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ディーヌベルクまでの道のりは特にコレということは無し。
キャラバン連中は俺たちも護衛とカウントしてくれているらしく食事はキャラバン隊が作ったものを分けてくれたからラッキーと言えばラッキーだったかも。
大抵はスープ、たまにポリッジ。
乾燥キノコとベーコンとじゃがいものスープは美味かった。
何処かで乾燥キノコを見たら買っておきたい。
ベーコンも。
この世界のベーコンはかなり乾燥していて叩くとゴンゴンと鳴る。
それでもスライスして口に入れると意外にもしっとりしているので驚かされる。
ベーコンと別にスモークしてないパンチェッタというのもあってそっちの方が若干安い。
味は甲乙付け難い。
スープに入れるならパンチェッタのほうが好きかも。
とにかく、死なない為だけに食べる堅パンと干し肉とドライフルーツという飯は続けると心が荒むので次に馬の旅をする時はある程度の食材と鍋を持っていきたい。
歩きの旅は荷物の軽さが命なので飯は仕方ないが、馬の旅ならある程度は荷物が増やせる。
ちなみに今回も鍋は持ってきてはいるらしいのだが、出番は未だない。
出すのも毎回竈門を作るのも面倒なのだ。
成敗した野盗が焚き火に立てていた三脚のような鍋を吊るすやつ。
アレだけは盗んでくれば良かったかも。
竈門を作らなくても鍋が使えるのは便利だよな。
今回の旅の荷物の大半は王子の防具だ。
いわゆるフルアーマーの甲冑ではなく自分で脱着のできる簡易なものらしいがそれでも嵩張る。
ちなみに俺も成長した時の為のサイズ大きめのブーツは持たされている。
靴って意外と嵩張るよな。
邪魔だなと思いつつも、靴は高価だし基本オーダーメイドらしいので完成まで時間が掛かるから仕方ない。
育ち盛りは辛いぜ
◇
明日にはディーヌベルクに到着するという所で魔物の襲撃の痕跡を見つけた。
道の外れに馬車が放置してあったのだ。
荷台にはゴミのようなものだけが残されており空になっている。
よく見ると周囲に引き裂かれた布がちらほら。
前輪の片方が取れていた。
魔物から逃げようと無理に走らせ壊れたのだろうか?
ロレンツォが馬を降りて見分しに行ったので俺も馬を降りて一緒に見ることにした。
「どうです?」
「まだ新しいですね、塵や埃が溜まっていません」
確かに。
長いこと放置されていた感じではない。
「積荷が何だったかは分かりませんが持ち去られているようですね」
「というと野盗ですか?」
「いえ、この衣服の破れ方はオオカミか魔獣の黒狼かのどちらかでしょう。人間はこんなことしません」
ロレンツォは周囲を歩き回って森の中を覗き込んで回った。
「何を探しているんです?」
「馬が襲われた痕跡です。オオカミなら馬も襲って食べます。黒狼なら人だけ襲って馬は食べません」
そういう違いがあるのか。
「馬の死体は無さそうですね。臭いもしませんし」
「引きずって何処かに持ち去るなんて事はしないんか?」
「それなら馬を先に食べて人を持ち去るでしょう」
なるほど、馬はデカくて重いもんな。
振り返ると総髪たちは周囲を警戒している。
キャラバンは足を止めることなく先へと進んでいる。
確かに一刻も早く街に入ってしまいたいよな。
「充分です。戻りましょう」
「はい」
俺は散り散りに土にへばり付いた衣服の辺りに向かって手を合わせて頭を下げる。
何があったかは分からないけど望まぬ死だっただろう。
善人か悪人かも知らない他人だけども弔っておいて悪いことはあるまい。
「どうだった?」
「おそらく黒狼かと」
「マジか、街にこんなに近いのに」
総髪が眉を顰める。
「積荷や馬は持ち去られているようです。まだ一週間も経っていないでしょう」
「馬車の向きから見てリンゼンデンから来た者だろうな」
「俺たちもこんな奥までは見回らねえからな、、、」
ディーヌベルクが街道の管理にあまり乗り気ではないという噂は本当のようだな。
というか、意図的に放置してるのか?
ロレンツォが総髪に提案をする。
「何にせよ、明るいうちに馬も護衛も休ませて夜間行軍した方が良さそうですね」
「そうだな。済まねえが先頭に伝えてきてくれねえか?」
「私が行きましょう」
アウグストが伝令を買って出て先頭へ向かった。
「夜間行軍ですか?」
「そうです。黒狼は夜行性ですので」
「迎え撃つわけにはいかんのか?」
「我々だけだったらそうします。しかしこれだけ居ると何処かに穴ができます。そこを突かれて崩れては我々も危ういです」
「キャラバンの護衛も信用ならんし、それが良いか」
「ええ」
間もなく連隊は止まり、休憩となった。
馬も鞍を下ろしてやる。
まだ夕方前だが毛布を広げて横になる。
といっても眠れる訳ではない。
王子も横になってはいるが、両手を頭の後ろに組み空を見つめていた。
「ねえ王子、馬は立ったままで休めるんですか?」
「ああ、アイツらは本格的に寝る時は横になるが立ったままでも寝れる。休憩の時によく目を閉じているだろ?」
「ええ」
「アレは寝ているのだ」
「マジすか?」
「逆に夜は割とずっと起きているぞ?」
「へー、知りませんでした」
そうか。
草食動物は敵にいつ襲われても対応できるように断続的な睡眠をとるのだっけ。
なんか夜は馬房で横になってグーグー寝てるのを想像してたわ。
そんな訳ないよな。
馬が横になってグースカ寝ているのを想像してたら眠気がやってきて少し眠ることができた。
目が覚めて、そのままゴロゴロしてたら総髪が起こしにきた。
「ぼちぼち出発するぞ。飯も済ませて馬にも飼い葉を与えておけ」
「了解です」
言われた通りにしていると総髪がまたやってきた。
「お前らは分かっていると思うが一応、夜間行軍について確認しておくぞ」
「お願いします」
「まずひとつ、火は焚くな。松明はもちろん蝋燭も禁止。煙草も駄目だ。黒狼に見つかりやすくなる」
ふむふむ、なるほど。
「ふたつめ、明かりは付けられないから行動食は手元に置くかポケットに入れておけ。今夜の月は上弦だから明るさは期待できんぞ」
ああ、冒険者は月とかも把握してるのか。
確かに夜の明かりは死活問題か。
一緒に聞いていた王子が口を挟む。
「今日は上弦と言ったか? では先程の馬車は新月の夜に襲われたのではないか?」
「そういう事だろうな。何を急いでたのか知らないが単独行で新月に野営とはな」
新月って月が出ない真っ暗な夜って事か。
そりゃあ危なそうだ。
てか俺は今まで一人旅してきたけど月の事なんて考えたこともなかったわ。
リロ氏も言ってなかったぞ。
カイエン-ポリオリのルートが安全だから言わなかったのか、伝え忘れたのか。
それはまあいいや。
今後は気をつけよう。
「みっつめ、雉打ちは一人で行くな。必ず二人で行け」
「雉打ち?」
「ションベンだよ。言わせんな」
「ああ」
「もちろんウンコもだ。基本は我慢しろ。どうしてもって時は三人以上に伝えて、なんなら行軍を停めてもらえ。休憩中であっても誰かに付き添ってもらってくれ」
確かに真っ暗な森で一人で用を足してる時に襲われたらヤバいな。
その死に方だけは絶対に避けたい。
王子に頼む。
「もし僕がウンコしたくなったら一緒に森の中まで来てくださいね?」
「森? 道の真ん中でやれば良いだろう?」
総髪は深く頷いた。
「四つめがそれだ。クソする時でも森に踏み込むな。怪我するだけでも全員の死活問題になる。森には蛇やら何やら夜行性の生き物が色々居るからな。何が起こるか分からん。とにかく森には入るな」
まあ冷静に考えると真っ暗な夜に森に踏み込むなんて怖くてできないわ。
俺は頷いた。
「最後に、怪しげなものを見たら大声で知らせろ。間違いでも良い。野生動物にしろ野盗にしろ危険に変わりははねえ。後方から無言で殺されていくと対処のしようがねえ」
「声を出したせいで逆に見つかったりはしないんですか?」
「声が届く範疇に敵がいたらどうせ見つかるのは時間の問題だ」
「なるほど」
俺は気になっていたことを聞いてみる。
「ついでに質問なんですが真っ暗で馬は道が見えるんですか?」
「大丈夫だ。馬は夜目が効く」
答えながらも総髪は「コイツ大丈夫か?」という表情を王子に向けた。
「大丈夫だ。此奴はちと常識に欠けるが腕は確かだ。オミは明かりの魔術は使えたか?」
「はい。いけますよ」
「それは助かる。誰かが危険を知らせたら魔術で照らしてくれ。黒狼は明かりを嫌うと言われている」
「言われている?」
「本当かどうかは誰も知らねえんだよ」
熊には死んだフリみたいな感じか。
じゃあ余計に襲われるかもな。
日が傾いてきた夕刻に俺たちは出発した。
先頭は総髪たち。次いでキャラバン。
最後尾は俺たち四人
そういう配置になった。
騎乗のロレンツォが先導することを提案したが、グループはいつものメンバーが揃ってこそ力を発揮するということで却下された。
確かに、いつメンって大事だよな。
いつも大抵、月、水、金の昼前にアップしているのですが
先日の水曜は投稿したつもりが出来ていませんでした
楽しみにされている方がいらしたら申し訳ありませんでした!




