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アレッシア姫に氷の花を贈り、それが求婚に当たると聞いて平伏した。
補足すれば、その花が毒の花だったので不敬に当たるかと思い跪いたのだった。
「頭を下げて膝を付くという事は、それは生殺与奪の権を相手に委ねたという事だろう?」
「まあ、そうですかね」
工房のドワーフ氏も跪いて自分を罰しに来たのかと問うていたな。
「あの、領主様に謁見させていただいた時には跪きましたけど、、、?」
「領主とはいえ元は王なのだ。それが普通だ」
そうか、日本で言えば天皇みたいな立ち位置ということだもんな。
「それを女性にした、という事は『一生を貴方の為に使います』という意思表示になる。一般女性にそれをしたら求婚になる」
そうだったか、、、
ちょっとそういう事は予め教えて欲しい。
ヴィート氏にも言われたがマナー講座をちゃんと受けた方がいいかも知れない。
「デビュタントを迎えた王族の子女に傅くのは珍しい事ではない。国によっては騎兵の全員で行うところもあるという」
ああ、何かでそういうの見たことあるかも。
騎士の任命式的なヤツね。
「ウチからも希望者を募ってアレッシアの騎士の任命を行うつもりだったのだ」
あ、そうなの?
「しかし、見たこともない姫に命を差し出すのは流石に無理だろうから次の大きなイベントの時に合わせて募る予定だったのだ」
じゃあ俺は一目見て爆速で騎士入りを決めちゃった気の早い野郎ってことか。
「あの、一生というのは、、、」
王子は軽く笑った。
「安心しろ。それはただの建前だ。良い人が見つかれば皆好きになった女子と結婚している」
そうだったか。
ほら、俺には婚約者がいるからさ。
向こうは忘れてるかも知れないけど一応ね?
「かつては戦で命を落とす者が多かったから、そういう事になったのだろうな。前にも言ったが戦士には命を散らす心の拠り所というのが必要なのだ」
そうだった。
昨日聞いたわ。
俺も死ぬなら女の子の為に死にたいわ。
すごく分かる。
「まあ、お主が妹の騎士になってくれたのは兄として願ってもないことだったのでな。お主が知らずにやっている事は分かっていたが、止めずにそのまま騎士になってもらった」
え、それはどういう事?
ひょっとして妹さんと結婚した方がいい?
それはちょっと、、、ほら僕には婚約者がね?
「他国の王族の面々に対し、騎士の数やその質というのは一種の箔となるのだ。騎士の数が多く、しかも良家の子息が多ければそれだけ姫としての箔がつく」
そういえばキアラ姫のプロフィールにも騎士の欄があったかも。
あれって単純に領主から与えられてる部下の数って意味じゃなかったのか。
護衛の数って言うよりファンの獲得数ってことか。
インフルエンサーかよ。
「お主は有名人である姉君の弟子だし、あの魔法を落とした本人とあれば箔として充分だろう。何しろ我が領は小さく、兵も少ないから全員を騎士としても他国と比べると見劣りがするのだ」
そうか、こないだ山上から農地を見渡したけどカイエンの1/8程度しか無かったもんな。
大きな国と比べたら小さな一地方くらいの感じなのかも知れないな。
それはさておき、俺の評価を高く見積もり過ぎじゃないだろうか。
「仰る事を否定するつもりはないのですか、僕なんかじゃそんな箔は付きませんよね?」
「いいや、充分だ。お主も言っておったろう。噂というのは想像以上に効果を発揮するものだ」
おっと、巨大な尾鰭を付けようとしているな。
「姉君の弟子で他国の魔術兵が腰を抜かすほどの強力な古エルフの魔術を落としてみせ、次期バルベリーニ領主も欲しがった逸材。齢十二にして既に国軍での功績もあり、サナへのパイプも持っている、となればこれはかなり強力な経歴だと思うのだがな」
そう並べれば、そうかも知れないけどさ。
ものは言いようというか。
「そうだ。父に進言してオミに適当な位を陞爵してもらっておくか」
「いやいやいや、いいですいいです!」
「何故だ。爵位くらい持っておった方が何かと便利だろう?」
「平民でいいですって。家も稼ぎも無いんだから税も納めらんないですって!」
「しかし準男爵くらいなら、、、まあ、それも姉君と相談だな」
俺の意思を除外しないで!
いや、待てよ?
爵位があれば村に凱旋した時にそれこそ箔が付くかもな。
『やあイータ、ようやく僕が迎えに来たよ。僕はもう男爵なんだ。君は今日から男爵夫人だよ?』
いやいやいや、無いわ。
そもそも俺は社会的地位を自慢する系の人物が苦手、、、はっきり言えば嫌いなのだ。
何?
それは俺がザコいコンビニの雇われ店長だからだって?
やかましいわい。




