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 次の試合やその次の試合を見てかなりこの世界の剣術が分かってきた。

 大振りの横薙ぎや大上段の攻撃は、相手に受けさせることで相手の体勢をコントロールする為の攻撃で、決定打になるのはやはり相手が床に手をつくか倒れてからの一撃ということ。

 蹴りも掴みもokで、盾で殴るのもokだ。

 蹴りは前蹴りがほとんど。

 突きを攻撃の主軸におく者も結構多い。これはフェンシング的なスタイルなのかもしれない。お家に伝わる武器に寄るのだろう。

 フェンシングスタイルに前後に移動しながらチクチクやられると、やられた側は攻撃しにくいらしく攻めあぐねていると攻勢に出られて主導権を取られてしまうようだ。

 それ以外にもやたらと小手を狙うスタイルや、距離を潰して体当たりを多用する戦術があって千差万別といった感じで見ていて飽きない。

 ロッコの言っていた両手剣のスタイルは今のところ一人も見ていない。

 やはりマイナーなスタイルなのだろう。


 そうこうしていると副船長の視線に促されて俺とパコの順番になった。

 そうしている人は誰もいなかったが一礼をして所定の位置に立つ。

 パコは既にフェンシングの構えで俺を見据えている。


 ええと、さっきフェンシングスタイルと戦った人は盾を前に出して身体を死角に入れていたな。

 俺はやはり盾を持つことにした。

 突きをチクチクやられたら盾無しでどう防ぐのかわからない。

 俺は盾を前にして小さく構えた。


 パコの口元が緩む。

 得意なパターンなのだろう。

 パコは前後にステップを踏みながら盾に突きを入れてくる。

 ハタから見ていると突きは軽そうな攻撃に見えるが実際受けるとかなり重い体重の乗った攻撃であることがわかった。

 確かにこれでは前に出られない。

 盾で受ける時、完全に中心で受けないと盾が捩れるような感じになって盾を握る力がどんどんこもって身体が固くなってしまう。

 硬くなってしまったところに一気に踏み込まれ盾ごと突き飛ばされると俺は見事に体勢を崩してしまった。

 そこに容赦ないパコの突きの猛攻。

 俺はモロに首で突きを受けてしまってひっくり返った。

 力を逃がそうとして仰け反ったのもあって派手に仰向けに吹っ飛んで転がった。

 そこにも容赦ないパコの追撃。

 パコは踊るように飛び上がると両の手で木刀を持ち全体重を乗せて切先を横たわる俺の腹にねじ込んできた。

 いくらなんでもそこまでやる?

 と問い正したくなるような激しい一撃だった。


「そこまで!」

 という船長の声で俺の初試合は終わりになった。


「いやはや、初心者相手にやり過ぎてしまいました。兄様との練習の癖でつい、ね」

 というパコの弁明も虚しく俺は横たわったまま吐いた。


 腹に捩じ込まれた一撃が余りにもキツく、喉も痛い。

 喉仏は潰されてないだろうか。

 腹を中心に全身が痺れるように痛む。

 立ち上がることすらできない。


「おいおい大袈裟だな。そんなに効いてしまったかい?」

 そう言うパコは満面の笑みである。

 もう嬉しくて嬉しくて仕方がないといった風情で俺が起き上がるのに手を貸してきた。

 

 そんなパコを押し除けてキコとカッロが俺を助け起こしてくれた。

「おいパコ、最後の一撃は余計だろう。相手が倒れたらとどめの一撃は寸止めの決まりだろう?」

「すみません、兄様とやっている実戦さながらの稽古のクセで、、、」

「ああそうそうかい。そいつの処理は任せていいか?」


 キコが指さしたのは俺のゲロだ。

 パコは肩を竦めると踵を返した。

 甲板の汚物の処理は実は簡単で、汲み上げた海水をぶちまけるだけである。

 パコは縄のついた桶を取りに行ったようだった。


「それでは後は各自、技術を磨くように」

 副船長がそう言い放つと円陣は散った。

 甲板の各地で二人や三人のグループになって自主練をするらしい。


 俺はキコとカッロの助けで自分のゲロから離れた位置の欄干にもたれかかって座り込んだ。

 身体の痺れは少し収まってきたが、喉はまだ痛い。

 喉に手をやると指先に少し血がついた。

 擦りむけているらしい。


「負けてしまいました」

「今日初めてなんだろ。当たり前だ。新人いびりをしたがる奴はどこにでもいるんだ。気にするな」

「あいつ、いつも自分の兄貴にやられていることをお前にやりかえしてるだけだろう」

「そうですか、パコさんも大変なんですね」

「同情なんてする必要ないぞ、練習して見返してやれ」


 パコが俺のゲロを洗い流しているのが見える。

 本当だったら這いつくばって拭き取ってもらいたいところだが仕方ない。


 いやしかし、さっきの全身の痺れは凄かったな。

 いいボディを食らうと前当てを付けててもこうなるのか。

 ボクシングでも結構ボディで試合が決まることあるもんな。


「僕はちょっとこのまましばらく休みますんで、良かったら剣術の練習しててください」

「大丈夫か?」

「医務室に行った方がいいかもしれないよ。血も出てるし」

「擦りむけてるだけだから大丈夫です。お二人の練習を見せてください」

「そうか?」


 二人は傍に置いてあった自分の木刀を手にした。

 キコのは細くて短めのを2本。カッロは中間くらいの長さの木刀だった。

 パコがカッロはハチェット使いって言ってたな。

 ハチェットって斧みたいなヤツだよな。

 ゲームによってはバトルアックスっていうんじゃなかったっけ?

 多分キコは二刀流のナイフ使いなんだろう。右手は順手、左手は逆手に木刀を構えた。


 なんだよ、みんなキャラがあっていいなあ。

 じゃあ俺はやっぱり忍者スタイルかな。

 マキビシ、手裏剣、忍術を組み合わせて派手な感じでいきたい。


 二人の間合いはさっきと違いちょっと近い。

 カッロが突きを中心に攻撃しているのはさっきと違いないが、キコはカッロの手首をしきりに狙っている。

 そうか、今度は甲冑は着てないという設定なんだな。

 だとしたらナイフはかなり怖い武器であるだろう。

 手首の内側を切られたら動脈がやられてしまうし、外側でも剣が握れなくなってしまう。


 ふと二人が動きを止め、腕を下ろした。

 ちょっと見逃してしまったが、俺の気付かない何かで勝敗が決まったらしい。


「あの、今のは、、、?」

「ああ、俺がカッロの攻撃を受け損ねたんだ。カッロの得物はハチェットだから根本を受けた時に引かれると腕が持っていかれるんだ。だから俺の負け」

「ハチェットを受けるなら切先を。しかし、今のはもう少し踏み込まれてたら俺が指を切られてた筈だ」

「おお、なるほど」


 めっちゃ真剣にロールプレイしてるんだな。

 そりゃそうか、これが戦場なら生死を分けるんだもんな。


 ふむふむ、ちょっと目が慣れて二人の攻防が見えてきた。

 カッロは突きで攻勢をかけていたように見えていたが、懐に入られると圧倒的に不利だから牽制し続けて距離を置かなければいけないんだ。

 しかしキコはキコで下手に踏み混むと盾でガードされて圧倒的な重さのあるハチェットの餌食になってしまうので攻めつつもカウンター狙いのような中途半端な動きにならざるを得ないのか。


 見える、見えるぞ!

 キコの右手にはダガーが、左手にはショートソードが。

 カッロの手には小さめな刃を持ち石突には鋭い突起がついた斧が。


 あっ! キコがソードとダガーを左右持ち替えた!

 そうしただけで二人の間合いが変化し、狼狽えたカッロが少し引くとそこに合わせてキコがクルリとスピンしながら大きく踏み込み盾を両の腕で跳ね上げた。

 勝負有りである。

 カッロの腹にはダガーが深々と差し込まれている。


 しかし両者は苦く笑った。


「今のは相打ちか?」

 カッロが聞く。

「いや、今のは俺がやられてた」

 キコが答えた。


 見るとキコの首筋に擦れたようなアザができている。

 キコが踏み込んだ瞬間にカッロもまた斬撃を放っていたのだろう。


「うーん、まだまだだな」

「いや、今の回転しながらの踏み込みは良かったぞ。片手で盾を跳ね上げられないか? そうしたら俺が負けてた」

「それは難しいな。盾の位置が分からん」


 なんだよ達人どうしの会話だな。

 なんだか二人の熱に当てられてこっちも熱くなってきた。


 ちなみに戦ってた二人は息も絶え絶え汗だくになっている。

 見渡すとそこここに散って稽古してるグループがみな汗だくになっている。

 さっきの試合よりこっちが本番みたいだ。


 パコはと見ると、さっきカッロと試合をしていたトロンボに稽古をつけてもらっていた。

 どうやらコテンパンにやられているようだ。

 さっき俺を苦しめていたフェンシングの突きも上級者には通用しないようで軽く弾かれている。

 なるほど、盾で受けずに剣で左右に弾けばいいのか。

 でもそれって言うほど簡単じゃなさそうだな。

 腕力も入りそうだし。


「どうだ、ぼちぼち大丈夫そうか」

「やっぱりパコくんが気になるかい?」

「あ、いえ。気にはならないです。でも身体はもう大丈夫そうです」

「じゃあ、ちょっとカッロに稽古つけてもらえ。俺はもう無理だ」


 キコはそういうと俺の隣に座り込んだ。


「カッロはこう見えて何の武器でも使える達人だからな」

「こう見えては余計だろ。ところでオミくんは武器は何で行くつもりなんだい?」


 なんだろう?

 パッと浮かぶイメージは日本刀だが、片刃の湾曲した刃物なんてこの世界ではあるんだろうか?


「ええと、ソードよりは軽く短い片刃の刃物ですかね?」

「ふむ、刃物か」


 カッロは俺を立たせると肩や背中を撫で回した。


「うーん、申し訳ないがお勧めしたいのはまずはメイスだな」

「メイスっていうと、あの、ただの鉄の棒ですよね」

「まあそういったらそうだが、メイスは頑丈で刃こぼれも気にしなくていいし、手入れも簡単だし、安くて手に入れやすいし、何しろ長すぎず重さはほどほどにあるので身体のまだ小さな子供が剣術の基礎を学ぶのには最適なんだ」

「おお、なるほど」

「もし君がレイピアを使いたいんだったら練習用の曲がるレイピアを用意するのがいいんだけど」

「どうせオミ、お前そんなカネ持ってないだろ?」

 キコが口を挟んだ。


「確かにそうです」

「メイスは棍棒で代用できるから実は何気に一番実用的なんだよ」

「なるほど、じゃあメイスでいきます」

「よし、じゃあさっきの反省からやろうか」


 こうして俺の剣術の稽古が始まった。


 

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