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 甲板を経由して中央の階段から食堂に降りてその奥の厨房へ。


 食堂はさっき見た通り粥が床にぶちまけられていてひどい惨状だ。

 厨房はというと調理道具その他はかなりの部分が壁に固定されておりこれといった被害はないようだった。


「じゃあ早速、その寸胴に水を入れてくれ」

「どのくらい要るんです?」

「半分欲しいが、後で水の係も来るから無理はいいぞ。俺は食堂を掃除しなきゃならんから」


 ロッコ氏はそういうと厨房を後にした。

 俺はまた黙って水をだす。

 今回は最初から手に触れないように、かつ勢いよく出す。

 

 振り返るとロッコ氏はチリトリのような物で落ちた粥をかき集めてゴミ用の小さい樽に入れている。

 アレを拭き掃除するのは大変だよなと思って見ていると、床の全体におが屑を撒いて竹のような硬そうなホウキでおが屑を集めた。

 すると床の大部分はキレイになっている。


 おお、生活の知恵だなあ。

 おが屑のいい匂いもするし一石二鳥よな。

 と感心していると、ロッコ氏は俺の視線に感づいた。


「おい、何サボってんだ! 魔力がもう切れたならとっとと他のヤツを手伝いに行きやがれ!」


 俺ははっとして寸胴を見るとほぼ満タンになっていた。

 危ない、溢れさすところだった。


「あ、すみません。ぼうっとしてたら入れ過ぎました」

「なんだと?」


 ロッコ氏は肩を怒らせて歩いてくると寸胴にたっぷりと満たされた水が目に入ったのか途中で立ち止まった。


「おいおい、なんの冗談だ。こんな時に」

「すいません」


 ロッコ氏は厨房に入ってくるとスプーンで寸胴の水をすくい、匂いを嗅いでから口に入れた。

 そして驚愕の表情を浮かべた。


「真水じゃねえか!」

「すいません、多過ぎですよね」

「いいよいいよ、水はいくらあっても多過ぎってことはねえよ。ただそんなに出せるなら樽の方に汲んでくれれば良かったんだ」

「あ、なるほど」


 俺はなんとなく水魔法のコツを掴んだ感じがあったので寸胴の水の半分を水球にして持ち上げ、樽の方にそっと移した。


「そんなことができるのか?」

「やってみたらできました」

「詠唱は?」

「昨日長官から無詠唱のやり方を教わったんですよ」

「はあ〜。。。バルゲリス海佐はつくづく凄いお人だな。さっきの竜巻をくぐり抜けたのも凄いと思ったが、そんなことまでできるとは!」

「ホントっすね」


 ロッコ氏はヨロヨロと厨房の端に置いてあった椅子にすがり付くと倒れ込むように腰を下ろした。


「あんまりびっくりしたんで腰が立たねえ。悪いがもう少し頼まれてもらえねえか?」

「もちろん」

「そっちの桶で海水を汲んできて欲しいんだ。なるべく船首のほうのキレイな海水がいいんだが、、、そうか、今は停泊中か」

「今は忙しくて誰も用を足してないと思うんで大丈夫だと思いますけど」

「そんなら汲んできてくれ。米を洗うのに使うヤツだから、くれぐれもキレイなのを頼む」


 俺は取手とロープのついた桶を手に取ると甲板に出て船首に向かった。

 誰も用は足してないと思うが確かに食材を洗うとなるとちょっと気になるな。

 海流もわからないから何がどうなってるかもわからないしな。


 特に今は舷側に張られたロープを大勢が降りて船体チェックしている最中だ。

 途中で尿意や便意を催す奴もいたかも知れない。

 

 俺は海水を汲むのを諦めて厨房に戻った。


「汚そうなんで、やっぱやめました」

「そうか、まあ真水で洗ったっていいんだ。それでいい。お前、米を洗ったことは?」

「あります」

「じゃあお願いしていいか。まだ立てねえんだ」

「もちろん。量は?」

「米櫃に入ってる升で10杯だ」


 俺はロッコに指差された箱を開けると思ったサイズの3倍の大きさの升で10杯数えて桶に移すと、やり慣れたウォーターボールを出しながらじゃくじゃくと米を洗った。

 ヌカの出た水は船窓に向かって付いている雨どい状の水路に流す。


 米の量が多いだけにかなりの重さがある。

 ロッコ氏がマッチョなのはこういう理由か。

 いや、マッチョじゃないと務まらないのが正解かも。


 米を洗うのを3度ほど繰返すとロッコが悲鳴をあげた。


「おい、何度洗えば気が済むんだ! 水がもったいないだろう!」

「あ、すいません。僕の故郷は水が豊富だったんで、、、」

「まあいい、、、どのみちお前が出した水だ」


 いかん、こんなに洗わないのか。


「できました。塩気はどうしましょう?」

「ええ? そうだな、、、真水で洗ったことがないから加減がわからんな」


 海水の塩分濃度は3%とかなんだっけ?

 それを吸った米がこの水の量で炊くと、、、?

 さっぱりわからんな。


「適当にやってみていいですか?」

「構わんが慎重にたのむぞ、塩が多過ぎると食えたもんじゃないからな」

「はい」


 俺は壁に吊ってあった木製の大ぶりなスプーンで塩をすくい、寸胴に入れた。

 よく混ぜて味見をする。

 全く塩気がない。

 

 もう1杯入れて、味見をする。

 これでも塩気を感じない。


 もう1杯入れる。

 これで3杯だ。

 味見をする。

 微かに塩気を感じる。


 きっとこんなもんだ。

 煮詰まるといい感じな塩分濃度になる気がする。

 味が薄いって言われたら足せばいい。


「できました」

「そんじゃ竈門に火を入れてくれ」


 言われて気づいたが寸胴の乗っていた石造りの台は竈門だったか。

 確かに横に鉄製の窓が付いてる。


 竈門の窓を開けると中には炭が入っていた。

 が、びしょびしょだ。

 

 どうしたもんか、これ?


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