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ドワーフからの書簡に何が書かれていたのか。
読ませてもらった内容はこんな感じだった。
『我々ドワーフだけでは人口問題が解消できず、長らく王家の通いもないまま年月が流れ、いつしか人族はイリス化が進み、このままポリオリで暮らしても我々の未来は暗雲が立ち込めたままであった。
それならば、いっそのこと慣れ親しんだポリオリを捨て、新天地に向かった同族を追おうかと真剣に協議されることもあった。
その折に、リサ様の手配で第三王子の通いがあったことは、これは大変喜ばしいことである。
また王子の配下のオミクロン殿から提案された肉の微塵切り器は来年以降のポリオリの主力製品となる事が期待されておりドワーフ全体が湧き立っている。
ご長女であらせられるリサ様が仰るには
[ドワーフ族と人族は、盟約すら必要としない友人同士]
なのだそうで、我々はこの言葉を王の言葉として胸に刻む事とした。
その友情を寿ぐ品をご子息に持たせたので納めて欲しい。
同じ品をドワーフの王にも献上するつもりだ』
とまあ大体こんな感じだ。
ドワーフ全員でポリオリを出て行く事を検討していたなんて言われたら、それこそポリオリの財政は立ち行かなくなるのは必至。
だって懐中時計とガラス瓶という、ドワーフが作る製品がポリオリの主力輸出品だもんな。
つまりアーメリア国でポリオリがある程度の地位を獲得しているのはドワーフのおかげなのだ。
ウルズラ様がいくらわがままを言おうともそこだけは覆す事の出来ない事実なのだ。
そんな訳でウルズラ様は黙り、王子の通いが黙認された形となった。
大変喜ばしい事だ。
でも一言いいか?
「王子、ズルくね?」
「何を言う! お主らに置いて行かれた俺の気持ちが分かるか? 直ぐに帰ろうとしても手紙を書くから待っていろなどと言われて、、、」
「何をして待っていたんです?」
「それは、、、食事を振る舞われ、水浴びをして、、、」
「誰と?」
「それは、その、、、」
「ほらやっぱり!」
「違う違う違う! だって深刻な少子高齢化が進んでおるのだぞ? 王家の者として食い止める責務があろう?」
「王子が楽しんでるあいだ僕はずっとウルズラ様に説教されていたんですよ?」
「それは、、、済まなかったな、、、」
「そうですよ! 僕がドワーフのご老人に囲まれて商談してる時にも王子は綺麗どころに膝枕とかしてもらって、、、」
「そうだったのか?」
「そうですよ! その後もドワーフの女の子の腕枕で寝て、顔にも背中にもおっぱい押し付けられて! 王子のハレンチ!」
「知らん知らん!」
「知らないで済むなら軍隊はいらないですよ! 国際問題ですからね?」
聞いていた領主氏が吹き出した。
「あ、、、領主様の御前で失礼しました、、、」
「まあよい。しかし、シュトレニア侯国でも同じような問題が起こる可能性はある。キアラ王女に秘密にするにしても理解してもらうにも、よくよく考えておく必要がある」
「はい」
あー、そりゃ厄介だな。
旦那がドワーフ女子とハレンチ三昧なんて許せる筈もない。
せいぜいキアラ王女に絞られるが良いさ。
因果応報という奴だ。
「そういえば、オミクロン。国史編纂の件で褒美を取らせると言ったが、何か希望はあるか? クラウディオが言うには準男爵の位を与えるのが良いのではないか、という話だったのだが、、、」
「その事ですが、ひとつ褒美としては出過ぎた提案がありまして」
「何だ?」
「ポリオリにも学舎を作ってはいただけないでしょうか?」
「ほう、学舎」
「出来れば城内と市内の両方に」
「市内は分かるが城内は何故だ?」
「文書館で行われていたマッテオ元参謀の歴史授業が余りにも面白いので兵達が楽しみにしています」
「ほう」
「市内でも同じように授業を行えば、民も自然と教養が身に付きますし、勉学への興味も促す事ができるのではないかと思います」
「ふむふむ」
「新しい建物なぞは必要ありません。開催も週に一度程度で良いと思います」
「ふむ、それなら簡単だな。しかしそんな褒美で良いのか? お主の得にはならんだろう?」
「またここポリオリに帰って来た時に面白い本が増えていたら、それが僕への褒美になります」
「ほう」
マッテオの語りをトンマーゾ司書が書き記した物なら俺にも楽しく読める筈だ。
長官が船で長旅に出る時にも旅のお供になってくれるだろう。
「相分かった。お主の願い叶えよう。そしてやはりクラウディオの言う通り準男爵の位も与えるのが相応しいようだな」
「え」
「褒美を与えると言っておるのにポリオリの発展の事を優先して考える御仁には報いるのが王の責務であろう」
「あの」
「とゆうても準男爵だ。領地の割譲はできん。よって土地の管理も納税の義務もない、名前だけの爵位だ。其方の負担にはなるまい」
あー、それなら、、、?
「しかし有事の際には手を貸してもらうことになる」
え、戦争で人殺しをするのはちょっと遠慮させて貰いたい。
そんなことを考えていると王子から突っ込まれた。
「何だその顔は? オミ貴様、俺をひとりで戦地に向かわすつもりか?」
あ、いや、そう言われるとな。
「姉君の命令にしか従わないつもりか?」
そうか、有事の際には長官だって戦争に参加するのか。
だったら同じ事だよな。
俺は覚悟を決めた。
「いえ、今後もポリオリの為に尽力させていく所存でございます」
領主氏も王子も満足げに頷いた。
「うむ、よろしく頼むぞ」
「は!」
マジか。
準が付くとはいえ俺が男爵か。
パラディーノ医師を追い抜いちゃったかな?
お父さんお母さん、あなたたちの息子が男爵ですってよ!
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