表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/253

235

 パン屋では一番高いポリッジを注文した。

 ミルクで煮込まれトッピングにドライトマトとピクルスとハムとチーズ全部乗せだ。


 焼きたてのパンもありますけど、、、

 と困った顔をされたけど断った。


 どうやら売れ残りパンのポリッジは貧乏食扱いみたいだ。

 ただのお湯で煮てトッピングがない奴が一番人気らしい。

 金のない冒険者が朝にかっこんでダンジョンへ向かうのかも知れない。


 まもなく出されたポリッジは黒パンベースだが柔らかくポッテリしていて味も滋味深かった。


 ハムは超薄切りの生ハム。

 ポリッジとよく合う。

 ピクルスは小さいキュウリとパプリカ。

 とても美味しい。

 チーズは味の薄い白いやつ。

 意外にもよく合う。


 しかしドライトマト。

 何だか皮が厚くて噛むと青臭くイマイチだった。

 ミルクにも合わない。

 次があったらトマ抜きだな。


 しかし柔らかく汁気があって温かいポリッジは今のお腹にピッタリだった。

 みな黙って食って店を出た。


 さて、まだ昼過ぎなのだからエルフのドームの遺跡、つまりダンジョンを見てみたい。


 ところが王子から提案があった。


「オミのローブを買いに行くぞ。あとオミは散髪もだ。」


 異論はないけど何故散髪?

 という顔をしたロレンツォに王子が説明を追加した。


「宿の小僧にオミが馬子か下僕と思われているのだ。思えば確かに見すぼらしい」


 それを聞いて吹き出したアウグストをチラリと見て王子は続けた。


「仮にもポリオリの準男爵だぞ」


 王子のきっぱりとした低めの声を聞いてアウグストも口元を引き締めた


「行きましょう。吊るしでローブは難しいかも知れませんが。マントならサイズが合うのが見つかるでしょう」


 そうだよな、この世界には子供服というジャンルはあるがそれは庶民の服しかない。

 旅用の薄手のローブで子供サイズなんてのは難しいかもな。



 四人で連れ立って街の中心部へ向かう。

 途中、衛兵に服屋の場所を尋ねる。

 言われた場所へ行くとそこは服屋街という感じの地区だった。


 何軒か覗いてみるが、希望に沿うものは中々ない。

 やっぱりローブは難しそうという事でマントに絞って探すとマント専門店に出会した。

 そこには冬用の長い厚手のマントから夏用の短い薄手のマントまで揃っていた。


 ロレンツォが臙脂色のマントを手にする。


「マントといえば赤でしょう」


 そういえばポリオリの士官の儀礼服はグレーの軍服に赤いマントだった。

 でもフード付きで赤だとやけに目立つし赤ずきんちゃんみたいで抵抗がある。


 王子は黄色を指差した。


「ではバルベリーニ風に黄色はどうだ?」


 いや、それも嫌だよ。

 キリストは磔刑に遭う前に黄色いマントを着せられて市中引き回しされたんでなかったけ?


「あの、実用品ですので汚れが目立たないグレーか茶色がいいです。なんなら染色してない生成りで充分です」


 無着色の生成りとそれ以外では値段が倍近く違う。

 染色の手間を考えればそれも納得である。


 というか、おれはそもそも服屋というのが前世から苦手だ。

 服屋に着ていく服がない、とはよく言ったものでファッションに興味がない俺にとって服屋というのはハードルが高い場所なのだ。

 かといってユニクロを着てユニクロに行くのは憚られるし、ワークマンを着てワークマンに入るのも何か抵抗がある。

 結果、通販で服を買いサイズが合わず、かと言って捨てるのも勿体なくて押し入れにしまい込んで何年も日の目を見ないことになる。


 まあそんな事はどうでも良い。

 マントはグレーに決まり、羽織って店を出る。


 フード付きの短いマントというのは商人なんかによく見る格好だが、俺のような子供が着ると何だか中性的な雰囲気があるな。

 ポリオリであてがわれたローブは乗馬を前提に作られたもので膝までの長さがあるのだがスリットが左右にあり、馬に跨る時に邪魔にならないように深く切り込まれている。

 西部劇の保安官的な感じがして気に入ってたんだよな。

 燃やしたことを改めて後悔する。



 次は散髪屋。

 散髪屋は基本は外だ。

 露店のように通り沿いに椅子が置かれて通行人にジロジロ見られながら切られる。

 電灯がないのだから仕方ない。

 目に付く場所で誰かが髪を切られてたらまあ見ちゃうよね。

 それがどんなジャンルであれ、職人の手捌きというのは見ちゃうものなのだ。


 後々伸ばしてポニーテールかお団子にしたいので前髪と襟足と耳の上だけ切ってもらう。


 仕上がりを見てロレンツォが「良いとこの坊ちゃんのようで良いですな」などと言うので気になるのだが、何しろこの世界には鏡などという便利なものはないので諦めるしかない。


 何となく気恥ずかしくてフードをかぶってみたが、熱くてすぐに外した。



「折角だ。ダンジョンも見ておくか」


 王子の提案に激しく同意する。

 俺たちは聳え立つ壁の方へ足を向けた。


 ダンジョン近くもやはり露店が多く、それも種類が雑多で煩雑な印象を受ける。

 冒険者が利用するものが全て集まっている感じだ。


 そこを抜けてみると、広がっていたのは大きな穴。

 あまりに大きいので穴という表現は適切じゃないかも知れない。


 印象として近いのはアフリカとかのダイヤモンドの露天掘り。

 大規模な石切場といっても良いかも知れない。


 しかし、よく見ればその穴は地面の土ではなくて地下へと続く建造物を切り崩して掘り進めたものだと分かる。

 この街の建造物の煉瓦のような石材はここから運び出されたのだと理解できた。


 ディーヌベルクはドームの瓦礫を積み直して作られた街だったのだ。


 穴の広大さと深さに足がすくむ。

 山頂に立ったかのような錯覚すらする。


 そして壁が残されている理由も理解できる。

 穴の内側へと覆いかぶさるように立っていて、下手に弄れば穴の中へと崩れ落ちるだろう。

 折角築かれたルートが塞がれたり、怪我人も出るだろう。

 かといって全ての冒険者の作業を中断させて取り壊すにしても工期にどれくらい掛かるか先が見えない。


 よくこんな巨大な建築物を造ったな。

 エルフ恐るべし。


 というのも、上へ上へと積んでいく建築というのはその作業が想像しやすい。

 昔から人間は巨大建築を造ってきたのだ。

 ピラミッドしかり、東大寺しかり。


 しかしこれは何だ。

 地下に伸びていく建築というのは意味が分からない。

 穴を作ってから煉瓦を積んでいくの?

 運び出した土はどうするの?

 雨水が溜まったりしないの?

 空気の循環は?

 光の確保は?


 前世の現代の技術があればやってやれなくない事は理解できるのだが、脳のひだにこびりついた常識がそれを拒否する。

 腑に落ちない。

 違和感が半端ない。

 異様な感じがする。

 なんだか怖い。


 しかもこの穴の中に何千人もの人の遺体が埋っているのだ。


 ダンジョン探索のことを罰当たりだと長官が言っていたような気がするが、今ならその意味がよく分かる。


 いつか俺もダンジョン探索をしてみたいなどとぼんやり思っていたが、リアルに対峙すると異世界であってもゲームとは違うのだと思い知らされた。


 お弁当持って第何層へレッツゴー!

 みたいなお気軽な仕事ではない。

 これは本来なら呪われることを厭わない考古学者のような学徒の仕事なのだ。



 ダンジョンの巨大な穴を見つめていたら遠近感が狂って目眩がしてきた。


 俺は何歩か下がり、そこにあった露店の屋根を支える柱を掴んで目眩が収まるのを待った。


 いやはや俺は冒険者には、ちょいとばかり向いてないな。


感想ありがとうございます!

誤字報告もありがとうございます!

両刃の短剣の「ダガー」を「タガー」と誤認していました、、、

昔見た資料ではタガーと記述されていたと思うのですが、それでも今一度立ち止まって原語を確認をするべきだったと反省しかりです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ