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共通語が話せるルーメイが教師になってくれたことでサナ語の理解が圧倒的に進んだ。
好き/嫌い、必要/不必要、難しい/簡単などジェスチャーや図解では説明しにくい概念の語句はもちろん、あなた、私、彼、彼女など使用頻度の高い語句をモリモリ教わった。
その日は一旦基地へ戻って船で泊まり、明日からはリンのテントにお世話になる事にした。
ロッコやキコに説明するのは面倒なので黙って外出申請を提出して基地を出た。
サナに入るとまずはルーメイの店に行き、開店準備を手伝った。
基本は掃除、そして吊られた服に汚れや虫が付いていないか全てチェック。
客が触って汚れが付いたものは店頭から下げて洗濯屋に出す。
テントの入り口の布を洗濯が終わったキレイなものに張り替えて店先の掃除をして完了。
テントの奥の椅子と机でサナ語を教わる。
たまにお客が来て中断するが午前中は割と暇なようだ。
もうひとり店員は居るので中断されてもあまり時間は取られない。
昼になるとリンが弁当を持ってくる。ルーメイと店員さん、俺とリンの四人前だ。
おばあちゃんの手作りらしい。
メニューは薄い円形のパンに肉と野菜を挟んだサンドイッチのようなものや、俺の大好きなカレーチャーハンや、皮の分厚い丸い餃子のようなものなど多彩。
そしてそれがどれも美味しい。
おばあちゃん最高。
食べ終わると空になった弁当箱をリンと一緒におばあちゃんへ戻す。
弁当箱と言ったが、時に皿だったり、籠だったり、箱だったりメニューによる。
午後はおばあちゃんに頼まれた晩飯の食材をバザールで買い集め、おばあちゃんに届ける。
そしてもちろんおばあちゃんの料理を手伝う。
おばあちゃんは脚が良くないらしくあまり長く立ってられない。
俺が包丁を使えることをとても喜んでくれた。
晩飯は肉と野菜の煮込みが多い。
使う肉によってスパイスや他の食材が変わるので飽きることはない。
おばあちゃんは色々教えてくれた。
同じ羊でも前脚と後脚では扱いが違うとか。
前脚は筋が多いので細かめに切って煮込みに、後脚は筋が少ないので大きめに切って焼き物にといった具合だ。
値段は前脚の方が安い。
そんな風にあちこち手伝ってサナの生活に混じって暮らしていると言葉もかなり使えるようになってきた。
わからない言葉や表現があるとその場で聞き書き留める。
リンがその言葉を使った例とか、よくあるシチュエーションとかを再現してくれる。
もちろん高確率で下ネタが入りリンは笑いすぎてひっくり返る。
「ところでリンは俺が男って最初から知ってた?」
「うん、叔母さんに聞いてたらからね。裸の男の子が買い物に来てびっくりしたって」
「俺はリンのこと男だと思っててさ」
「そうだろうなって思ってた」
「ごめんね」
「ううん、全然。だって平たいもの」
と、また自分の胸をゆび指して笑った。
女の子と分かって観察すればリンはちゃんと女の子だった。
明るくて活発で坊主頭の女の子だった。
ジョリジョリ頭だった髪が少し伸びて短毛種の犬くらいの触り心地にはなっていた。
◇
おばあちゃんのお使いのついでに露天のあちこちを見て回り、魔石も売れた。
魔石を買ってくれたのは露天ではなく石造りのしっかりしたお店。
赤い色が出て透明度が高く濁りもない自慢のひとつに銀貨1枚の値を付けてくれたのでそれだけ売却した。
10万円である。
びっくりした。
隣で見ていたリンもびっくりしていた。
「ひょっとしてオミはお金持ちの家の子?」
「いやいやいや、もっと小さいのから始めて売上でまた仕入れてさ。こんなのは初めてだよ」
「まだ子供なのに大人みたいに仕事してるんだね」
「いやいや、ホント偶然」
大金を持っているのは不安なので魔石の売上の殆どを新たな吸魔石の仕入れに使い、残りで小さなナイフとウエストポーチを買った。
「みんなには内緒にしてね」
小さな魔石をペンダントトップに固定できるネックレスが売っていたのでそれも買い、まだ少し黒みの残っている青の出ている吸魔石を取り付けてリンにプレゼントした。
「まだちゃんと魔石になってないけどリンの魔力でそのうちキレイな青になると思う」
リンの反応は意外と薄かったが嫌な訳ではないだろう。
「すっかり青くなったら今日みたいに売ればひょっとするとそれも銀貨になるかも」
そう言うとリンは何を言ってるんだと言わんばかりに首を激しく振った。
下ネタは出てこなかった。




