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 スラム地区から王都を守っている壁はより高く堅牢な、いわゆる城壁だった。

 きっと何年か前まではこの壁までが王都だったに違いない。


 この壁は薄茶色でディーヌベルクの街を作っていた素材と同じだ。

 つまりエルフのドームと同じ素材で作られている。

 ディーヌベルクとの違いは石のサイズだ。

 あっちが普通のブロックサイズだったのに対してこちらは一塊がデカい。

 良い例えがないから困るのだけど、軽自動車くらい?


 これは俺の想像なのだけど、ドームを作る際に地下の土を掘り出したのをこのように加工して建材にしてるんだと思う。

 だから土地ごとにドームの色味って違うんじゃないだろうか。

 気になる。


 何にせよ、平たい石を積んだウォール・マリアを抜け今はウォール・ローゼを抜けたところだ。

 内側に入ると広場になっておりそのまま続く目抜き通りがある。

 その奥には更に壁があるから、あれがウォール・シーナになるな。


 もっとあったらどうしよう。

 名前がもう無い。


「平民街を見たいでしょうが、急ぎますので真っ直ぐ進みます」


 ロレンツォからの説明があった。

 ひとまず俺たちは広場の隅で馬たちにおやつと水を与える。

 俺たちもナッツを適当に摘む。


 大きな音がして振り向くと抜けてきた門を閉めている音だった。

 この門は外開きの観音開きで、軍事的な閉鎖能力はさほどでは無いのだろうが巨大な木製の扉を数人掛かりで動かしているのはなかなか壮観だ。

 ご丁寧に閂を二本掛けている。


 と思うと門の向こう側から怒号が漏れ聞こえてきた。

 スラムの民が押し寄せているのだろう。

 助けてやりたい気もするが、もちろんどうにもできない。

 こういうの、どうにもやられるな。


「さ、急ぎましょう。この道は騎乗で通行できます」


 怨嗟の声を振り切るように俺たちは出発した。


 目抜き通りは小綺麗な店が立ち並ぶ。

 道の広さは大型の馬車がすれ違えれるくらいに充分広い。

 しかし馬に乗っているのは我々以外にはほんの数組。

 馬車は一台も見ない。

 ディーヌベルクがもっと栄えていれば、西側にスラムがなければもっと活気のある通りだったのだろうな。



 ウォール・シーナの手前まで来てまた馬を休ませる。

 あ、ウォールなんとかってついて来れてない人居る?

 アニメ化もされた大ヒット漫画の設定でこういうのがあるんだよ。

 こっちのウォール・マリアは少々ショボかったけどさ。


 馬を休ませ終えれば、またもや検問だった。

 この門は各国のそれなりの地位の人からの身元保証がないと入れないとの事。

 ポリオリ王子の一行にしては見窄らしいと疑われたり見下されたりするんじゃないかと警戒したのだが、普通に書類チェックだけしてスムーズに通された。

 ポリオリみたいな辺境からだったらこんなもんかとか思われてそうで何だか悔しい。


 しかし門を潜ればまあそんな悔しさは何処へやら。

 今までの都市とは段違いに綺麗な街並みが広がっていた。


 門を抜ければ広場があるのは今まで通りだが、色分けされて意匠のある石畳と見事な街路樹が格の違いを見せつけてきた。


 しかも車道と歩道が分けられ、その境には植え込みが茂っている。

 そして目に入る建物の玄関脇には花壇があり色とりどりの花が咲き誇っている。

 それがずっと奥まで並んで続いているのだ。


 現代日本を知ってる俺からしたらそんな驚く事でもないんだけどさ、いやそれでもここはディズ◯ー・ランドか何かですかという気持ちになる。


 ウォール・シーナの外側は武装した兵士が門を守っていたが、中に入ればそれが美麗な軍服を着飾った近衛兵に変わる。


 なるほど、これが王都ですか、、、!


「折角ですからドーム沿いに行きましょう。オミ殿は初めてですから」


 あ、そっか。

 他のみんなは体験済みか。

 じゃああんまりキョロキョロしてると迷惑になるな。


 進めば街路樹のトンネルの向こうにドームが見えてきた。

 そのサイズ感はディーヌベルクで見た通りだから驚く事はないが、ドームを囲む整備された畑、そこを歩く異形の生き物、そしてドーム中央に聳える世界樹の姿に圧倒されてしまった。


 なんつーメルヘンな木だろうか。

 幹も枝も葉も全てが白く輝いている。

 樹形はそうだな『この木なんの木、気になる木』のCMの木に似ている。

 それがドーム全体を覆うように広がっている。


 一本の木で何万人が住むドームの全エネルギーを賄うなんて聞いてもいまいち信じられなかったが、これを見た今は納得だ。


 そもそも木というのは光合成に最適な形状をしているものなのだから、その葉の一枚一枚が太陽光パネルなら相当のエネルギーを太陽から受け取れる訳だ。


 いやそんなの無理だと否定したい俺と、その存在感で既に納得しつつある俺のせめぎ合いが俺の内部で起きている。

 つまり俺は目を世界樹に固定され、口をあんぐりと開けたまま馬に揺られているのだ。

 まさにお上りさん。

 アホづらの極致。


「流石のオミも驚いたか」

「、、、返事もできぬようですな」

「転生者でもこういう反応なのですね」


 声を掛けられたのは分かるが上手く処理できない。

 ようやく振り返って絞り出した一声はこうだった。


「いや、無理でしょう?」

「何が無理なのだ」

「いやだって、無理ですよね?」


 王子が笑った。


「もはや喋れておらんな」

「、、、、、、」


 確かに喋れてないな。

 その瞬間、目の端に何かが横切った。

 ぐりんとそちらを向く。


 黒狼だ。

 二匹の黒狼が仲良く並んで柵の中をパトロールしている。


 理解が追いつかないので首を振って、さっき見つけた異形の生き物を見る。

 薄いオリーブグリーンで二足歩行をしている。

 体高は三メートルほどだろうか。

 皮膚は硬そうで質感はサイと似ている。

 体型は小顔なミシュランくんと言った感じ。

 顔には口がなく鼻もない。

 そして目なのだが草食動物と肉食動物の中間くらいの変な位置にある。

 真っ黒いボタンのような感情のない目が怖い。


「あれは何です?」

「ゴーレムだ」


 え、ゴーレムってもっと石っぽい何かじゃなかったっけ?

 改めてゴーレムを見る。

 確かに石っぽいか。


 改めて黒狼を見る。

 襲撃された時はひたすらに不気味で恐ろしいと思ったものだが、陽光に照らされた黒狼は印象ほどは黒くなく、部位によって茶や灰色が混在しているのが分かる。

 胸元の毛はグレーでワシャワシャとカールしている。

 耳の中のふわふわの毛はわずかに白い。

 鼻先をついと上げ、誇らしげに胸を張って歩いている。

 要するにカワイイ。


 毛モジャの連中というのはこちらに脅威がなさそうなら可愛く見えるものなのだ。

 ズルい。

 もちろん例外はある。

 コウモリとかアイアイとかだ。


 コウモリについては言わずもがな。

 アイアイに関しては有名な歌が陽気だから実態が誤魔化されているが、実物を見ると何やら異形で驚かされる。

 現地のマダガスカルではアイアイのあの異様に長い中指で指さされたら不幸が訪れると言われているほど不吉な動物なのだ。

 その逸話だけ聞いたら野生生物というよりも妖怪のようだ。


 よしよし。

 アイアイについて考えていたら気持ちが落ち着いてきたぞ。

 もう普通に喋れるな。


「凄いですね、これが“生きてる”ドームですか」

「お、落ち着きを取り戻したか」

「ええ。なんか色々驚き過ぎて疲れました。あれは、、、黒狼ですよね」

「そうだ。こう見ると案外可愛いよな」

「いや本当に」

「退治した黒狼の尻尾を下げてここを通ったらどのような反応をするのだろうな」

「、、、不謹慎な発言はおやめください」


 不謹慎なうえにマジで危険な気がする。

 鉄柵を飛び越えて黒狼が飛びかかって来てもきっと近衛兵の皆さんは助けてくれないだろう。


 もうドームは良いから早く宿に行こうぜ。

 

誤字報告ありがとうございます!

感想もありがとうございます!

この数日、急にPVが増えてなんだか怖いです、、、

数字に振り回されないよう気をつけながら粛々と書き続けたいと思います!

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話題がないのが読みずらい。
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