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思わず前のめり気味に訊ねてしまう。
「それってイリス教会は知ってのことなのですか?」
「どうなんだろうな。寄付を施してくださった方への心ばかりのお礼だって言ってたけどな」
その返事を聞いてアウグストがいつに無く真剣な声を出す。
「その、アルトマン殿はあの女将と、、、」
「ないない。いつだかどこぞのお偉いさんが来た時に上に連れて行くのを見たって噂があるだけよ。そもそもそんなお偉いさんが酒場まで足を運ぶなんてあり得ねえから嘘かも知んねえな」
「なんだ、そうか、、、」
肩を落とすアウグストを見て総髪メンバーたちは賑やかに笑った。
「俺たちみんな女将の名前すら知らねえのよ。そういう距離感さ」
「はあ、、、高嶺の花なのですね」
「、、、それにしても女性のお客さんも多いですよね」
店の外も中も、大体の客が男女混合なのだ。
「女将は女の客には真っ先にご機嫌伺いをするし、何か揉め事があっても直ぐに表の衛兵を入れて女を守るからな」
「女性が安心して飲めるのですね」
「そうそう。酔っ払いが女の客を口説き始めて、その女が嫌がってそうなら上の女がスッとやってきて酔っ払いを上に連れて行ったりな」
なるほど。
妖艶な女性たちも治安維持に役立ってるのか。
つまりそういうサービスはやはりあると。
なんだか凄いシステムだな。
「女将が言うには修道女になる女にも色々あるらしくてな。親の決めた相手が酷い奴で逃げてきたりだとか、傷物になって捨てられたりな。俺が驚いたのはモテ過ぎて村から追い出されたりとかそんなのも居るんだってよ」
うわあ。
もっと酷い例も沢山ありそうだ。
そういえば婚約破棄されて外聞が悪いからと修道院に入れられたヒロインの話も読んだ事がある。
あ、前世のラノベね?
「ンなこたあ、どうでも良いんだわ。さっきまたギルドに行ってきてよ、ディーヌベルク側が街道の警備を怠ってるんじゃないかって話を聴いてきたのよ。なんなら請け負っても良いぜとよ」
「はいはい。どちら側からも依頼を受ければ定期的に行き来するだけで稼ぎは増えますもんね」
「小僧、鋭い」
ピシリと指さされた。
「まあ、ところがよ。依頼は別に出してて定期的に報告は受けてるっつーのよ」
「ではあの馬車の件は、、、?」
「聞いてねえってさ。てこたあ、街道警備のパーティが荷と馬を盗んで売り捌いて懐に入れてんのよ」
「そうなのでしょうね」
「冒険者同士はお互いの邪魔はしねえって暗黙の了解があんだけどもよ、ちょいと今回ばかしはカチンとくるのよ。分かる?」
総髪は俺たちに慣れたのもあるだろうけど酒が入って口調がとてもリラックスして来ている。
まあ、悪い気はしないのだが。
「分かります。安全を確保する依頼なのに危険を排除せずに利益だけを盗んだ訳ですから、少々タチが悪いですね」
「そう! あんたロレンツォっつんだっけか? よく俺の思いを言葉にしてくれた! そもそもよ。ちゃんと報告すればギルドと商業者ギルドで身元確認をちゃんとして、残された家族が居れば連絡が行くのよ!」
あ、それは大きいな。
「残されたカミさんや子供たちの気持ちを考えてみろよ。死んだならまだしも、捨てられたのかなって思ったまま生きるのは酷だろう?」
俺たちは頷いた。
総髪はそういう生い立ちなのかも知れないな。
辛さが分かるから見逃せないのだろう。
総髪をメンバーのひとりが受け継いだ。
「そこでだ、偶然にもそのパーティがそこに居る」
指さされた方を見ると、長テーブルに着く男だけの六人組が目に入った。
「奴らは街道の警備を請け負っていて、先週、出所の分からない馬と大量の麦の種籾を売ったそうだ。ギルドじゃなくてマーケットで」
真っ黒やんけ。
「それから急に羽振りが良くなってこの店に来るようになったんだと」
ふむふむ。
「幸いなことに俺はあそこと顔見知りだ。ちょいと声掛けて、あの馬車のことを聞いてみる。そこで頼みがある」
メンバーは両肘をテーブルに付いて声を潜めた。
「喧嘩になったらアイツら含めて俺たちを速やかに店の外へ追い出してくれ。外の衛兵に俺たちのやりとりを聞かせる。そうすれば軍も関わって調査が始まる筈だ」
「アンタらは手出しはしなくて良い。俺たちでやる」
何だか面倒臭い事になったな。
どうせ喧嘩も巻き込まれるし、その調査とやらも付き合わされるのだろう。
ただでさえ遠回りしてるのにこれ以上旅の寄り道は避けたいところだ。
「よし、アンタらに漢を見た。行ってこい、骨は拾ってやる!」
そう言ってジョッキをテーブルに打ちつけた王子を見ると目は輝き、口元はご機嫌な三日月になっていた。
王子はこうした武侠ものに弱かったか。
ロレンツォとアウグストも腕まくりをして準備に入った。
「剣は抜くなよ。正攻法で負かしたい」
総髪はそう言ったが、拳は正攻法のうちに入るのだろうか?
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