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 暗い森を貫く石畳を今日も進む。

 この辺りの木は常緑樹なのだろうか?

 それともやはり誰かが落ち葉はらいをしてくれているのだろうか?


 昨日、星にしてしまった冒険者あたりがそうした依頼をこなしていたのかもしれないな。

 魔物の討伐とセットとかで。


 今までと違い、石畳といっても木の根が下に入り込んで石を持ち上げていたりして余り平坦ではない。

 遺跡感が凄い。

 馬車だと結構キツイのではないだろうか。


 ちなみに今日の前衛はアウグストである。

 というのも、この森に出るという狼というのは知能が高く集団で狩りを行うので後方のケアがより重要なのだそうだ。


 例えば進行方向の見えやすい所で囮の狼が耳先だけわざと見せて、そちらに気を取られている隙に後ろから襲われたりするらしい。


 昔読んだ漫画でも訓練された軍用犬に人間は絶対に勝てないと書いてあった。

 武器を持っていてもだ。


 狼と犬は種の根っこは同じ筈だからそういうことなのだろう。

 マジ怖え。


 ちなみにロレンツォが腰に下げている剣が細身なのは馬上で狼に対処する為なのだそうだ。

 割とガタイの良いロレンツォにはがっしりしたロングソードの方が似合うと思うのだが、そういう使い分けがあるのが玄人っぽくてむしろカッコいい。


 対してアウグストは細身な本人とは対照的にゴツいロングソードをぶら下げている。

 若いし細いからこそデカい武器を持ちたいのかも知れないな。

 分かるぞ、その気持ち。


 しかし、王子からもらったダガーを昨日初めて使ったが切れ味が凄かったな。

 短いのにスパンと行ったら骨ごとスパンと切れたもんな。

 

 こんな事を言うと人権保護団体からバッシングを受けそうだが、人を殺した罪悪感というのは正直あまりない。

 襲って来たから身を守ったという感覚が勝っている。


 殺らねば殺られていたのだ。

 もしくは身ぐるみ剥がれ、馬も盗られていたのだ。

 命の保証はなかった。


 人の命を奪らない連中だと分かったのは全てが終わった後だ。


 この世界では命が軽いのだ。


 ロレンツォは分からないが、王子もアウグストも多分人を殺すのは初めての筈だ。

 なのにふたりとも気にしていたのは、早く剣の手入れをしたい、その事だった。


 ロレンツォに言われなければふたりとも死体を片付ける前に剣の手入れをしていたのではないだろうか。

 片付けをしながらそわそわしていたので訊くと、早く手入れをしないと剣が錆びてしまうとのことだった。


 もちろん鞘に戻す前に布で血は拭き取ったのだが、水で濡らした布でしっかりと拭いてから灰を付けた乾いた布で擦ってしっかり脂肪と水分を落とさないと切れ味が悪くなり最悪錆びるのだそうだ。


 青銅の剣は塩と酢で錆を落とせるらしいが、鉄の剣は錆びたら研ぎに出さないといけないらしく持ち主は過敏になるようだ。


 持ち物を大事にすることは大切だが、奪われた人の命の尊厳よりも優先度が高いかと問われれば、、、


 いや、やめよう。

 この世界では死んだ人間の尊厳なんてないのだ。

 死体を片付けたのも溜池を汚さない為だ。


 溜池がなければそのまま放置したに違いない。

 王都に向かう途中でなければ装備を剥いで持ち去り、売り捌いたに違いない。


 そういう世界なのだ。


 うーん、折角気にしてなかったのに考えたらなんだか落ち込んで来ちゃったな。

 だって人を殺したんだもの。

 ショックっちゃショックよ。


 俺は前世で、人を襲った熊が射殺されても当然だと思っていたし、熊が可哀想とかいうナイーブなババアはくたばれと思っていたクチだ。

 分かってはいたが、しかし実際に自分が手を下して人を殺めればそれなりにダメージを食らうのだ。


 慣れるしかないのだろうが、慣れてしまうのもどうかと思う。

 自分がされて嫌な事は、ひとにしていけませんと教わって生きてきたのだ。

 直ぐには変われんのだ。


 そんなことをクヨクヨ考えていたらいつの間に王子が隣に並んでいた。


「オミは人を殺すのは初めてか?」

「ええ、ちょうどその事を考えてました」

「考えてみて、どうだ?」

「そうですね、仕方ない事だったとはいえ、あまり気分は良くありません」

「だろうな」


 ひと呼吸おいて王子が続けた。


「我も初めてだった」

「そうですか」

「やはり鹿とは違うな」

「鹿は美味しいですからね」


 王子は笑った。

 そしてそのまま黙る。

 王子もそれなりにダメージを受けているのだな。


「王子は正しいことをしたのです。悪い事をする奴は悪い事に慣れていきます。あのままアイツらを放置したらそのうちポリオリの商人や北方から来るキャラバンが襲われていたでしょう」

「そうだな」

「バルベリーニの王家の方々だって、良くやってくれたと褒めてくれる筈です。本来なら彼らの仕事でしょう?」

「そうだな」


 王子はまたフッと笑った


「参ったな。我がオミを慰めてやろうと思ったのに逆に励まされてしまった」

「いえ、とても励まされました。ありがとうございます。おかげで覚悟が決まりました。王子や皆さんを守る為なら敵だろうが何だろうがビシバシ殺ってやりますからね!」

「物騒だな」


 聞こえていたようでアウグストが背中で笑っていた。

 振り向くとロレンツォも笑っていた。


 なんだよ大人たちで若者を香ばしいものでも見るような目付きで笑いやがって。


 俺はどっちかって言うとそっち側だぞ。


いつもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
同族と思わなければ獣の狩りと変わらず処理してるみたいなんだが王子たちは人もいいから人間にしか思えんしそりゃ現代価値観よりはましとはいえくるよね いつの時代も悪人に尊厳はないんだ。自分から捨ててるゆえに
鉄が貴重だからなぁ。しょうがないよね。 積極的に殺らなければいいと思うのよ。
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