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本エピソードは昨日43として投稿したものです

前後関係を誤って投稿してしまいました

 俺は粥を温め直さず小鍋ごと持って行くことにした。

 部屋で盛り付ければいい。


 塩と魚フレークを持たなきゃならんから皿2枚だと具合が悪かったのだ。

 皿を重ねて、フレークの小鉢と塩の小鉢とドライトマトの小鉢を乗せ、スプーンは鍋に突っ込んである。

 あとは盛り付けてから各自が魔術で温め直せばいい。


 ノックをして許可を得てから部屋に入ると今日はパラディーノ医師が来ていた。


 パラディーノ医師は俺を認めると大股で近づいてきて俺の肩をガッと掴んだ。


「あの魚の粉末は凄いぞ? 普段から魚嫌いを公言している奴さえ美味いと言って自分から粥を口を運んだ。それにだ、魔力切れの症状が劇的に改善している。あの魚にはそれ程多くの魔力が含まれているのか?」

「いや、どうすかね?」

「かくいう私もさっき食べさせてもらったが体中に魔力が満ち溢れてくるのが分かるほどだ!」


 テンション上がってるねえ。

 俺は長官にフレークを見せた。


「ふむ、確かに多いが、塩蔵の魚ほどではなさそうだな。塊ではないからカサも違うし正確には分からんが」

「そうですか、、、しかしあの改善ぶり。何かがあるとしか思えないのですが、、、」


 長官は鍋の方に目をやった。


「おお、そちらの粥は凄いな! 何をしたのだ?!」


 こっちだったか。


「海藻と大量の魚の骨でスープを取り、それで米を煮たのです」

「本当か?」


 長官は鍋からいきなり粥を掬って恐る恐る口に入れた。

 あらやだ、お行儀が悪いじゃない。

 今よそってあげるから。


「臭くない、、、それどころか美味い!」

「新鮮な魚の骨は血合いをキレイに掃除してあげると臭くないですよ?」

「その海藻というのは?」

「10mくらいの長さのある分厚い海藻なんですがそれを天日で干してカラカラにしたのを煮出すとじんわりと旨味のあるスープが取れるのです」

「どこで手に入れた? 村から持ってきたのか?」

「いえ、一昨日あたりに投網をしたら偶然獲れたのです。海に流れていました」


 話しながら俺は長官の皿に粥を盛り付け魚フレークを振りかけた。

 そしてドライトマトを添えて魔術で温めてから渡した。


「ふむ、魚フレークも悪くない、、、いや、悪くないどころか、口の中で魚の脂と塩気がじっくり溶け出してきて実に美味いな」

「ありがとうございます」

「む、お前は魚は良いのか?」

「その魚は3匹しかとれなかったので」

「ひと桶獲っていたではないか?」

「あれとは違う魚です」


 長官は粥を口に運びながらパラディーノ医師と暫く視線を合わせていた。

 な、なんだよう?


 パラディーノ医師が口を開いた。


「その海藻は村でも食していたものかい?」


 今度は俺が長官と目を合わす番である。

 パラディーノ医師には俺が転生者であることを言ってもいいのだろうか?


 それに気づいたのか長官の目に少しの狼狽が見えたので俺は嘘を付くことにした。


「この海藻は村では獲れなかったんですが、一度浜に流れ着いたのを見つけた時に教わったんですよ」

「誰に?」

「誰だったかは覚えがないですね。ウチの親ではない誰かだとは思いますが」

「その一度聞いた話をやってみようと?」

「ええ、せっかく神様がくれたんですから無駄にしない方が良いかと」

「神様?」


 パラディーノの目の奥が光る。

 なんかミスったかな?

 この世界では神って居ないの?


「ええ、海がくれたのですから海の神様ではないですか?」

「そうか、君の村では海に神が居たか。王都では、この世の全ての汚れが海に流れ着くと考えられていてね。海に忌諱を感ずる者が多い」

「へえ、そうなんですか。ウチの村では海は全てを与えてくれるものでしたし生活の場でしたからみんな海が大好きでしたよ?」


 俺はアホな振りをしてニコニコと飯を食い続けた。

 くそ、パラディーノの野郎がヘンなプレッシャーをかけてくるから味がしないぜ。

 せっかくのスペシャル飛魚出汁なのに。

 明日からは昆布だけなんだぞ?


「むう、確かに魔力が漲ってくるな」

「明日は昆布だけの出汁になりますから今日のと比較してみてください。パラディーノ医師も」

「そうさせてもらおう。ちなみにその海藻はまだ残っているのかい?」

「ありますよ。あと9メートルくらい残ってます。乾燥してますから保存も効くので明日にでも厨房に取りに来ていただければ30センチほどお分けしますよ」

「そうか、助かる」


 パラディーノはまだ何か言いたそうだったが、諦めたようだった。


「お食事中、邪魔してしまったね。では、わたしはこれで」

「うむ、ご苦労」


 ふう、やっと落ち着いて飯が食える。

 あと少ししか残ってねえじゃねえか。


「オミ、済まない。軍医だけはわたしの権限だけでは選べなくてな」

「いえいえ全然。てか敵対してるんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが、、、奴は得た情報は全て上に報告すべきだと考えるタイプなんだ」

「ああ、なるほど」

「足萎え病の食事治療に、新しい食材での魔力の回復。このふたつだけで上手く立ち回れば勲章がもらえるだろう。おそらく奴はそうしようとする筈だ」

「構いませんよ。麦も昆布も別に僕が発見した訳じゃないですから」

「それだけではない。どのようにその知見を得たか説明する必要が出てくるだろう?」

「え、口封じにくるとか?」

「それならまだ良い。お前をヒーローに仕立て上げようとするかもしれん。『漁村の少年が未知の民間療法で東方統括部長官を病魔から救出!!』とな」

「うへえ、そういうのってやっぱ人気あるんですか?」

「王族のスキャンダルばかりでは飽きるからな。未知の病気、未知の宗教。そういう話題は貴族の間でも民間でも好まれるニュースだ」


 どの世界、どの時代でも一緒か。


「さっき少し焦ったのはな。異世界人を発見したら本当は王国の異世界省に報告義務があるからなのだ」

「え、異世界人は珍しくないし、むしろ変人扱いだって聞いてましたけど?」

「多くはな。だが役に立つ情報をもたらす場合もある。お前の料理だってそうだ」

「ああ、昆布が」

「誰だって有益な情報を誰よりも先に得て利権を持ちたいと考えるだろう?」

「はい」

「表向きは異世界人の救済と治療という名目で設立されているが、本当の目的は未知のテクノロジーを世界に先んじて手に入れること。それが異世界省だ」


 昨日はそんな話出なかったな。


「ロンドの懐中時計も随分疑われてな。アレはドワーフの発明ということにしたが、危なかったのだ」

「この世界で上手くやれてない異世界人にはありがたいのでしょうけどね」

「異世界省が開発に力を入れてるのが空飛ぶ装置と走る箱。および大量破壊兵器だ」

「ああ、、、」

「編み物や料理しか知らんご婦人も異世界人というだけでそこで働かされ、しかも成果が早く出るよう各々に罰を与えて競わせているのだ。地獄だよ」

「ご覧になったので?」

「ああ、異世界人は魔力が使えない者がほとんどだから、その理由を知りたいといって召集されたことがある」

「そうなんですか?」

「ああ、だが異世界人も普通に魔力は持ってはいたのだ。使い方が分からないだけだった」

「詠唱しても発動しないのですか?」

「そうだ。詠唱が魔力のコントロールに寄与しない。そりゃそうだ。全く別の言語体系で生きてきたんだから作用はしないだろう」


 俺は異世界で生きた記憶があるだけだからギリギリ少し発動したってことか。


「そうだ、オミに先に言っておくべきことがあった。人前で無詠唱で魔術を使ってはならん」


 確かに遅すぎる助言だな。

 結構使っちゃったよ?


「この船の乗組員はパラディーノ以外は全員わたしの手の者だからまだ大丈夫だが、港に入ったら厳禁だ。というか、嘘の詠唱をしながら魔術を使う練習を今からしておけ」


 ほほう、嘘の詠唱とな。

 なんじゃそりゃ?


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