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 そんな別れもあったが今日の午後は非番。

 留守番組を船に残し街に繰り出す日だ。

 キコとカッロは連れ立ってカジノへ。


 俺はロッコに服を買いに行きたいのだけどと相談すると


「買い物の仕方も金の使い方も知らないんじゃサナ人に全財産毟り取られちまうからな」


 と、付き合ってくれることになった。

 感謝。


 という訳で俺はロッコと連れ立って渡し船に乗っている。

 船賃は小銅貨8枚。

 安いような高いような微妙な値段。

 ゆったりとした、海の水と比べると茶色い水を船頭の漕ぐボートで渡っていく。

 空になった背負子を背負ったサナ人たちと一緒だ。

 彼らは農作物や羊の肉などをアーメリア側の商店などに売って生計を立てているこの辺りの住人らしい。片言ではあるが共通語が通じる。


 サナ人はいわゆる東アジア系の雰囲気のある民族だった。

 しかし、ズタ袋を着ている俺の村よりずっと進歩的な生活を送っていそうだ。

 前合わせの服は色とりどりで柄まで入ったものがあり、ジロ河のほとり数キロに渡って所狭しと露天が建ち並んでいる。

 布製品が多い。

 アーメリア側にも同じような露天が並んでいたが野菜や果物、魚などの露天が多かった。


 船が桟橋に到着。

 結構下流に流された感じがする。

 振り返ってもセイレーン号はもう見えない。

 帆を畳んでるしな。


 ロッコは船頭と何やら話をしていたが、お勧めの服屋を聞いていてらしい。

 船頭はその辺に居た子供を捕まえて何か言った。

 ロッコはその子供に銭を渡し、その店まで案内してくれたら残りの銭を渡すと言った。

 子供はニカっと笑うと頷いて俺たちを手招きした。

 その子は共通語がほとんど話せなかったがこのバザールには詳しいようだ。

 近くない、遠くない、五分。と言った。


 少年に連れられてバザールを歩く。

 しっかりした建物こそないが石畳が敷かれ遠目で見たよりも清潔感がある。

 そして知らない言語に囲まれて異国情緒ビンビンだ。


 一応区分けがあるのか、この辺りは布地の店が多く建ち並んでいる。

 女性向けのアクセサリーが多い地区を抜け、服屋が多い区域に入った。

 その一画、露天ではなく大きなテントに連れて入られた。

 所狭しと吊るされた服。よく分からないが、思うに露天よりも高級な店なのだろう。


 ロッコが店員らしき女性に店の名前を確認すると女性は笑顔で頷く。

 ロッコは少年に残りの銭を渡すと二人は握手をし、少年は店を出て行った。


「しっかりしててシンプルで一番安い子供服を」

「こちらのお子さん?」

「うむ」


 女性は俺に向けて話しかけてきた。


「えっと、男の子かしら?」

「あ、はい」

「ご両親は背は高い?」

「そうですね、父はあの人くらい。母はあなたと同じくらいです」

「あら、大きいのね、、、ではこちらを」


 持ってきたのは大人サイズの服だ。


「こちらは長く着れる服です。あなたに合わせて詰めますので成長して服が小さくなったら糸を切って袖や裾を伸ばしてください」


 そう言いながら女性はメジャーで俺の腕や肩幅などあちこちサイズを測ってメモしていった。


「汚れたら染め屋に出して濃い色に染めてもらってください。この生地はたいへん丈夫ですので結婚する歳まで着れます」


 え、なんだか思ったより高い買い物になりそうだぞ。

 服なんてズタ袋でいいんだけどな、、、


「あの、もっと安い仕事着というか作業着みたいな粗雑な服はありませんか?」


 女性は動きを止め、俺の顔をまじまじと見、それからロッコを見た。


「あらやだ、サナの血が入ってる訳ではないのですね?」

「はい。父も母もアーメリア人です。そしてあの人は父ではありません」


 俺はロッコを指差した。

 ロッコは椅子に座って出されたお茶か何かを飲んでいる。


「でもあなたは多分10歳でしょう?」

「え、はい」

「サナでは10歳は大人になる歳です。死にやすい子供の時期が終わり、ここからは長生きを目指します。大人としての名前を持ち、大人になるまで着れる服を仕立てて長寿を願います」


 そうなのか。


「あなたはご両親からそうした服を頂いてますか?」

「いえ」

「頂く予定は?」

「ありません」

「ではこの服がいいでしょう。長生きできますから」


 え、でも、、、。


「ひょっとしてお値段を心配してらっしゃる?」

「あ、はい」

「おいくらぐらいのご予定で?」

「大銅貨一枚くらいで、、、」


 なにしろ俺は25ラーミ、つまり大銅貨2枚と銅貨5枚しか持っていないのだ。


「それなら充分です。小物入れをお付けしてお釣りも渡せますよ。これはあくまでも子供服。あなたの言う作業着ですから」

「あ、そうなんですね、、、ロッコさんはどう思います?」

「妥当だろ」

「ではお願いします」


 俺にもお茶が出て、座ってそれを飲んでいるうちにサイズ詰めが終わった。

 仕事が早い。


「お包みしますか?」

「あ、着てっていいですか?」

「もちろんです」


 ズタ袋のフンドシのまま出来上がったズボンを履こうとすると女性に止められた。


「下着はお持ちでない、、、?」


 トランクスのような下着も買わされお釣りはなくなった。


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