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 俺はとりあえずメインマストに干してある昆布の様子を見に行ってみた。

 かなり乾いて表面に粉が浮いて来ている。

 もう一日干せば大丈夫そうだ。


 飛魚は明日まで海水に漬けておきたいのでこのまま甲板に置かせてもらう。

 あとでまた氷を足さないといけないだろう。  

   

 俺は中骨の入った桶だけ持って厨房へ向かった。これには熱湯をかけて霜降りにしておかないといけない。ついでに凍らせておくと保存にいいかもしれないな。


 俺は中骨の霜降りを終えると桶ごと氷漬けにして置いておいた。


 それからは昨日と同じく、米と麦を研ぎ、ベーコンを刻みドライトマトを刻み、全部合わせて寸胴を火にかけた。


 食堂の掃除をし、厨房の掃除をし、四点鐘を待った。

 慣れてきたのだろうか余裕がある。


 ところで風は吹いただろうか?

 てか、こういう風待ちって何日も続いたりするものなのかしら?

 なんなら櫂を漕いで進んでみてもいいのかもしれないがやっぱ無駄なのかしら?



 それにしても厨房って孤独よね。

 漁も孤独よね。

 思えば俺はずっと孤独だったんだ。


 俺は前世でも恋人がいなかったし、友達も少なかった。

 家でゲームをしてても友達とオンラインすることはほとんどなかった。


 ま、当たり前か。

 コンビニ店長やってりゃ決まった休日なんてほとんどないし、昼も夜もクリスマスも正月もない生活だったし。


 でも、友達も恋人もいなかったから昼も夜も休日もない生活ができてたんだろうな。

 

 むしろ暇になると孤独であることが辛くて、それが分かってたから無理して働いてたのかもしれない。


 こうやって思い出すと、この世界の村での生活は常に誰かが一緒に居て楽しかったな。

 川海老を取ってても畑仕事を手伝ってても、いつだって誰かと一緒だった。

 うんことかちんちんとか言えば誰かが絶対笑ってくれた。


 シオンやシオンの妹は元気かな。

 イータやイオタはちゃんとギルドの塾に通ってるだろうか。

 とうさんやかあさんは俺が居なくなったことにもう慣れただろうか。

 バルドムやラムダ、トレスはちゃんとやってるだろうか。


 村を出てまだ数日しか経ってないのにえらい遠くまで来てしまった気がする。

 いや、実際遠いんだけど。

 

 でもホームシックはいくらなんでも早いよな。

 暇になると色々考えちゃってアレだけど、ちゃんと長官の役に立って色々覚えて、村に帰るにしてもキチンと婚約者としてイータを迎えに行かなきゃならないからな。


 勉強、筋トレ、女に優しく!

 そう、初心を忘れちゃいけないな。


 そうだ、緯度経度の測り方や海図の見方、船の操舵方法など知らないことはまだまだ沢山ある。

 暇な時間を見つけたら積極的に学んでいかなくちゃ。


 魔術だってファイヤーボールもまだやってないし、そもそも得意分野もまだ分からない。


 ええと、魔術は何があるだっけ?

 火魔術、水魔術、風魔術、土魔術が基礎四種だったよな。

 そもそも長官がどれのエキスパートなのかも知らないや。


 学ぶことはまだまだあるぞ!

 それに筋トレも再開しなきゃ。

 ロープを引いたり櫂を引いたり、船は引く動作の仕事が多いから押す系のトレーニングはちゃんとやんなきゃな。

 走ることも少ないから脚も鍛えないと。


 俺はひとまず食堂のテーブルに手をついて斜め腕立てを少しばかりやってみた。

 うむ、胸筋を使うと男らしい気分になる。


 さあ、そろそろ粥が煮えてる筈だ。

 気を抜かずに飯もちゃんと作ろう!


 しかし、寸胴の蓋を開けて見てみると、煮えてなかった。


 慌てて炭を確認すると半分ほど燃え残っている。

 火のつけかたが甘かったか、炭の積みかたがダメだったか。


 今日は四点鐘に間に合わなそうだぞ。

 ゴメンよみんな、、、、




 30分ほど飯の時間が遅れたが思ったよりは大きな問題にはならず、舌打ちをされた程度でコトは収まった。


 今日もベーコン入りのトマト粥だとみんな分かっていたからだろう。


 そうだぞ! 

 新入りをイジメたりしたらボイコットして飯を作らないんだからね!!


 いや、そんなことしたら逆に海に落とされそうだな。

 くれぐれも腰を低く気をつけて仕事しよう。


 みなが飯を食い終えて片付けをし、今日もまた温め直した粥を持って部屋に戻ると、船長が作戦室に来ていた。

 長官と二人で眉をひそめて何やら話をしている。


 ノックをしたら入れと言われたのが、どうしたもんか?

 きっと風がこのまま吹かなければ食料が何日で尽きるとか、夜間航行待ちをいつまでさせるのかとかそういった難しい話をしているに違いない。

 話が終わるのを待つのが正解だろう。


 せっかく温め直したんだけど冷めちゃうな、、、。


 俺は二人分の粥をベッドに置いて俺もベッドに腰をかけ、話が終わるのを待った。


 すると二人がこちらを振り返った。

 

 あ、外したほうがいいかな?

 俺は腰をあげかけたが長官が声をかけて来た。


「お前はどちらだと思う?」

「え、なにがですか?」


 船長が身体ごとこちらに振り返ると、ハッキリとした声で言った。


「昨日の晩からみなの体調が改善している。ワシは貴様が作った飯が原因ではないかと考えておる」


 長官が話を引き継いだ。


「わたしはなにか他の原因があるのではないかと考えている。パラディーノの治療か、もしくは風が無いせいでみなの身体が休まったか、、、。もちろん美味い飯でみなの心が晴れやかになったことも関係がないとは思わんが、、、」


 そして今度は船長だ。


「そこで問おう。貴様はどちらだと思う?」


 困ったな。

 俺はその症状は脚気だとほぼ確信してるからビタミンB不足を補えば軽症な者は改善するとは思っていたが、どう説明したもんか。。。


「あの、質問させて下さい。船長は手足の痺れや倦怠感は?」

「ワシはない」

「そうですか、それは何よりです。ところで食事は船で出るものだけですか?」

「ワシは若者のように一度に多くはもう食えん。だから食事と食事の合間に持参している乾燥肉や豆類を噛んだりしている」


 長官は少し気色ばんだ。


「む? オミよ。貴様も塩粥が病の原因だと言いたいのか? アレはエルフが長年続けていた食事。わたしもエルフの世話になっていた時には今よりもはるかに長い期間の米食を続けていたぞ?」


 経験上、大丈夫だったから米食を導入したのか。しかもこの口ぶりだと長官が率先して導入したっぽいな。

 怒らせたくはないけどどうしたもんか?


「あのー、エルフの食べていたコメは我々の物のように真っ白でしたか?」

「いや、エルフの飯は精米度が低く茶色くてもっと食べにくいものだった。それを改良し白くしてパンに慣れた我々でも食べやすいようにしたのだ」


 そうだろう。

 玄米だったら分搗きであっても脚気にはならないのだ。

 だから精米業が発達した江戸時代の江戸の街だけで脚気が流行して江戸病なんて呼ばれたとかなんとか。


「そこがエルフと違うのであればそれが原因なのかも知れません」

「そんなバカな、、、。ジロ河に水車を新設し、やっと大量に精米が可能になったのにそれが間違いだったと、、、」


 その気持ちは分からんでもない。

 俺だって玄米より白米の方が好きだ。玄米で作った握り寿司なんで考えただけでゲンナリする。


 ここは色々食べないと身体に良くないって話にしておくか。


「誰が言っていたか忘れましたが、こんな話があります。ヒトには草食動物と同じように門歯と臼歯がありますが、獣と同じように牙も持っています。だから歯の数に合わせて野菜と穀物、そして少しの肉を食わないと身体が上手く動かないのだとか」

「ほう、道理だな」


 船長は納得してくれたようだ。


「ところでオミといったか。貴様、転生者だろう?」


 え、超びっくり!

 なんで分かったの?


「まままま、まさか。僕は漁村で育った唯のアホな10歳の少年ですよ?」


 船長は笑った。


「そんなマセた漁村の10歳がいるもんかよ。それに貴様、最初にタッキングした時にマストの角度が変わったのを見て驚いていたろう? 初めて帆船を見た者は普通はそこには驚かんよ。ああ、そういうものかと思うだけだ」


 チクショウ見てやがったか。

 言わないで、何だか恥ずかしい!


「オミ、本当か、、、?」


 あ、ヤバイ。

 本当は32歳とかってバレたらそれこそ海に落とされそう。


「あの、僕にも良く分からないんですよ。確かに別の世界で暮らしていたような記憶がちょっとだけあるような、ないような、、、」

「転生者だったか!」


 ガッと腕を掴まれた。

 凄いチカラだ。

 魔力切れで昨日まで寝込んでいたとは思えないくらいだ。


 船長が説明してくれた。


「おい、安心しろ。海佐は転生者を探しておられるのだ」


 え、なにそれ?

 転生者はこの世界では役立たずのサイコパス扱いで、しかも結構なエンカウント率だとか聞いてますけど?


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そりゃ隠す気ないレベルのやり方やしばれるよなww
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