


「リロさん詳しいですね」

「俺はカイエンの農家育ちだからな」

「では戻ったらひとまず農家ですか?」

「いや、カミさんがカイエンの街で雑貨屋をやってる。俺の仕送りだけで暮らせる筈だが子育てしながらやれる仕事を選んだらそうなったらしい」


 おお、リロ氏は奥さんに仕送りしてたのか、確かに船に乗っていると金の使い所がないから貯金や仕送りはしやすい環境かもしれない。


「じゃあ、リロさんも雑貨屋に?」

「いや、俺は少し任期が残ってる。その間にカイエンの基地の現地徴用文官に応募してみる」

「何ですか、それ?」

「基地内の雑務をこなすだけの人員だよ。出世はできないが軍に付き物の移動命令と出兵命令がない」


 事務のアルバイトみたいなものかな。


「歳いって退役したり、結婚して家庭を持った兵が選ぶ職だな。空きがあれば良いんだが」


 そういえばジロの基地で見た、衛兵や食堂のスタッフ辺りがそうだったのかも。


 なるほど。

 移動がOKならギルド職員、嫌なら基地の文官みたいな退役後の進路があるのだろう。


「駄目なら冒険者だ」

「良いじゃないですか冒険者。カイエンだとどんな依頼があるんですか?」

「詳しくはないんだが、まあ野鳥とか猪とか狩りしてるイメージだな」

「おお、狩人か。ロマンですね!」

「そうか? カイエンは夏暑く、冬寒い。そして底辺の職業だ。俺はできれば避けたいね」

「なるほど、、、」


 冒険者は底辺職か、ロマンがないな。


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― 新着の感想 ―
魔術の扱い呪いとして隠してる時点で魔物みたいな脅威はあんまないんだろうな
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