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 翌朝、目を覚ますと王子が先に起きて筋トレをしていた。

 船でよくやらされたガニ股で腰を落として腕を上げ、上体を前後左右に傾けるやつ。

 あの体操はこの世界ではメジャーだったんだな。


「おはようございます。王子、ズルいじゃないですか」

「ズルいとは何だ。鍛錬は必要だろう」

「僕もやります」

「うむ」


 馬を休憩させる時や晩飯前に軽く打ち合うことはあるけれどもポリオリ滞在中にずっと続けていた剣術の稽古をしていないから身体が鈍っている感じはしていたのだ。


 練習用の剣も無ければ防具も無いので仕方ないが腕が落ちるのは避けたい。


 俺たちはガニ股筋トレをみっちり行い、その後は剣を鞘に収めたまま基本の足運びを繰り返し行なった。

 軽く汗ばむ。

 もう夏がそこまで来ているのだ。


 ひとしきり基礎稽古をして、ふたりで上裸になって汗を拭いているとドアがノックされた。

 ドアを開ければロレンツォ。

 俺たちが裸で驚いたようだった。


「あ、剣術の稽古ですか。感心です」

「うむ、ロレンツォ。昨夜は按摩は呼んだのか?」


 おお、初手で直球か。

 男らしい。


「ええ。おかげさまで腕の良いのが来まして。毎日移動ばかりで背中が張っていたのですが、すっかり良くなりました」


 あれ?

 なんか思ってたのと違う答えが、、、。


「ほう、良かったな。ええと、、、それは男か?」

「ええ、もちろん。近衛兵にも呼ばれるほどの腕前で、ちょくちょくお城にも出入りしてるそうですよ」

「それはそれは」

「いやあ、凄いですよ。背中を触っただけで得意の型まで言い当てられまして、、、」


 ロレンツォはご機嫌で珍しく饒舌になっている。

 俺たちは苦笑である。


「、、、どうかされましたか?」

「いや何。我らはお主が部屋に娼婦を呼ぶかどうか賭けていたのだ」

「それはご期待に添えず申し訳ありませんでした」

「いや、いいのだ」

「背中と腰をほぐされて、寝る前には柔軟をしておけとの事だったので柔軟をしたら身体が温まってもう眠気に耐えられずベッドに倒れ込みました」

「それは何よりだ」


 ロレンツォは止まらない。


「いや、本当に凄いんですよ、ただ押して揉みほぐすだけではなくて、こう腰の痛みというのは尻の筋肉の硬直から来るそうで、、、」


 暫くロレンツォが経験した施術について聞かされているとアウグストもやってきた。


「おはようございます!」

「おはよう。お主は昨日は楽しめたのか?」

「はい! 宿の主人に訊いたらお勧めの娼館を教えてもらいまして。いやあ、都会の女はひと味違いますね。部屋に通された時の匂いがもう素晴らしいんですよ、、、」


 こちらも大満足だったらしく熱く語ってくれた。

 たいそうご満悦だったらしく、確かに香水の匂いが少しする。


「アウグスト。お前、朝食の前に水浴びをしてきたらどうだ? 香水が匂うぞ?」

「ええ? これを落としてしまうんですか、、、?」

「いや、まあお前が良いなら別に良いのだが、、、」


 今度はロレンツォが苦笑だ。

 まあ、良いから朝飯にしようぜ。

 なんか皆んな満足そうだからそれで良いよな。


 朝食は珍しく、香ばしく焼かれた丸い白パンに芋のポタージュだった。

 近所のパン屋が持ってきてくれるのかも知れない。


 旨いのでまたみんな黙って食う。

 食後には紅茶とちょっとした甘いクッキーのようなものが付いてきた。

 確かに都会はひと味違うな。



「では、その賭けはどちらの勝ちになるんです?」


 紅茶を飲みながらアウグストがそう尋ねてきた。

 確かに。

 でもこうした場合は両者負けの引き分けなのではないだろうか」


「確かに按摩は呼んだがそれは娼婦ではなかった、となれば両者外れの痛み分けですな」


 ロレンツォが判決を下した。


「よし。ではオミ魔石を寄越せ」

「え、両者負けなら賭け金のやりとりは無しじゃないんですか?」

「なんだそれは、それでは賭けにならんだろ。お主にはあの馬をやる。名前をつけてやれ」


 この世界ではそういうものなの?

 賭けたのがお金じゃなくて物品だからその時点で勝負が始まってたってこと?


「なんかすみません。僕が得しちゃったみたいで」

「よい。そういう勝負だ」


 魔石を出すとロレンツォが見たがったので渡してやる。


「大きいですね。色も良い。こんなのはポリオリでもそう出ないですよ。王子、これは無闇に使ってしまわず宝飾店に持って行った方がいいですな」


 あ、そうか。

 魔力を取り出してポーション的に使うのが普通なんだっけ。


「無論だ。よい色が出ているからな。幾らになると思う?」

「そうですな、、、金三枚は固いのでは?」

「金貨三枚?」


 王子の見立てでは銀貨二枚という話だったのに!


「ええ。腕の良い細工師にブローチに仕立ててもらえばそれくらいになるでしょう」


 ああ、そこまでやっての話ね。


「王都のご婦人が主人に贈るのに最適でしょう」

「え、男性が女性に贈るのではないのですか?」

「戦地での無事を祈ってマントを留めるブローチを送るのが騎士の妻の習わしですから」


 へえー、そういうのもあるのか。

 確かになんかそういうのありそう。

 安っぽいブローチとか贈るとカーストが落ちるとかやってそう。

 人族は見栄っ張りだからな。


「ひとまず、街を出る前に皮袋を買った方が良さそうですな。傷が付きます」

「そうするか」


 え、俺なんか他の石と一緒にポッケに放り込んでたけど。


「どうしたオミ、惜しくなったか?」


 王子がニヤリと笑う。

 金貨三枚とか聞くとねー。


 いや、どうせ宝飾店で細工を頼むのに金貨二枚とか掛かるんだろう。

 騙されないぞ。


「いやあ、茶ブチだって引退後に種馬として価値が出るかも知れませんよ? 軍馬になるくらいだから馬種や血統は良いんですよね?」


 王子もロレンツォも顔を曇らせた。

 あれ、駄馬だった?


「オミ、あいつは騸馬だぞ?」


 あ、そうだった。

 茶ブチはオカマちゃんなんだった。

 やっぱ俺、王子に騙された?



 優雅な朝食を終え、荷物を持って馬房に行くと茶ブチはご立派なイチモツを膨らませ小便をしていた。


 そうなのだ。

 馬は去勢されてもオシッコをする時にアソコを大きくするのだ。

 それを毎日見ていたから騸馬であることを忘れていたのだ。


 茶ブチに近づくと俺を見て鼻を鳴らすと前脚で掻いて敷き藁を俺にかけた。


 うん、確かに嫌われるのがよく分かる。

 こんなヤツに命を懸けたくないよな。


いつもありがとうございます!

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