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リンとのサナ生活を始めてもうすぐひと月になる。
1週間毎に基地に戻り予定の変更がないかは確認していたがセイレーン号には顔を出してない。
もしかすると船員だけが聞いている何かがあるかもしれないから今日はしっかり船まで戻ろう。
そう思いお世話になった方々にお礼をする。
変に重たい物をプレゼントしてもアレなので頭を悩ませていたところ露天にお守り屋さんを見つけたのでそれにした。
おばあちゃんに長寿祈願のお守りを。
ルーメイと店員さんには商売繁盛のお守りを。
リンには学業成就のお守りを。
それぞれに渡して頭を下げた。
おばあちゃんは別れを惜しんでくれた。
ルーメイ達はあっさりしたもんだ。
リンはやはりしっかりと抱きしめてくれた。
「あたしも共通語の勉強することにした」
「あ、別に学業成就のお守りだからって、、、」
「違うの。あたしずっと布作りだけ出来れば良いって思って生きてきた。でも洗濯屋さんとか染め屋さんとか布作りに関わる色んな仕事があるって分かった。それに共通語が話せればアーメリア人と直接やりとりができる」
「そうだね」
「あたしはオミくんと出会って大人になったの。明日からオミのミの字をもらってミーリンと名乗ることにした。あたしが一人前になったら叔母さんの店の屋号はメーリン・リーリン・ミーリンになるから」
あ、そういう法則性があったのか。
そういうのも聞いとけば良かったかな。
「書いて! これは大事なこと!」
「あ、はい」
俺は言われるがままに書き溜めた。
「あたしは放牧地からの求婚は全部断るから、もしオミくんの気が向いたらあたしを迎えに来て」
ちょっと僕には婚約者が、、、
と、言える雰囲気ではないよな。
「わかった」
「さっきの名前で必ず見つかるから。それまでに一人前になっとくから」
「うん」
「通い婚で良いから」
「うん」
「なんなら先っちょだけで良いから」
「うん?」
リンは腹を押さえてケラケラと笑った。
「いい、あたしは本気よ?」
「わかった」
そして俺は不意を突かれて唇を奪われてしまった。
坊主頭の歯抜け下ネタ女子に。
◇
船に戻った。
荷物は多い。
おばあちゃんに教わったスパイス類にそのスパイスを畑に植えて育てるための種子。長粒米とその種籾。
ルーメイに待たされた大小様々な布、糸、針。
リンに持たされたのは各種薬。風邪薬、傷薬、下痢止めなど。
全部を手に持つのは無理だったのでリュックも買った。
リュックを買ったせいで欲しかった靴とメイスは諦めた。
「おい随分待たされたな、結納品かよ?」
「まあそんなようなもんです」
ロッコに聞かれたのでそう答えておく。
否定すれば余計にからかわれるだろう。
「え、お前村に婚約者を残してきたって言ってなかったか?」
「それはそれ、これはこれです」
これはキコである。
どう説明しても大体事実なのだから仕方ない。
「ホント凄いなあ、男の中の男ってこういうことかもしれないな」
「ひと月分の給与を一晩で溶かしたカッロさんも相当男らしいと思いますが」
カッロにそう返した。
ちょっとアホなキコなら理解できるのだが、爽やかで理知的なカッロがギャンブルって想像がつかないのだ。
「いやー、恥ずかしい! でも負けると勝つまで続けたくなっちゃうんだよね。剣術のしすぎかな?」
「俺はもう二度とカジノには行かねえわ。アレはヤバい。聞けよ、オミ。最初のうちはバンバン勝ってウハウハよ。そこからは勝ったり負けたりで少しずつレートが上がっていってよ。金貨がチラついてきて、次勝ったら倍額で金貨2枚ってとこで負けておじゃんよ。絶対アレは詐欺だわ」
うん、知ってた。
カジノやギャンブルには近寄ったらいけないんだ。
ダメ、絶対。ではなく。
負け、絶対。だ。




