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あれ?
まさかコイツ寝技できるの?
と思った瞬間、パコが脚を首に絡めてきた。
下からの三角絞めの体勢である。
この時、身体を引いて抜け出そうとするのは素人である。
抜こうとすると余計に首が締まり気絶させられてしまう。また変に足掻いても横に倒され十字固めで腕を極められてしまう。
正解は逆に身体を捩じ込み、相手を押し潰すようにすることだ。
こうすれば首が締まることはない。
しかし余り体重を乗せるとやはり横倒しにされて腕を極められる。
相手が諦めて次の動きを起こすのを待つのだ。
呼吸を整えていると副船長から声が掛かった。
「どうなっている?」
「コイツもう落ちてます!」
「全然大丈夫です、嘘こくなパコ」
「本当に大丈夫か?」
「全然平気です」
そう答えるとパコは唸り声をあげて俺の頭をゲンコツで殴ってきた。
これは悪手である。
頑丈な頭蓋骨に細い手の骨がかなうわけがない。
動じない俺を見て痺れ切らしたパコが脚を解き無理やりに十字固めを狙ってきたが、こう来ることは分かっていたのでタイミングを合わせて腕を引き抜き身体を起こした。
柔術的に攻めるなら、一応上を取ってるし優勢ではあるのだが相手の方が積極的でポイントはイーブン。ということで判定になったら負ける可能性がある。
パコが寝技の基礎が出来ているのはもはや明白なのでここは一か八かマイナーな足技を狙ってみることにする。
俺はパコの右脚を取ると脇に挟み後ろに倒れ込んでアキレス腱固めの体勢に入った。
この技は相手の両手がフリーになる為、本来なら刃物を持った相手に使う技ではない。
そしてこの技は関節技ではあるがどこも怪我しない「痛いだけ」の技である。
たっぷり痛みを味わってもらおう。
俺は背筋で仰け反るようにしてパコのアキレス腱を搾り上げた。
「ぎゃあ! やめろ、折れる!」
パコの絶叫が響き渡り、俺は手を離した。
うずくまるようにしてふくらはぎを摩るパコ。
しかしもう脚は痛くない筈だ。
俺は黙って立ち上がると木刀メイスを拾い上げ人垣の輪に戻った。
「後は各々研鑽するように!」
そう船長が場を閉めて、輪は解けいつものグループに分かれた。
キコが俺の肩を抱いて話しかけてきた。
「なんだよお前色んな技が出てくるな。しかしパコも下から変な技仕掛けててちょっと驚いたな」
「そうなんですよ。こういう戦い方できる人結構いるんですね」
「いやいやいや、お前らだけだよ。なあ?」
振られたカッロが頷く。
「うん。噂だけは聞いたことがあるけど、見たのはオミくんのが初めてだよ、、、うん?」
カッロが俺の後ろに目をやったので俺も振り返るとパコが立っていた。
「やられたよ、、、そういうことだったんだね。初めから何か怪しいと思ってたんだよ、、、いや、これ以上言うのはやめよう。機密に関することなんだろう?」
「え、何の話です?」
「とぼけるなよ、、、いや、いい。ともかくだ、これからは人前では普通の剣術をやろうじゃないか。お互いの為に」
「ええ、まあ、いいですけど」
パコはフッと笑うとトロンボの方へ合流して行った。
「なんだあれ? コテンパンにやられた割には偉そうだったな」
「何だろうね、、、機密?」
「厨二病ですかね」
「何だよソレ?」
「思春期の男女が夢みがちになる心の病ですよ」
「ああ、俺もあったな」
「キコさんが?」
「ああ、実は俺、王族の血が流れてるんじゃないかって思い込んだ時期があってよ」
「ほうほう、詳しく、、、」




