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手に入れた服は上下セパレート。下はズボン型でウエストは紐で縛るタイプ。
上は前合わせで襟なしで3箇所紐で止めるタイプ。内側には合計3つポケットがあり、ズボンにポケットはない。
和風なような、中華服のような、しかし洋風なようでもあるサナ服であった。
色は乳白色。たぶん生成りってことだと思う。
全く柄がない訳ではなく白糸に少し黒糸が混じってごくごく薄いチェックのようになっている。
しかし、なにしろこの世界に産まれてこのかたフンドシ姿で10年間生きてきたので長袖の服を着た違和感たら半端ない。
肩や袖の詰めた部分が特にゴワゴワして気分が悪い。肩に服の重さが掛かって不愉快。
足もバサバサバフバフする感じがあって早くも脱ぎたい情動が湧いてきた。
巾着袋のような小物入れを付けてもらったが、店を出る時にまた別に小さな巾着袋をもらった。
中には精麦してない麦が入っていた。
何かのおまじないだろうか?
店から出て暫く歩くとロッコは酒を飲みに行きたいと言い出した。
見ると服屋の地区の少し先から石畳が途絶え、土ゾーンになっておりその辺りは食べ物の屋台が多くなっていた。
そしてポツポツと金物や古道具の店もある。
俺は安いナイフか靴が欲しかったので見て回ることにした。
安い中古品なら買えるかもしれない。
ロッコが入る店を決め、買い物を終えたら俺がそこに迎えに行くということになった。
目に付いた金物屋から見ていく。
ここは馬具の店だったようだ。蹄鉄や鎧、手綱を付ける喰みの部分など鉄ではあるが全て馬関係。
お次はランプや香炉、蝋燭台など火に関係する店。
そして農具、調理器具、大工道具と続いてなかなか刃物屋が現れない。
刃物や武具は別の地区なのかもと周りを見渡すが何も分からない。
さっきの少年のように案内をしてくれる人が居るといいんだけど、、、
キョロキョロしていると自分と同じようにクリクリ頭で生成りのダブついた服を着た子供がチラホラ居ることに気づいた。
10歳のお祝いは頭を丸めるのとセットなのかもしれない。
さっきの服屋でも店を出る時も丁寧なサナ語で何か言われたが何となくだが「10歳のお祝いおめでとうございます」みたいな雰囲気だった。
分からん。単純に「お買い上げありがとうございました」だったのかもしれん。
わからんだらけでテクテク歩いていると、にこやかに微笑む妙齢のご婦人に何か言われ、また小袋を渡された。
分からんが丁寧にお辞儀すると頭をクリクリと撫でられた。
小袋は感触的にはまた麦なのだろう。
ふと気づけば人通りが増えてきている。
さっきまではすれ違う人はポツポツといった感じだったが、今ではちょっとしたお祭りくらいの人出となっている。
そして女性が多い。
あれかな、スーパーマーケットとかと一緒で夕方が一番混むのかな。
また何か言われて小袋を渡されて頭を撫でられた。
まただ。
また撫でられた。
皆女性で皆にこやかだ。
ああ、共通語を話すサナ人と知り合いになりたい。なんならサナ語を教えてくれる人でもいい。
誰か僕に靴屋か刃物屋を教えてください。
そして頭を撫でる理由も!
そう思って歩いていると向かいから歩いてきた俺と同じようにクリクリ頭で生成りの服を着た子供が、俺の服をつまんで何か話しかけてきた。
もう何?
「ごめんね俺、共通語しか話せないんだよ〜」
もうわからんので咄嗟にそう言うと相手は目を丸くして何か言った。
その言葉の中に「アーメリア」という語が入っていた気がしたので自分の胸を叩き
「そう、アーメリア人」
と伝わるかわからんけど伝えてみた。
伝わったらしく相手は丸くした目を更に丸くして
「へえーっ、アーメリア!」
と声を上げた。
それがまるで日本語の「へぇー!」だったのでつい笑ってしまった。
相手もつられて笑って、そして自分の服の袖をこちらの袖に近づけてよく見ろというジェスチャーをした。そしてまた違うジェスチャー。
多分同じ生地、同じ服だと言っているらしい。
あの店の名前は何といったか。
ローリン・メーリン・リーリンみたいな長い名前だったような、、、
「そう、それ!」
という感じで相手は俺の手を取り飛び上がって喜び、ケラケラと笑った。
なんだか分からんがその子は目の前にあった屋台で甘いお茶のようなものを2つ買って一つを俺にくれた。
奢ってくれたらしい。
支払いはさっきからもらっている小袋ふたつ。
それなら持ってると自分がもらった小袋を出して見せると、その子はコンビニ袋くらいの巾着を開けて見せてくれた。
小袋がいっぱいだった。
その子はニヤリと悪い笑みを浮かべた。
マウントを取られているのだろうか?
口元を見ると右の上の奥歯が生え変わりで抜けている。
俺もだよと口を開けて見せるとひっくり返って笑った。
何か言っているけど分からない。
多分、俺たち双子みたいだねとか言ってるんだと思う。




