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留守番と言っても仕事もあるらしい。
船艇に張り付いたフジツボを削り落とすのもその中に入る。
陸側は陸から長い棒を使って。逆側はボートを降ろしてボートから。
放っておくといつの間にか増えて、あまり増えると船速が落ちるのだとか。
ボートから手を伸ばしてガシガシとフジツボを落としていると港の岸壁の水中に沢山の貝が張り付いているのか見えた。
アサリやハマグリとは違う黒い貝だ。
手の届く範囲でフジツボを落とし終えると今日の仕事は終わりとのことで、さっき見た黒い貝をいくつか採ってみた。
茶色い足糸で岸壁に張り付いているところからもきっとこれはムール貝だ。
ちょっと確証は持てないがムール貝なら食べたい。
周りを見渡してキコ達が先に船に戻っているのを確認してその場で火を入れてみることにした。
その場でしゃがみ込んで、貝を地面に置いて火魔術で加熱。
暫くすると貝が口を開けぷっくりした薄いオレンジ色を身を覗かせた。
湯気をあげる貝をアチアチと言いながら持ち上げ口に運ぶ、、、
舷側からロッコが見降ろしていた。
「何食ってんだ?」
「ハフハフ、、、貝です。見たことない奴だったんで食べれるかどうか食べてみてました」
「で、どうだ?」
「美味いですね。このままだとちょっと味気ないですけど、、、そっか、ここ河ですもんね」
「今行く」
海の貝はそのまま食べても塩味がするが、河というかこの辺は汽水域かもしれないが、そのせいか塩味が薄い。
ロッコが船を降りてこちらにやって来たので焼けてる貝を渡す。
「ふむ、悪くねえな。この辺の連中は茹でて食ってるけど、それは味が抜けてパサパサで美味くはなかったな。こっちのが美味い」
「ニンニクと酒蒸しにしたいっすね」
「酒蒸し、なんだそりゃ?」
「フライパンで炒めて少量の白ワインを入れて蓋をして蒸すんですよ」
「なんだと、、、、ここならワイン手に入るぞ?」
「マジすか?」
「よし、買ってくる。オミは貝採れ!」
「はい!」
ロッコは立ち去りかけて戻ってきた。
「、、、、付け合わせは何が合う?」
「できれば揚げたジャガイモがいいっすね」
「酒は白ワインだな?」
「はい。でも合わせて飲むのはエールの方が良いかもしれません」
「お前本当に、、、いや、いい。お前を信じる」
その夜は留守番組で船上の宴会となった。
「肉も良いけど貝も中々だな!」
「いや、この揚げた芋ってのは美味いな!」
「高級料理だろ、揚げ物って?」
「貝は貧民料理だけどな」
「なんにしろ美味い、酒に合う!」
「天才、オミ、お前は天才!」
この世界のビールの味見を少しさせてもらったが、アルコールは薄く炭酸もごくわずか、しかし色は濃く味は濃厚。苦味も雑味も強い大人の味わいだった。正直言うと苦手。
街に行っていた連中の何人かが肉の串焼きだの瓶に入った酒だのをお土産に買って帰って来て、そこからまた盛り上がり、俺は酔っ払いが面倒臭くなってきたので早めに撤収。
静かな船底近くの部屋にハンモックを吊って寝た。
今回は寝返りの件は気にならず朝までぐっすりだった。




