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もうちょっと流されるのではと思っていたが、渡し船は基地の港の少し上流の桟橋に流れ着いた。
まだあまり見ていなかったアーメリア側の村の街並みを眺めながら歩く。
川沿いには水車の回る製粉小屋が並びそのうちの幾つかは精米小屋なのだろうと想像する。
陸側は様々な商店や居酒屋、料理屋に宿。
基地で働く者に向けた城下町ならぬ基地の町なのかもしれない。
セイレーン号の停泊してる軍港へは基地の門を通らなければ入れない。
衛兵に挨拶をし、検問を受ける。
ちゃんとセイレーン号の名簿に名前があり、昨日の昼過ぎに外出とあって門を通される。
基地内の受付にも入所を申請する。
今日の受付はキレイなお姉さんだった。
「久しぶりの陸はよく寝れた?」
と聞かれてハイと答えたが船でも普通に寝れてるんだよな。
港に入ると皆が船から降りていた。
大半が地面に座り込んでいる。
後方に座っていたキコに近づいて聞く
「どうしたんですか?」
「お、オミか。軍の査察だよ。変な荷を隠してないかとか、安全に航行する装備が揃っているかとか、その辺をチェックするのよ」
「ああ、この船は長官の私物ですもんね」
「そうそう」
「おやオミ、現地妻の家から朝帰りとは羨ましいね」
「現地妻とは何ですか、見たでしよ。同い歳の男の子ですよ」
「おいおいロッコ、なんか面白い話してるな」
ロッコは俺の顔を見て固まった。
「いやオミ、あれは女の子だろう?」
「え、だって丸坊主ですよ?」
「ああ、、、そういやお前、サナ人の風習とか全然知らなかったな」
「え、はい、、、」
キコが引き継いだ。
「サナの子らはな、10歳まで男女同じように放牧地で育てられるんだよ。でもって10歳の時のお祭りの前に丸坊主にする儀式を通して男あるいは女として生まれ変わるんだよ」
「へえ、、、」
今度はカッロ。
「儀式の後、織物や染色の才能のある女子のみが選ばれてジロ河沿いの機織りの村に移住するんだ」
「なるほど」
そしてロッコ。
「放牧を続ける子たちはこの時期はため池の向こう側で馬追いのレースの祭りの真っ最中だ。つまりこの時期にあのバザールに居る坊主頭の子供は殆どが女の子だ」
今度は俺が固まる番だ。
「え、、、てことは僕が昨日から女装してるってことですか?」
「そう、、、とも言えなくはないかな?」
「なんで教えてくれなかったんですか!」
「いや、男女同じ格好ではあるんだよ。ちょっと、たまたま時期がな」
まてよ、あの下ネタ大好きのひっくり返り笑いが女の子だと?
しかもそうなると自分の胸を指して硬いってのはかなり高度な自虐ギャグだったということになる。
くう、、、相手の方が一枚上手だったか。
副船長が口に手を当てがって大声を出した。
「全員揃ったな。よく聞け、長官から伝言を賜ってる。航行を続ける許可の取得にもう少し時間が掛かるそうだ。仮の出航予定日はひと月後だ」
気を取り直してキコに聞く
「こういう事ってよくあるんですか?」
「出航遅れ? まあ、たまにだな。あそこに行くならこれも届けたいとか、積むはずのあれがまだ来てないとか色々あるんだよ」
「それに長官はあちこちから妨害を受け易い体質の持ち主だからな。色々上の事情がね、、、」
そうロッコが付け足した。
前に長官に聞いた魔眼持ちゆえのあれこれか。
「さて、ところでこの一日で給料を使い果たした馬鹿はどれだけいる?」
副船長の呼びかけにキコとカッロを含む数名が手を挙げた。
「よし、お前らは後ひと月ずっと留守番だ。剣術もしっかり付き合ってやるぞ。ロッコ、すまんが飯を頼む」
「おう」
「他の者は休暇だと思って楽に過ごしてよし、ただ外出は手順に則って申請するように。週に一度は戻って作戦変更がないか確認を忘れるな」
ええと、俺はどうすればいいんだろう?
剣術の稽古も出たいしロッコが仕事なら手伝った方がいいよね、、、?
と、考えていると副船長がこちらにやってきた。
「オミ、お前個人に俺から助言だ。お前は正式にはまだこの船の乗組員でも軍の兵士でもない。お前は長官付きの自由な小間使いだ」
「はい」
「ロッコに聞いたぞ。サナ人の子供と友達になったそうだな。そのツテを使ってサナ語を教えてもらえ。そしてサナ人の考え方、食、タブー、何でもいいから経験して感じろ。アカデミーでは教えてもらえない何かがある。長官が望んでらっしゃるのはそうした知識のある人材だ」
「はい!」
マジか。それってちょっとスパイ的な?
いや違うか。
長官はサナを旅してみたいって言ってただけだし通訳兼旅行アテンドってとこか。
いいだろう。
女子の頼みとあらば叶えて存ぜましょう。
初心忘るるべからず!
筋トレ、勉強、女に優しく!
おっといけない、筋トレが今回の副船長クエストから抜けてるぜ。
これは寝る前に自主的にやろう。
筋トレ、勉強、女に優しく!




