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 領主氏の執務室で肉団子の試食会を開く。

 ウルズラ様は試食は旦那に任せるとの事で不参加。

 先日の事があるから王子とあまり顔を合わせたくないのかも知れないな。


 なので参加者は領主氏、宰相氏、料理長、王子、俺の五名。


 皿とフォークを乗せたワゴンはメイドさんが用意してくれた。


 魔術で温め直してから皆に取り分ける。


 料理長氏は肉団子をフォークで割ってよく見て、指で触れて、中まで火が入っている事を確認した。


「豚は火入れをキチンと行わないと危険ですからな」


 割った肉団子を更に半分にしてフォークに刺して鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。


 俺やドワーフの料理の腕を全く信用していないようだ。

 まあ、そうか。


 ようやっと口に入れるといつでも吐き出せるようにか、手にナプキンを取った。


 そして固まる。

 どう?

 美味しいでしょ?


 そして料理長は頷いて言った。


「これは美味いです!」


 それを聞いてやっと領主氏と宰相氏がフォークを手に取った。

 二人とも肉団子を割って少なめに口に入れる。


「ほう」

「これは中々」


 うーん、何だか控えめな評価だな。


 しかし料理長氏はかなり気に入ったようで残りを全て口に入れた。


「今までこうした料理が無かった訳ではないが、これが本当に前脚で、それが簡単にこのような細かな肉に出来るのなら庶民に喜ばれるでしょうな」


 そう言いながら手付かずの俺の皿をじっと見つめて来たので俺は良かったらどうぞと渡す。

 俺はもう食ったからな。


 今度は料理長は肉団子を丸のまま口に放り込んだ。

 そして目を瞑ってじっくりと味わう。


「うーむ、表面はカリッと香ばしく、中身はフワリと軽く、噛み締めると熱々の肉汁と脂が口中に溢れて来る。存分に肉と脂を楽しめるのに玉ねぎが入っているおかげか全体としては重くない。これは子供や病人にも良いですな」


 領主氏がうんうんと頷く。


「そういえば、クラウディオも幼い頃は噛みきれないからと肉を嫌がった時期があったな」


 何それ可愛い。

 いや、てか俺も小ちゃい頃はステーキや焼き肉よりもハンバーグの方が好きだったかも。

 子供の頃って、筋張ったハズレの肉がたまにあるってだけで避けたくなったりするものだよな。


 宰相氏は肉団子を平らげフォークを置いた。


「して、その挽肉器というのはどのような物なのだ?」


 俺は新たに描いた挽肉器の完成予想図と断面図のイラストを宰相氏に渡した。


「ここに、ある程度のサイズにカットした肉を入れてハンドルを回しますと前方に肉が送られ、この部分の刃物にカットされ、この穴から出て来ます」


「ふむ。ここやここはねじ止めを考えているようだが、もっと堅牢に固めてしまったほうが良いのでないか? ネジは加工の工程が多く単価が上がるのでは?」


「仰る通りです。しかし生肉を扱うという性質上、分解して内部の隅々まで洗えるようにする必要があるかと存じます」


「ふむ、なるほどな。して試作品はいつ完成するという話だったか?」


「六月の半ば、我々が王都に発つ前までに完成を目指しております」


 領主と宰相は後ろを向いてボソボソと何か相談事を始めた。

 俺と王子は耳をそばだてて何を話しているか聞き取ろうとしたが、料理長にレシピについて詳しく聞かれてしまい何も聞き取れないまま密談は終わってしまった。


「して、挽肉器は幾らで売るつもりなのだ?」

「もちろん材料費とドワーフの取り分と相談ですが、出来れば銀貨二枚程度で販売出来ればと考えています」


 これは日本円に換算すると二十万円くらいだ。

 ちょっと高いよね。


「二百ラーミか。安すぎるのでは?」

「全国の庶民の利用する肉屋に普及させる事が目標ですので」

「ふむ」


 宰相氏は頷きながらも難しい顔をしていた。

 安すぎて採算が取れないかしら?


「来年の春までにどれくらい用意できる?」

「それはドワーフ次第で、我々はちょっと、、、しかし初年度は王都の有力貴族と幾つかの料理店に渡れば全国に噂が回るのではと考えています。増産はその様子を見ながらでも良いのではないでしょうか」


 宰相に聞かれ王子が応えた。

 何だか新商品のプレゼンを出資者にしてるみたいだな。

 ベンチャー企業の「王子&俺」だな。


 領主氏が口を開く。


「数年は我々が独占をする。しかし数年経ったらシュトレニアにも生産を許可する、というのはどうだ?」


 シュトレニア侯国といえば王子の婚約者のキアラ王女の領土。


 そういえば鉄が豊富に出るのだったな。

 ドワーフも多く移住したと聞く。

 そして技術が伸びず自国製品が売れないという話だった。

 自国で鉄が出るのだったら安く作ることも可能だろう。


「お主がキアラ王女と結婚するのはアカデミーを出た後だが、こうした恩を売っておけば色々とスムーズになる。もちろん結納品の目玉とするのでもよい」


 おお、策士だ!

 札束で頬を叩いてやれば誰もが従順になる。


「そのタイミングは情勢次第ではあるが、、、」


 俺と王子は顔を見合わせて頷いた。


「それで良いです。お任せします」



 そんなやりとりがあって生産ライセンスの譲渡や鉄の輸入に関しては領主と宰相の二人に任せる事になった。



 これは後から聞いた事だが、急激に鉄の輸入を増やすと戦争を起こす準備をしているのではと疑われる事があるらしく領主としては慎重に行う必要があって、それを宰相とこそこそ相談していたらしい。


 大口で一気に鉄を買っても戦争を疑われるが、小口で手広く鉄の買い付けを行っても、あちこちに新商品の噂が回り、スパイがドワーフの工房に立ち入る事態が起きたりと治安が乱れるから取引相手を分散させるのも程々にしなければならなくなり匙加減が難しいとのこと。


 懐中時計の時も、売り出し当初はドワーフの誘拐事件なんかも起きたらしく、新製品の製造には警戒につぐ警戒が必要なのだ。


 言われてみれば納得の状況だけど、ちょっと治安が悪すぎやしないかい?


 警察は何をしてるんだ? 


 それにイリス教はもっとしっかり道徳やモラルを教えなさいよ!


いつもありがとうございます!

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