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さて、塾の方だ。
俺の優秀なふたりの生徒は本格的に魔術に取り掛かっている。
誰が教えているのかって?
俺だよ俺。
バルドムに貸してもらった魔術教本をもとに俺が指導しているのだ。
実演だけはバルドムなのだがね。
そして、この教本がまた興味深いのだ。
ちょっと勘違いしてたのだが、この世界では魔術は軍事利用に主眼が置かれているので戦闘にどう使うのかという部分にフォーカスされている。
例えば、ウォーターボールがウォーターボールである必然性が正にそこにある。
水を生活に使うなら球状にして飛ばす必要はない訳で、飛ばして敵に当ててこそのウォーターボールなのだそうな。
ちょっと、そこの君!
ウォーターボールと侮るなかれ!
水風船を想像してみて欲しい。
アレが顔に直撃したらどうだ?
来るのが分かっていても面食らうし、短い時間であるが視界も奪われる。
教本にはこう書いてある。
「雪山などで使うと効果的」
考えるだに恐ろしい。
絶対やめて欲しい。
雪が降ってなくとも寒い日には勘弁して頂きたい。
もちろん水は生活に欠かせないのでウォーターボールを飛ばさずに手や傷を洗う方法や、球状にしないで使う別の詠唱なども載っている。
面白いのは球状にしないヤツのほうが難易度があがり高等技術という扱いになっていることだ。
ちょっと待て、違う。
俺の不完全なウォーターボールを誇りたい訳じゃないんだ。
こう書いてある。
「これが完璧にコントロールできるようになったら自分の手や足を温める火魔術『ヒートアップ』に挑戦することが許可される」
なるほど、火魔術をいきなり手に放ったらいくら寒くても火傷するもんな。
なんか分からんが凄く理にかなっていて合理的に教えられてて面白いと思うんだが、どうだろう?
魔術というとどうしてもホグワーツ的な摩訶不思議で少々スピリチュアルなイメージがあるのだが、この教本を見る限り完全に単なる技術なのだ。
俺はある意味他人事だからこんな風に面白がっているが、生徒ふたりは悪戦苦闘している。
ふたりとも詠唱から発動の流れは全く問題なくできるのだが、水球のサイズと飛ばす速度がウォーターボール合格の基準まで満たないのだ。
サイズは自分の掌をいっぱいに開いた大きさが必要とされている。
グレープフルーツくらいかな。
ちょっと計算できないが1リットルくらいなんじゃないだろうか?
これを20歩離れた相手の顔を真っ直ぐ狙って腹に当たる速度で射出できて合格なのだ。
もちろん手で投げる訳ではないので振りかぶったり助走をつけたりしてはならない。
手を固定して発射させるのだ。
俺はこのテストのデモンストレーションとしてバルドムの的にされたんだが、結構な衝撃だった。
受けて分かったんだが、球速は時速100kmくらいある。運動不足解消のために何度かバッティングセンターに行ったことがある俺が言うのだから間違いない。
1キロの質量が100kmでぶつかってくると胸で受けてもバランスを崩すくらいの威力がある。
びしょびしょになって、しかも弾けた水が鼻に入って半べそになっている俺を見て姉妹は手を叩いて喜んでいたけど、今に見ておれよ。
君らにはお互いを的にしてテストを受けてもらうからな。




