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 茶ブチ、もといフルミネに乗って今度は独りでアカデミーに戻った。


 相変わらず他の生徒は居らず、門も顔パスで通してくれた。

 テントの軍服さんが指差す方へ向かう。


 校舎と校舎のあいだの小道を抜けると馬場があった。

 四角い土の演習場。

 馬術競技の場所っぽい。

 

「来たか」

「はい、よろしくお願いします」

「良い顔になってるな」

「強く、騎兵になりたいと思いまして」

「そうか」


 試験官氏は馬場の柵を開いて迎え入れてくれた。


「早速だが始めよう」


 先ずは普通の乗馬チェック。

 並足、速歩、駈歩、襲歩をやって見せる。


 そしてポールが立てられた隣の馬場に移動し、スラロームや急転回、ポールの飛び越えなどをやらされる。

 ジャンプは初めてだから一番低くてもおっかなびっくりである。


「うむ、基本はできているな。ではこの案山子に走りながら打ち込んでみろ」


 ロングソードの木刀を渡され、走り抜けざまに横薙ぎを打ち込む。

 手に来る衝撃が段違いで取り落としそうになる。

 Uターンしてバックハンドでもやってみるが、身体のひねりや倒れ込みが足らずに空振りしてしまう。

 バックハンドじゃなくて左手に持ち替えた方が良いのだろうか。


「騎馬武術は本当に初めてなのだな」

「はい」

「ポロは?」

「ポロもやったことがありません」

「ふーむ」


 やっぱ未経験過ぎて駄目かしら。


「馬はいつもその馬か?」

「はい、自分の馬です」

「なるほどな」


 見学すらほぼしてないのでどう動けば良いのかすらよく分からない。


「あの、、、」

「まあ、合格だな。とはいえ馬に随分助けられてるな。しっかり指示を出していないのに馬の察しが良いからなんとかなってる状態だ」


 うん。

 手綱を引いたり足で蹴ったりはほとんどしてないもん。

 馬の動きはほぼフルミネ任せだ。


「うーん、、、あれこれ言いたいが、それは実際に授業が始まってからだな」

「どうですか、騎兵を目指せますか?」

「ひとまず問題ない。テストには合格だ」


 なんだか歯切れが悪いが、かなりギリギリに下手くそなのだろう。


「あの、助言とかこういう練習をしておけとかありますか?」

「あー、、、強いて言うなら他の馬にも乗れるようになっておけ、というくらいか?」

「ありがとうございます」

「よし、では採点表を出しておくから校舎のベンチで待て。馬はこちらに繋いでおけ」

「ありがとうございました!」


 俺はフルミネを指定された柵に繋いだ。


「ありがとうな。お前のおかげで受かったみたいだ」


 そう言って首筋を撫でるとフルミネはその場で足踏みをした。

 もっと感謝しろという事か?


「よしよし、帰りに八百屋があったらお前の好きそうな果物を買ってやるよ」


 フルミネは大きく頷いた。

 現金な奴め。


 そういえば領主からの推薦状があるのだ。

 校舎の受付に持って行ったらそこで受け取ってもらえた。


 暫くベンチで待っていると受付に呼ばれて合格証と入学案内を渡される。

 どうやら寮はこことは別の場所のようだ。

 まあ宿に帰ってから王子と確認しよう。


 フルミネを連れて門の所まで戻ると試験官氏が待ってくれていた。


「今年の合格者第一号だな!」

「ありがとうございます!」


 ところで何で受験者がこんな少ないのだろうか。

 訊いてみる。

 すると南はリンゼンデンの魔物騒ぎで、北は橋の崩落があって受験生の到着が遅れているとのこと。


「西からは?」

「大抵は南に回り込むか、もしくは東まで出るな。普通は宿場もスラムも嫌がるもんだ」

「なるほど」


 スラムなんて厭わない一般枠の連中はまだだもんな。



 宿に帰って驚いた。

 王子が寝込んでいたのだ。

 急に熱を出したらしい。


 一昨日、裸で寝てたのが良くなかったか。

 やはり服を直ぐに乾かして着せれば良かった。

 後悔先に立たずだな。


 いや、初めての馬での長旅で疲れが出たのかも知れない。

 碌な寝床もないままに粗末な飯でここまで来たからな。

 城での生活、つまり柔らかくて温かいベッドで寝て、毎日湯浴みをしてた生活とはかけ離れてるもんな。

 やっと目的地に着いてホッとして気が抜けて熱が出たとかありそう。


 ひとまず必要なのはビタミンCだよな。

 さっきフルミネに固い桃を買った店まで戻り、今度はちゃんと美味しそうな桃を買った。


 宿に戻ると今度はロビーにロンド船長が居た。


「船長!」

「おおオミ、随分と大きくなったな」

「いつ寄港したんですか?」

「ついさっき、昼過ぎだ」

「長官は?」

「長官はまだカイエンだ」

「ありゃま。何にせよ明日にでも遊びに行って良いですか? キコやカッロに会いたいし。僕もう試験終わったんですよ」


 ロンド氏は一瞬口籠ると、一通の手紙を取り出した。

 おお、また手紙か。

 誰からだろう。


「試験が終わってるならちょうどいい。お前に頼みがある。これをバーゼルのエルフに届けてもらいたいのだ」

「え」


 俺宛てではなくエルフ宛てとは!


「済まんな、頼めるのがお主しかおらん。それに早いうちにエルフに魔術の手解きをしてもらった方が良いというリサ様の思惑もある」


 マジか。


「あの、僕はアカデミーに、、、」

「バーゼルまでは馬で二十日ほどだ。アカデミーの始まる九月には充分余裕がある」


 なるほど。

 お使いクエスト&短期留学だな。


「えっと、道案内的なのは、、、」

「ずっと街道が続いているから迷うことはない。まあ北から出る事になるから門が開く時間に制限があるが」

「あの、なんか北に向かう途中のどこかの橋が落ちてるらしいんですけどどうしましょう?」

「そうか。修理に時間が掛かるようなら渡しを使ってくれ。これを使え」


 貨幣の入った袋を渡される。

 使いやすいように銅貨が中心だが結構入ってる。


「あの、いつ出れば? 仲間に説明もしたいですし」

「時間に余裕はある。準備が整い次第でよい」

「分かりました。エルフとはどう繋ぎをつければ?」

「バーゼルを突っ切って北に向かえば、あちらがお前さんを見つけてくれる」


 なんだか大変な事になったな。

 ひとまず王子たちに説明をせねば。

 

 王子は体調を崩してしまったけど、元気だったら一緒に来たかっただろうな。

 未来のバーゼルでの仕事もあるし、エルフにも興味を持っているだろうし。


 申し訳ない気持ちもあるが、長官が古エルフの魔術と言う名の無詠唱を教えてないという事はきっと何か訳があるに違いない。

 ということは王子が伏せっているのはタイミング的には良かったのかも知れないな。



 俺は桃を洗い皿を借りて盛り付けた。

 この世界の桃は皮の産毛がほとんどないので丸齧りにするのだ。

 ほんとならお見舞いらしくリンゴをウサギちゃんカットにしたいところだがシーズンじゃないので仕方ない。


 桃でウサギちゃんカットにすればいい?

 種が邪魔でできないんだよ。


誤字報告、本当にありがとうございます!

いまだにボロボロ出てきます

全国に恥を晒しているようで恥ずかしいですが今後も校閲よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
合格してここから学園園の準備やその前の縁繋ぎや伏線作るところかと思ったら、学園の前に別のおつかいクエストで長期移動するとか予想外で展開全く分からないw
うぉー、遂に最新話に追いつきました。 楽しくモリモリ読ませてもらってます。 続き、楽しみに待ってます。
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