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「うおー! やるなアンタ! 一回で決めるとは思わなかったぜ!」
「一刀で竜の頭を落とすとは凄え技モンだな!」
「てかお前、よく仕留めれたな。怖くなかったのか?」
翼竜の首からはまだ血が流れ出している。
王子は剣に付いた血を拭いながら俺に頷き掛けた。
「あ奴の放ったライトニングがしっかり頭を捉えていたのを見ていたからな」
「お前らまだガキなのに凄えな。あ、もしかしてアカデミーの受験に向かうのか?」
「お前らなら確実に合格できるぜ」
「どこぞの貴族ってことは分かるが、ひょっとしてガチの王族か?」
総髪が王族と口にした冒険者の頭を叩いた。
「言える訳ねえだろ。そんなの知られたら野盗が鈴なりになってくっついてくるだろが」
「あ、すいやせん、、、」
さっきも何処の誰かは問わないみたいに言ってたけどアレか、身代金目当ての誘拐の標的にされるってことか。
「あ、いけねえ。羽が血で汚れる」
「掘れ掘れ、血をこっちに流すんだ」
剣で地面を掘ろうとしたので魔術で手伝ってやる。
竜はよく見ると尻尾の飾り羽が長く翼の関節部分には鉤爪の付いた指が生えている。
鳥と竜のあいのこみたいな感じだ。
嘴を開いて口の中を覗いてみると歯がびっしりと並んでいる。
舌は超ザラザラで棘が敷き詰められているように見える。
キモい。
王子はというと剣に水袋の水を掛け流して丁寧に拭き取り、血が残っていないか丹念に刀身を確認していた。
裏表をひっくり返し光をよく当てて目を近づける。
そこまでやって納得がいったのか剣を鞘に戻し、俺に目を向ける。
「オミ、よくやった」
「王子もお見事でした」
剣を掲げた瞬間はカメラでおさえておきたかったな。
インスタに上げれば万バズ間違いなしだ。
王子は総髪に声を掛ける。
「さっき羽毛に高値が付くと言っていたが、他の素材はどうなのだ?」
「他には爪だな」
「解体はできるのか?」
「できる」
「ふむ」
王子は顎に手をやり少し考える。
「それらの素材は我々でディーヌベルクに売りに行くというのはどうだ? どうせ討伐報酬などあまり出んのだろう?」
総髪はギョッとした顔で王子を見ると笑い出した。
「若いのにアンタも悪いこと考えるねえ。そういう事ならアンタらをディーヌベルクまで護衛してもいいぜ」
「じゃあ、それで頼む。我らは仲間を連れに戻るからそれまでに解体を終わらせくれ」
「よしきた!」
俺と王子は踵を返し、少し離れてしまった馬車へと引き返す。
「何でリンゼンデンの冒険者ギルドに提出させずにディーヌベルクへ連れて行くんです? どのみち魔石は貰えるんですよね?」
「あの冒険者たちはこの街道の警備としてギルドに雇われていると言っていただろう? そうした者への褒賞は安く、素材は全てギルドの物になる。それでは彼奴らが報われん」
アレか、会社員が何か凄い発明とかしても権利やら何やらを全部会社に取られてしまうってのと同じか。
「幸い辺りに軍関係者は一人も居ないし、足止めを食らったキャラバンの連中も全員がディーヌベルクへ向かうのだから黙っておればバレることはないだろう」
「本当は報告義務とかあるんですよね?」
「まあな。なに、東の討伐部隊が只働きの徒労に終わるだけだ。現場からの報告を軽視した罰だな」
なるほど。
「それに、キャラバンの連中がちょっとガラが悪かったから、ちょっとな」
そうか。
総髪達が護衛してくれるなら安心だな。
彼らは俺たちの実力を見たから変な気は起こさないだろう。
元から割と良い人っぽいしな。
御者は遠くから一部始終を見ていたらしく飛び跳ねて俺たちを歓迎してくれた。
馬車のUターンも終わらせていた。
逃げようとしていただけかも知れないけど。
王子は御者に銀貨を握らせると耳元で何かを囁いた。
御者は真っ青な顔をして激しく頷いていた。
見た事を誰かに漏らしたら殺すと口止めをされたのだろう。
竜を怖がった後は王子に脅されて、なんだか可哀想だな。
森の入り口に戻るとキャラバンの連中にあまり詳しくは伝えず、馬に乗って出発した。
ロレンツォ達には移動しながら経緯を説明した。
「そうですか、冒険者が護衛に就いてくれたのはありがたいですね」
「そうなんですか?」
「ディーヌベルクの街はダンジョンに隣接しているので冒険者が多いのですが、冒険者が護衛に居てくれれば彼らから標的にされる可能性は減りますから」
「と言いますと?」
「冒険者というのは割と横の繋がりを大事にするんですよ。冒険者同士は競合相手ではあるのですが、同業者の邪魔をするような真似は最低な行為として嫌われます」
ヤクザみたいだな。
まあ、ヤクザみたいなもんか。
こないだの野盗も本業は冒険者らしいし。
普通の村人も冒険者も、野盗と紙一重というか兼業みたいなところがあるもんな。
マジ世知辛いな。
総髪たちの所まで戻ると、翼竜を殺した痕跡は消されていた。
遺体はなくなり、血の跡も土を被せたのか殆ど見えなくなっていた。
素材も全て森の中に隠してあるのだろう。
「翼竜を殺したんじゃないのか?」
キャラバンの面々が不安げな声を上げた。
総髪が答える。
「確実に死ぬであろう深傷を負わせた。辛くも逃げられたが、後は討伐隊がやってくれるだろう。とはいえ道中不安だろうから我々がディーヌベルクまで護衛してやる」
そういうことなら、とキャラバンは馬車を進めた。
冒険者の二人が先頭に立ち、二人が殿についた。
リーダーの総髪が近づいてきて馬上の王子に魔石を渡した。
「良い色が出てる。ちゃんと洗えばもっと透明になるだろう。これは儲けもんだぜ」
「そういう事なら羽はお主らに全て譲ろう」
「いいのか?」
「我らはさほど金を必要としていない。お主らのような、まともな冒険者が増えてくれれば民の為になる。できればそうした活動に使ってもらえると助かる」
「お前、、、」
「爪は片足ぶん寄越せよ? 記念にしたいんだ」
総髪は頷くと下がって最後尾についた。
冒険者も徒歩だし、キャラバンの護衛も歩き。
ディーヌベルクまではゆっくりな旅になりそうだ。
いつもありがとうございます!




