192
片方は横向きに描いた金槌の図案。
柄の部分の上下に「ポリオリ」「ドワーフ」と文字が書いてある。
シンプルかつちゃんとロゴ感があって良いデザインだ。
時計に入れる場合の細い刻印にしても可愛いかも。
もうひとつは俺の案だ。
ちからこぶ案と別に作ったヤツで。
ポリオリの綴りの一部分を歯車の図案にしたものだ。
これはどっちかって言うとコーポレーションロゴっぽい。
既にポリオリ製品として知名度のある時計の歯車のイメージなので時計にはこっちの方が向いてるかも。
さて、ディスカッションしてもらって決めて貰おうかと思っていると、領主氏が皆に着席を促した。
そして皆に向かって話し始めた。
「かつてはドワーフといえばポリオリだったが今は違う。今後、各地のドワーフの作る品質の高い製品が国中に広まるだろう。この挽肉器も数年後には生産拠点をシュトレニアに移行させることを考えている」
反応はまちまちだ。
驚く者、納得したように頷く者。
領主は続けた。
「ドワーフのものづくりへの信頼は厚い。ドワーフが作った製品である事が品質の保証となる。今後は多くの製品に、何処のドワーフが作ったものか表記される時代が来ると予想する」
領主氏が金槌案を手に取った。
「よって我はこちらを推したい。ドワーフ王はポリオリを見限ったが、それは我々に愛想を尽かしたからではない。青銅の時代から鉄の時代に移ったというだけの事だ。我々の祖先がドワーフに受け入れてもらって救われた歴史的事実は変わらん。ポリオリとドワーフを併記することでその事に謝意を表したい」
なるほど。
ロゴを決めることすら政治なのだな。
国を背負ってるひとはやっぱちょっと視点が違うよな。
俺はデザイン性とか受けが良いかとかそう事しか考えてなかったわ。
参加者全員が拍手をして領主に賛成した。
多数決とかして遺恨を残さないという意味もあったのかもな。
優秀な人ってホント優秀だよな。
領主氏を侮ってた訳じゃないけどやっぱ人の上に立つ人は頭の出来が違うのだな。
ロゴが決まって会議はこれでお終いかと思ったが、領主氏は話を続けた。
「ついでと言っては申し訳ないが、せっかく重鎮が集まっているのでな」
領主氏は振り返って俺に手招きした。
「クラウディオの相談役を務めているこのオミクロンだが、此度の挽肉器の発案は彼から出されたものなのだ。そしてトンマーゾとマッテオの進めている国史編纂も彼から始まっている。先日の落ち葉はらいの魔術も彼の放ったものだ」
皆の視線が俺に集中する。
「この夏からクラウディオと共にアカデミー入りする事が決定している。実はオミクロンは元々リサの拾った海の民なのだが、、、」
ここまで説明が進むと皆からの眼差しに変化があった。
明らかに嫌悪した目になる者、憐れみの目になる者に分かれた。
海に忌避感があるとは聞いていたけど漁村出身てのも忌避される対象になるのか。
「こうした優れた若者を他国の有象無象に良いように搾取させる訳にはいかんと思うのだが諸君らはどう思う?」
憐れみの目を俺に向けていた大臣が口を開いた。
「出自がそれでは、保護を与えるべきですな」
領主が頷く。
「オミクロンには準男爵の肩書きを与えようと思うが意見のある者は居るか?」
嫌悪の目を向けた大臣も渋々という感じで首肯した。
「反対の者はおらぬという事でよろしいな? ではオミクロンそこに直れ」
え、この場で?
俺は領主に向き直って片膝を付いて首を垂れた。
領主氏は腰の刀を抜いて俺の肩に刃を置く。
「相談役オミクロン。ポリオリ王、アダルベルト・バルゲリスの名において其方に準男爵の称号を与える」
「は! ありがたき幸せ!」
「うむ。立て」
王子が俺の前に立ってリボンの付いたワッペンのようなものを俺の首に掛けた。
王子はドッキリ大成功!みたいなニマニマ顔をしている。
裏で用意してやがったな。
なんでこの国の人間はサプライズが好きなんだろうか。
きっとプロポーズとかする時はフラッシュモブとか雇うに違いない。
はっきり言わせてもらうが趣味が悪いぞ?
いつもお読みいただきありがとうございます!
応援いただけた方の幸運値が30プラスされますように!




