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その夜はリロ氏に教わった小枝を地面に並べる簡易ベッドを皆に教え、時間をかけて平らな寝床を作った。
ロレンツォは木の幹に着生している平たいキノコをナイフで切り取って焚き火にくべた。
もの凄い煙が出た。
これで蚊のような羽虫を寄せ付けずに済むのだそうだ。
猿の腰掛けにそんな使い道があるとは。
てか、猿の腰掛けで合ってる?
形状が同じだからきっと同じだろう。
さらにロレンツォは火のついた猿の腰掛けを手に持ってキャンプ地の周囲をグルグルと練り歩いていた。
飯は同じく干し肉とナッツと堅パン。
しかし今日は食後に面倒臭がらずにお茶を淹れた。
ティーバッグなんてものはないからブリキのマグカップで沸かしたお湯に茶葉をぶっ込むだけの雑なお茶である。
これもまたリロに教わったようにフレイムピラーで沸かす。
木に燃え移るのが嫌だったので小さく立てたら皆が驚いていた。
「小さくもできるのか!」
「大きくできるなら小さくもできるでしょう」
「どうやって?」
「注ぎ込む魔力の量を少なくするんですよ」
その後は寝るまでみんなで小さなフレイムピラーの練習をした。
ロレンツォもアウグストも騎兵だが基本的な魔術は使えるのだ。
めっちゃ優秀。
「ああ“気高き炎〜”の所でウウッとやる癖が付いてるんですけどそこでフッと抜くと低くなりますね」
「“地より吹き上げる〜”の所で抜くと細くなるな」
「ほうほう」
アウグストと王子は割と直ぐに習得した。
ロレンツォには難しいようだ。
最大出力を上げる努力しかしてこなかったのだから仕方ないのかも知れない。
俺は火事に備えてウォーターボールを構えたままで待機である。
細くて高いのやら太くて低いのやら新技が産まれて面白い。
俺もやってみたい。
最近は何でも精霊に任せっきりだからフレイムピラーの詠唱も忘れそうになっていた。
アカデミーではしっかり詠唱させられるのだろうからちゃんと復習しておかねば。
他にも色々魔術でやってみたいことがあったのを思い出した。
ひとつは小鳥を魔術で捕まえることだ。
細く魔力を伸ばして目標を包み、一気に凍らせる。
そんなイメージだった筈だ。
鳥は今は見当たらないので茶ブチに魔力を伸ばす。
尻尾の先に氷の球を付けられないかやってみる。
じわじわと魔力を送り、卓球の球くらいになったら球部分だけを一瞬でも凍らせる!
あ、凍る前に茶ブチが尻尾を振り、魔力を霧散させてしまった。
再度チャレンジ。
送った魔力が尻尾に届くとまた激しく振って霧散されてしまった。
偶然だろうか?
もう一度試みると。
やはり尻尾を振ってしまう。
そしてこちらを睨んで前脚で地面を叩いた。
明らかに怒ってる。
分かるんだな。
今度は王子を狙う。
魔力を送って王子の耳たぶに小さな氷球を付けられないか試してみる。
王子が振り向いて耳たぶを指でつまんだ。
やっぱり分かるんだ。
「何かしたか?」
「いえ、どうしました?」
「何か気配が、、、ちょっとな」
「虫か何かですかね」
「そうか」
それを聞いたロレンツォがまたキノコの煙を撒いてくれた。
悪戯するのは辞めよう。
自分で出した魔力を自分の指先で触れてみたが特に何も感じない。
他人の魔力なら分かるのだろうか。
俺は長官のように魔力は見えないから魔力が本当に出ているのかどうかも実はよく分かってない。
なんとなく温かな何かが出ている気がするだけだ。
長官と一緒の時にもっと色々教わっておけばよかった。
あの時はこのまま船の旅がずっと続くと思ってたからなあ。
後悔先に立たずだな。
不意にアウグストが眉間を押さえて俯いた。
「うう、、、ちょっと練習し過ぎました」
「魔力切れか?」
「ええ。少し目眩が」
魔力切れは辛いもんな。
「魔力切れの特効薬があるんですが、使います?」
「いえ、今日はこのまま寝るだけですから、、、というかそんな物が?」
「ええ、海藻を干したものですが」
俺はポーチから油紙に包まれた昆布を出して見せた。
「ほう、こんな物が。海の魚が魔力回復に良いという話はよく聞くが海の草とは」
「オミ殿、これは大発見なのでは?」
「ええ、船医のパラディーノって人が王都に持ち込んで陞爵を狙うって言ってましたから、今頃は軍で使い始めてるかも知れません」
昆布は皆が代わり番子で見てそのまま帰ってきた。
「あ、使いません?」
「それはアカデミーで重宝するでしょうから取っておいた方がよろしいでしょう」
なるほどそうか。
ファイヤーボール千本ノックとかやらされそうだもんな。
俺たちはそのまま寝る事にした。
寝床に潜りこむ。
しかし思うのだが、狼が居るのに遠吠えとか聞こえないんだよな。
俺が遠吠えしたら返事してくれるかしら。
ちょっと実験してみたい気もするが、それが原因で寄ってこられても怖いのでやれる筈もなかった。
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皆さんの生活にささやかでも幸福が訪れますようにお祈り申し上げます!




