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43

エピソード43は44として変更しました

前後関係を誤って投稿してしまいました

 翌朝は太ももに心地よいハリ感があった。

 長官はあまり朝が強くないようなので起こさずそのまま部屋を出る。


 まずは用足しをさせてもらおうと左舷の筏に向かう。

 するとこんな話が聞こえてきた。


「本当ですってば、ボソボソとずっと遅くまで話し込んでいたかと思うと荒い息遣いが聞こえてきて、、、」


 なんだなんだ俺たちの会話を盗み聞きしてやがったのか。


「その後は窓が閉められて何も聞こえなくなりましたが、、、」


 そりゃそうだ。

 吸血コウモリの怖い話を聞いたから怖くて木窓を閉めたのだ。


「あの二人はやっぱりヤッてますって」


 そういう話ね。

 あれは下士官のトロンボとかいう奴だったな。


 ま、そういう噂を長官が面白がるというなら止めはしないがイメージ悪いと思うんだけどな。


 いや、待てよ。

 俺が情夫という嘘について説明するとか言ってたけど説明してもらってないな。

 今更どうでもいいのだが一応今夜にでも聞いておこう。


 トロンボとその周りにいた連中は俺に気づくと不自然に散っていった。


 何だよ感じ悪い。

 てか長官は本当にモテるっていうか、愛されてるよな。

 

 俺は正直ああいうゴージャスな正統派美人というのにあまりピンと来ない。


 欧米人なんかはいわゆる「赤いドレスの女」にグッと来たりするみたいだが、俺はTシャツ短パン女子の方がグッと来る。

 もっと言えばオーバーサイズのトレーナーとバスパンの女子が理想だ。

 色気のない格好をするからこそ、素材の持ち味である色気が相対的に強調されるのだ。


 もちろん脱がしてしまってはもったいない。

 厚手のトレーナーというのはめくり上げてこそ、、、


 いやいやいや、朝から何を妄想しとるんだ。

 俺は今や異世界に居るのだからラクロス部の女子大生とデートしたり同棲ごっこしたりというのは夢のまた夢。

 もっと現実的に考えよう。

 現実的に出会えそうなのは魔法少女とかケモ耳獣族とか耳長エルフとかだ。

 

 いや、そういえば俺には婚約者がいるのだったな。

 麻のズタ袋のドレスを着た12歳の婚約者が。

 これぞ現実。


 

 俺は用足しを終えると顔を洗い口をゆすいで上に戻った。


 今日は甲板のターンだ。

 今のところ風は吹いていないがそろそろ風を捕まえられるかもしれん。


 まずはマストとセールのチェックからだ。


 と、見ると、見知らぬ男が既にセールに跨がってロープの結び目を確認している。


 その男は俺を見つけるとニッと笑って降りてきた。

 なんだなんだ?

 ライバル出現か?

 ラクロス部のコーチか?


「君がオミクロンだろ、俺の代わりに働いてくれてたんだってな。ありがとう!」


 力強い握手で完全に先手を取られてしまった。


「俺はカッロ。足萎え病で昨日まで寝込んでたんだけど、君の村に伝わる料理ですっかり良くなったよ。本当にありがとうな!」


 ああ、医務室で寝込んでたのか。

 その割に厚い胸板と爽やかな笑顔をしてらっしゃる。


「この持ち場は俺が戻るからオミクロン、君は厨房に専念してくれ」


 あ、そう。

 えー、なんか、、、あ、そう?

 俺はもう用無しなの?


 そこにキコが現れた。


「お、オミ。コイツがカッロだ。もう復調したそうだからこっちはもう任せていいぞ」


 そうかい?

 そう言われるとなんだか寂しいのだが?


「お前、これからアレ全部処理するんだろ? 風がまだ吹かないようなら手伝えるから、声かけろよな」


 キコは飛魚の入った樽を指差した。


 そうだ、アレを干してしまわないと。

 乾燥昆布も切ってもう水に浸しておかないと飯に間に合わない。

 何気に忙しいな。

 

 俺はキコとカッロに頭を下げると甲板に張られた洗濯紐に飛魚を干していった。

 捌いた時にはあまりちゃんとチェックしなかったのだが、こうして改めて触るとやはり小骨が多く残っている。

 そもそも飛魚は小骨が多いのだ。


 枚数的には全員に足りるけど、このまま出しても食いづらくて不評だろうな。

 どうしたもんか?


 飛魚を干し終えるとメインマストにぶら下げていた昆布を回収した。

 昨夜は忘れて取り込まなかった。夜露のせいでカラカラというかシナシナという感じだ。


 嘆いても仕方ないので手頃なサイズに折りたたんで紐で縛ると見たことのある見た目になった。

 贈答用の高級昆布ってこういう姿してるよね。

 こういうことだったんだ。


 そして思いついて魔術で乾燥させるとカリカリになった。

 端っこをパキリと折って口に入れると塩気のあとにしっかりと旨みが広がってきた。

 うん、ちゃんと昆布だ。


 妙に感心しながら厨房に降りると寸胴に水を溜め、昆布を30センチほど折り取って寸胴に入れた。

 そして霜降りにして氷漬けにしておいた飛魚の中骨に残った血合いなんかを掃除して、それらも寸胴に入れていく。


 本当は昆布がある程度戻ってから火を入れたいのだが今日は仕方がない。

 竈門に寸胴を乗せて火を入れた。

 蓋はしない。

 昆布や中骨からアクが出るはずだから暫く様子を見る。


 時間をかけて煮出したいので先に掃除やら何やらを終わらせておくことにした。


 いつもの厨房と食堂の掃除の時に、砥石を見つけたので包丁を研いでおく。


 ちなみに、魚を捌くとか包丁を研ぐとかそういうのはこの世界に来てから学んだことだ。

 料理系の動画を観るのは好きだったが自炊はあまりする方ではなかったのだ。


 見ると寸胴はいい感じに沸騰手前で昆布と中骨を煮出している。

 そろそろ2時間ちかく経っただろう。


 俺は昆布と中骨をザルで掬って取り出し、竈門に炭を足して出汁を煮立てた。

 すると大量の灰汁が浮いてきたのでオタマで掬いとる。

 これで出汁の完成だ。

 多少の濁りがあるが、味見をしてみると中々良い出汁が取れてる。


 てか今更だが、飛魚の内臓だけ抜いて魔術で乾燥させればアゴ出汁のアゴみたいなのになったかもしれないよな。


 でもアレって一旦茹でてから乾燥させるの?

 ほら、煮干しは煮てから干すから煮干しでしょ?

 どうなんだろう、スマホが欲しいぜ。


 もう一つの寸胴に米と麦を計っていつも通りにジャグジャグと研ぐ。

 3回ほど洗ってそのまま置いておく。


 出汁はまだ熱いのだが、やっぱ冷えた状態から炊いた方が美味しいのかしら?

 リゾットなんかは熱いスープを足しながら作るんだっけ?

 それはなんか抵抗あるなあ。


 冷ますのにアイスボール打ち込んだら薄まっちゃうしな。


 そんなことを考えていたのだが、思えば魔術で冷やせば良いんじゃないか。

 どうにもまだ今までの癖でアナログで考えてしまう。

 いや、魔術がデジタルって訳じゃないんだけどさ。


 俺は出汁の入った寸胴を魔力で包み、井戸水くらいの温度になっているのをイメージして精霊に呼びかけた。


『火の精霊よ、水の精霊よ、よろしく頼む』


 すると今まで味わった事のない不思議な感覚に襲われた。

 魔力が吸い出される感じだ。


 寸胴いっぱいの熱々の出汁を冷たくするのにさっき出した魔力では足りなかったのだろう。

 なるほど、使う魔力の量を把握せずに高出力の魔法を撃つと危なそうだ。


 いつか魔力切れ寸前まで使い込んでみて自分の魔力の総量を知っておく必要があるな。

 パラディーノ医師も気付かない内に魔力切れを起こすって言ってたもんな。

 

 心のやることリストにメモすると、米を入れ、出汁に塩を2杯ほど入れると火にかけた。

 

 さて、掃除はさっき終わらせてしまったのでアレをどうにかしよう。

 塩して窓際に干しておいたサンマ(仮)である。


 なんで(仮)なのかって、アレが本当にサンマかどうか確証がないからだ。

 魚クラスタの人とかサンマ警察の人に『これは太刀魚の一種ですねえ』とか言われたら困るじゃないか。

 デマを流したとかいってSNSで叩かれたら立ち直れない。


 じゃあ飛魚はなんで(仮)じゃないかって?

 だってアレは実際飛んだじゃないか。

 魚が飛んだのだから飛魚で間違いはない筈だ。

 はい、論破。


 冗談はさておき、3枚に卸してあるサンマ(仮)3匹ぶんをフライパンに乗せ蓋をして竈門の一番下の灰が溜まるところに突っ込んでみた。

 ここもきっとオーブン程度に十分な温度がある筈だ。


 15分程で出してみて様子を見るといい感じに焼けていた。

 焼き目は付いていないが今回は構わない。


 俺はサンマ(仮)を皿に移すと魔術で冷まして皮を剥いで身をほぐし始めた。

 こうすれば小骨を全て除くことができる。


 結構脂が多くて湿った仕上がりになったので俺はまた魔術を使って少し水分を飛ばした。

 瓶詰めの鮭フレークのイメージだ。


 味見をしたが中々イケる。

 これなら光り物が苦手な人でも食べれる筈だ。


 これを小鉢に移して俺は医務室に向かった。

 どうせこの量では全員に行き渡らないし、魔力切れには魚を食べるのが良いって長官が言ってたので寝込んでる連中に差し入れしてやろうと思ったのだ。


 もちろん長官の分は残してある。

 抜かりはない。


「センセイお疲れ様です」

「お、オミどうした。またロッコに用かい?」

「いえ、一昨日獲れた魚を病人でも食べやすいようにフレーク状にしたので粥にでもかけてあげてください」

「おお、それはありがたい! 足萎え病の者はかなり良くなったんだが魔力切れを併発している者は病状があまり芳しくなくてね」


 パラディーノ医師はフレークをひとつまみ口に入れた。


「魚なのに美味い、、、! これはどうやって料理したんだね?」

「ええと、一晩塩水に浸けて、丸一日風に当てて乾かして、軽く焙ったのを手でほぐしたんです」

「ふむ、これは日持ちはするものかね?」

「もっと乾燥させればある程度もつでしょうが、魚の脂は古くなると臭くなるんで1週間てトコじゃないですかねえ」

「ううむ、それでは戦地に届ける訳にもいかんか、、、」

「センセイ、ちょっと火ぃかけっぱなんで戻りますね」

「お、済まない。オミクロン本当に助かる。ありがとう」


 なんかアレだな。

 魚は食料っていうより薬って扱いだな。

 料理方法もあまり研究されてないんだろう。


 ま、俺も干物と塩焼きと煮付けくらいしか思いつかないがね。

 しかも煮付けは醤油もみりんもないからパスだ。


 厨房に戻ると火は既に消えていて粥も炊き上がっていた。

 味見をするとちょっと塩気が足りない。


 今から足しても均一に混ざらなそうなので皿に盛ってから振りかけようかな?

 いや、テーブルに塩を置いておいてセルフでやってもらおう。

 濃い味が好きな奴も居るだろうから様子を見させてもらって今後の味付けの参考にすればいい。


 そうこうしてると本日4回目の四点鐘が聞こえてきた。

 そういえば今日はキコが覗きにこなかったな。


 気にしていたらキコはみんなと現れて一言。


「はあ、今日はまた塩粥か、、、」


 それでか。

 そんなにベーコントマトが好きだったか。


「今日のは飛魚の骨と昆布の出汁で炊いたヤツです。ちょっと塩気が薄いかもしれないんで食べてみて足りないようならそこの塩を振りかけて食べてください」


 こう言うと大抵いきなり塩ぶっかけて台無しにする奴がいるんだよな。


 と、思いきや全員一口食べてみてから調節している。

 みんな意外と育ちが良いのかな?


「お、確かに塩粥とは違うな。美味い!」

「魚と海藻なんて美味い訳ないって言ってたの誰だ? 美味いじゃないか!」

「これは干してある魚も期待できるんじゃないか?」

「塩がかけ放題なのが良いな」

「俺はこのままで十分だ。後で喉が乾くぞ?」


 心配を他所に今日も和気藹々の賑やかな食事になった。

 ほっと一息である。


 次のターンも士官のターンも概ね好評だった。

 そもそも軍人は飯にうるさく言わない文化がこちらの世界でもあるのかもしれない。

 ま、食えないよりはマシってやつだ。


 みんなが上機嫌なら俺も上機嫌だ。

 とっとと洗い物を済ませて長官の所に食事を持っていこう。

 俺も腹が減った。


 てか、長官もう体調が結構戻ったのだから士官たちと食べなくていいのかな?

 元から別なのかな?

 あとで聞いてみよう。


 そういえばパラディーノ医師も来なかった。

 病人のぶんに魚フレークをかける仕事も確かにあるだろうが、アイツやりやがったな。

 病人と一緒にサンマ(仮)フレーク粥を楽しんだに違いない。

 まあ、役得って奴だな。


 俺?

 俺は全部長官に譲るさ。

 紳士だからな。


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