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 森の手前でまた渋滞が起きていた。

 今度は何事だろうか。


 再びロレンツォが話を聞きに行く。

 馬車が六台ほど停められている。

 その先には男達が集まって何やら話し合っているのが窺える。


 振り返れば荷車を手で引く商人がやはりこちらに向かって歩いて来ていた。


 行商人らしき男が声をかけてきた。


「ひょっとしてこちらも通行禁止ですかい?」

「我らもよく分からんのだ。今、話を聞きに行っておる」

「参っちまうな。生ものを仕入れちまったってのに、、、!」


 男の荷車を見ると籠に入ったジャガイモが多く乗せられている。

 ジャガイモなら日持ちはするだろうが、早く捌かねばそれだけ稼ぎが入るのが先延ばしになってしまう。

 行商人にとっては死活問題だろう。

 気の毒に。


 目を北に戻せば、ロレンツォが男たちを引き連れてこちらに戻ってくるのが見えた。

 男たちは皮の防具を身に着け、総髪を後ろで結んでいて物々しい雰囲気だ。


 王子が馬から降りたので俺も降りる。

 戻って来たロレンツォが王子に言う。


「主人、こちらの者が相談があると」


 総髪防具が王子に軽く頭を下げた。


「俺たちはこの街道の警備を任されている冒険者だ。アンタが誰かは問わねえ。しかしアンタの護衛のこの男は腕が立ちそうだから手を貸してもらいてえ。なんならアンタも、そっちの二人も」

「何があった?」

「翼竜が出た。東の方もそれだ。ずっと前から翼竜の産卵の兆候があったから城の方には進言してたんだがな」

「信用されなかったのか?」


 男は鼻を鳴らした。


「確証が得られてからまた申せ、の繰り返しだよ」

「ふむ、しかし軍がもう出たのだろう?」

「へっ、アイツらどうせ事故現場の近辺をウロウロするだけさ。翼竜は数分で何キロも移動するんだ。餌場だけでも森全体が丸ッと入らあ」

「なるほど、どうするのだ?」


 男は森の奥を指さした。


「この街道の奥で何度か翼竜に威嚇されたことがある。こっちに巣がある筈だ。巣に近づけば向こうから向かってくる筈だ」

「巣を潰さなくていいのか?」

「母竜だけやれば、子はそのうち飢えて死ぬ」


 ええ、、、?

 残酷なうえに、その、、、翼竜と戦うの?


「アンタの護衛。どうせ魔術も使えるんだろ? 翼竜が襲ってくるのに合わせて風魔術をぶち当てればアイツらは落ちる。後は俺らがやる。アンタの護衛に怪我はさせねえよ」

「取り分は?」

「アンタらが街に戻って待つ時間があるなら討伐の褒賞を分割するが、先を急ぐってんなら出た魔石をやるよ」


 王子はロレンツォと何やら小声で話すと男に聞いた。


「お前らは何故そこまでやる? 警備の給与はもらっておるのだろう?」


 男は馬車の方に顎をしゃくった。


「コイツらを見ろ。積荷は農作物ばかりだ。商売が一週間滞っただけでもうオマンマの食い上げだよ。城の連中はそんなこと気にも掛けねえ」

「ふむ、よしやろう。キャラバンの護衛も参加するのか?」

「あの腰抜けどもは割に合わねえってよ」


 王子は俺たちに向き直った。


「ロレンツォとアウグストは馬と荷物の護衛を頼む。我とオミで行く」

「なりません!」

「そこらの連中が馬と荷物を狙って襲って来た時、オミにそいつらを斬れると思うか?」

「それは、、、!」


 確かに馬車の周りに立つ護衛の連中の目付きはあまり気持ちの良いものではない。

 隙さえあれば盗みを働く連中か。

 馬は高級品だもんな。


 確かに俺としても人を斬るよりかは竜を殺す方が気が楽ではある。


「頼んだぞ」

「分かりました。どうぞお気をつけて」


 王子は総髪に向き直った。


「おいおい、アンタが出なくたっていいんだぜ? そもそも風魔術は使えんのかよ」

「、、テンペスト!」


 王子は近くの柵の中にいた豚に向かって風魔術を放った。

 豚はまともに風を食らって吹っ飛んで横倒しになった。

 可哀想にキーキー鳴きながら慌てて奥へ走って逃げていった。


 豚って言ったって豚カフェの可愛いミニブタじゃないぞ?

 三百キロは軽くありそうな巨大な成豚だ。


 ポリオリでは落ち葉はらいの為に風魔術を競い合う文化があるのだ。

 王子を舐めてはいけない。


「ほう。じゃお前は?」


 俺にも振られたのでさっき豚がいた所にフレイムピラーを立ててやった。

 普通サイズより少し小さめのヤツである。


「充分だな。でも翼竜にフレイムピラーは当てるなよ。羽毛が高く売れるんだ」


 俺は頷いた。


「じゃあ行こうぜ」


 先頭に行くと一台の馬車から荷物が降ろされて荷台が空けてあった。

 総髪の仲間四人と俺たちが乗り込むと御者が馬車をスタートさせた。

 御者は可哀想にたまたま先頭に居合わせた商人らしく顔を青くして身体全体を強張らせている。


 総髪が翼竜狩りの説明を始めた。


「翼竜は餌取りをする時は音もなく後ろから一気に掴み掛かってくるから対処のしようがねえが、威嚇の時は真正面から威嚇音を鳴らしながらゆっくり降りてくるからどうと言うことはねえ。仮に外しても何度でも懲りずに威嚇してくるからやり直しがきく。ビビらずにタイミングを測れ」

「必ず威嚇してくるという、その根拠はあるのか?」


 男は笑った。


「翼竜は一度食事をすると次の食事は大体一週間後だ。腹一杯の時は威嚇だけだよ」


 うへえ、、、

 東の街道で魔物が出たってのは見かけたとかちょっと噛まれたとかじゃなくて翼竜のご飯になっちゃったってことだったのか。

 南無阿弥陀、南無阿弥陀、、、、




 そのまま暫く道を進むと上空からマシンガンを撃つような音が聞こえてきた。


「来たぞ、降りろ!」


 俺たちが荷台を降りたのに合わせて御者は荷台に転がり込み頭を抱えて丸くなった。


 馬車を降りて更に先を進む。

 男たちは俺たちを取り囲む配置になった。

 一応ちゃんと俺たちを守る気はあるようだ。


 仮にコイツらに襲われても一瞬で気を失うか殺されない限り精霊に頼めばなんとかしてくれるだろう。


 見上げると大きな鳥が上空を円を描いて飛んでいるのが見えた。

 そう、竜というよりは鳥だった。

 もちろん俺は竜なんて見たことはないが翼に羽毛が生えてるのは見えているのだ。


 ゆっくりぐるりと旋回したそれが俺たちの前方から嘴を打ち鳴らしながら降下してくる。


 王子が俺の肩に手を置いた。


「我がやる。落ちたらオミはライトニングを竜の頭に落としてくれ」


 それは更に高度を下げながら真っ直ぐにこちらに向かってくる。

 顔がはっきり見えてきた。

 確かにこれは竜と呼びたくなる。

 くちばしまで羽毛に覆われており、その羽毛は紅と碧がマダラになった極彩色なのだ。

 吊り上がったその目はまさしく竜の名に相応しい凛々しさだ。


 デカい。

 翼を広げたその幅は軽く六メートルほどもあるだろうか。

 威嚇音も近づいてくると恐ろしいほどに大きい。

 耳を塞いでしゃがみ込んでしまいたくなる。


 前衛が腰の剣を抜く。


「まだだ! 引き付けろ!」


 王子も剣を抜く。

 俺も堪えられなくて剣を抜いた。

 身を守る何かを手にしてないと腰が抜けてしまいそうだった。


 俺の後ろから弓を引き絞る音が聞こえた。

 竜が迫る。

 王子が詠唱を始める。


「今だ!!」

「、、、テンペスト!!」


 弓が放たれた音と同時に竜が矢を避ける為に身体を捻る。

 そこにテンペストの暴風が襲い乱気流で翼をもつれさせた竜が錐揉みする。


 脚が見えた。

 巨大な鉤爪が黒光りする。


 あんな爪で掴まれたら人間の皮膚など簡単に貫かれてしまうだろう。


 その巨大な両翼が浮力を失って地面に堕ちた。

 しかし目はこちらを見ている。


 男たちが走り出した。

 後衛も剣を抜いて走り出している。


 駄目だ。

 男たちの剣が竜に届く前に起き上がってしまう。


「オミ!!」

「ライトニング!!」


 翼を地面に付けたままではあるが両の脚をしっかりと踏み締め、頭をもたげようとしたそこに閃光が落ちる。


 切り裂くような破裂音。

 周囲は一瞬真っ白に塗りつぶされた。


 見ると王子は冷静な目を竜に向けていたが、手のひらで両耳は塞がれていた。

 ズルい。

 俺もそうすれば良かった。


 耳が麻痺した全くの無音の中、竜はゆっくりと後ろに倒れた。


 男たちも腰を抜かして尻餅を付いていた。

 いや、分かる。

 落とした俺も腰が抜けそうだったもん。


 王子が剣を構えたまま竜に近づいた。

 頭の後ろまで回り込んで、剣先で軽く突く。


 動かないことを確認すると王子は大きく振りかぶり、一気に竜の首を切断した。


 完全な落命はしていなかったのか竜は大きく身体を震わせた。


 王子は切り落とした竜の頭を掴んで持ち上げようとしたが、持ち上がらずしかし竜の顔をこちらに向け、剣を天に掲げた。


 聴力が戻ってくると男たちの歓声が聞こえてきた。


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― 新着の感想 ―
王子はさすが学習してるwそして美味しいところゲットだぜ きちんとした冒険者はさすがだなぁ質が高い脅威度高い相手ができる奴はそれなりにまだ食っていけるんだろうな
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