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狼の襲撃に備えて緊張していたのでその夜は一睡もできなかった。
というのは嘘で、俺は朝までぐっすりだった。
この森の植生は今までのそれと違うのは見て分かっていたが、虫の鳴き声も今まで聴いてきたものとは違ってなんだか面白かった。
ジーと長く鳴いていたのはオケラだろうか?
ジキジキ鳴いていたのはキリギリスだっけ?
小学生の頃には色々な虫の声を聞き分けて特定できたのだが、やはり日本の虫とこの世界の虫では何かが違うのだろうな。
そんな事を考えながら、たまに聞こえる馬のため息の音なんかを聴いていたら馬が随分とリラックスしてる様子が伝わってきて一気に微睡の奥へ転げ落ちてしまった。
そして気づけば朝である。
二重にした毛布でも防ぎ切れなかった湿気で背中に服が張り付いている。
寝る前に地面は魔術で乾かしたんだけどな。
苔むす森を甘く見ていた。
リロ氏に教わった枝を並べる簡易ベッドをやるべきだったかもしれん。
俺は起き上がると服を引っ張って背中から剥がした。
そして毛布を木の枝に掛けて干す。
それを見た茶ブチが俺の所にやってきて何やら不満気に鼻を鳴らして首を振った。
昨夜はいざという時の為に鞍も乗せっぱなしでハミも噛ませっぱなしだったので嫌なのだろう。
昨日は茶ブチがめっちゃ活躍してくれたからな。
俺は腹紐を解いてやり鞍を下ろしてハミも外してやった。
茶ブチは満足気に頭を振ってからバリバリと下草を食み出した。
すごく硬そうな熊笹みたいな葉っぱだけど美味いのだろうか?
「茶ブチよ、昨日はありがとうな」
首筋を軽く叩いてそう声を掛けると茶ブチはそのまま食べながら横目で俺を見ると、顔を上げる事なく鼻息で返事をした。
多分、アンタのためにやったんじゃないわ、とか言ってるんだろう。
戦うオカマは高貴なのだ。
気づけばロレンツォも起きて尻からズボンを剥がしている。
やっぱ湿るよね。
「おはようございます」
「オミ殿、おはようございます。オミ殿は流石ですな」
「え、何が?」
「昨夜、誰よりも早くイビキをかき始められて、それで我らも何だか安心できまして寝ることができました」
「いや、お恥ずかしい。ところで馬の鞍と手綱を外してしまったんですが良かったですか?」
ロレンツォは茶ブチを見て、他の馬の様子を見てから伸びをした。
「本来なら柵のない所で手綱を外してしまうことは余りしないのですが、ソイツは昨日の立役者ですからな」
「他の子はどうしますか?」
「見た感じ嫌がってはいないのでこのままでいいでしょう」
「了解です」
なるほど、馬にも個性があるしな。
馬はハミを噛ませたままでも食事はできる。
茶ブチ以外は慣れてるか気にならないか、我慢強いのだろう。
茶ブチにドンと押され、見ると鼻先で桶を指している。
はいはい、水ね。
桶に水を張ってやると茶ブチは鼻を突っ込んでガブガブと飲み出した。
「その馬はオミ殿に随分と懐いてますな」
うーん、どうだろう?
どっちかって言うと俺の事を舐め切っていて、何なら便利な小間使いか何かだと思ってるように感じる。
その証拠に茶ブチは横目で俺を見ながらあっかんべをすると大量のオシッコをした。
やっぱ馬鹿にしてるじゃん。
その水音でアウグストが目を覚ましたらしく上体を起こした。
大丈夫だよ。
このオシッコはそっちには流れて行かない。
アウグストは目をシバシバさせながら空を見て起き上がった。
「二人とも早いですね」
「どうだ、寝れたか?」
「いや、どうですかね、、、」
寝れなかったのか。
アウグストは育ちが良さそうだもんな。
野営には慣れが必要かもしれない。
「王子もお起こしますか?」
「いや、目をお覚ましになるまでこのままにしましょう。明るくなるまで寝れなかったのかもしれません」
なるほど。
王子も馬車も天幕もなしの野営は初めてっぽいしな。
ロレンツォとアウグストは連れ立って食料袋を取りに行き、俺は他の馬にも水をやることにした。
それぞれが繋がれていた場所の下草を食い尽くしていたので場所を移動してやる。
やはりどの子も熊笹は好きみたいだ。
これなら飼い葉を出してやる必要もなさそうだ。
俺は少し離れて朝ションを決めた。
朝便を決めたい感じもあるが、ロレンツォ達が帰ってからが良いだろう。
茶ブチが王子を踏んづけたりしたら困るからな。
戻ると王子が目を覚ましていて、毛布に座っていた。
「おはようございます」
「うむ、、、」
まだ眠そうだ。
静かになったせいで起きてしまったかしら。
人の気配があった方が寝れたりするもんな。
「ロレンツォとアウグストは?」
「食料袋を取りに行ってます」
「ふむ、、、」
王子は周りを見て、空を見て立ち上がった。
「オミ、あの乾かす魔術を掛けてくれぬか? 背中がびしょびしょだ」
王子の選んだポイントはより一層湿り気が酷かったみたいだ。
精霊に頼んで王子の背中と尻を乾かしてもらう。
干してやろうと王子の毛布を持ち上げると確かに湿気を含んでずっしりと重い。
こちらも精霊パワーで乾かしておく。
「すまんな」
「いえ」
王子は茶ブチに近寄ると首筋を撫でながら何やら語りかけていた。
昨日のお礼を言ってるのだろう。
茶ブチは大人しく王子の言葉に耳を傾けている。
やはり俺とは対応が違う。
これじゃあ、なんだか良い馬みたいだ。
「王子、起きられましたか」
ロレンツォ達が帰ってきた。
「昨夜は寝れましたか?」
「いや、、、地面は湿気ってるし、虫は煩いし、夜中には梟が鳴き始めて気になってな。寝れたのは多分朝方だ」
「それはご苦労さまでした。もう少し眠られますか?」
「いや、もう腹が減った」
ですよね。
俺も腹がペコペコだ。
王子には地面に置いた鞍に座ってもらい、俺たちは昨日用意した薪木を何本か敷いてそこに腰を下ろして飯を食った。
飯が終わると代わり番子にトイレをしてさあ出発だ。
しかしその前に、麻紐を持ってきていたので簡易な背負子を作り薪木を積んで結えた。
馬で移動すると枝を拾いながら移動できないので今夜また昨夜と同じ苦労をしない為だ。
寝床に使ってもいいし焚き木に使ってもいい。
良い具合の枝なんて幾らあっても困らないのだ。
あればあるだけ良い。
しかし背負子を背負って馬に跨がろうとするとアウグストが自分が背負うと言って聞かなかった。
彼にとっては俺もお客様なのだろう。
今まであまりお客扱いされなかったから何だか不思議な感じだ。
「肩紐が食い込んで辛くなったらいつでも代わりますからね?」
「自分は大丈夫ですから、お任せください」
こいつは絶対に育ちが良いな。
アウグストは折角ハンサムなのに、薪を背負うと途端に二宮金次郎像みたいな苦学生感が出てしまって色男が台無しである。
しかも、この流れだと俺が背負わせたみたいだから少々バツが悪い。
もし俺のこの物語がアニメ化されたらアウグスト推しのお姉さんに「主人公がクズ」とかレビューされてしまうのだろう。
うっかりアウグストに薪を背負わせたばっかりに。
いや、待て。
こんな地味なシーンはアニメからカットされるから大丈夫か。
それを言うならこんな地味な異世界系はそもそもアニメ化されないか。
つくづく俺は主人公キャラじゃないもんな。
せめて髪型くらいはキマってないとな。
俺は中途半端に伸びて超絶ダサいであろう髪を指でつまんでため息ついた。
みなさまのおかげでこの度またもやランク入りしました
注目度-すべて-58位
注目度-連載中-27位
です。
注目度というランキングがどういう感じなのかよく分かりませんが、何にせよありがたいので感謝です!




